中谷雄二弁護士「今の政府には『法律は、できてしまえばこっちのもの。あとは勝手に運用します』という言葉が当てはまる」 〜秘密保全法学習会 2013.10.22

記事公開日:2013.10.25取材地: 動画
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(IWJテキストスタッフ 富田/奥松)

 「国家秘密の保全に関しては、現行法(国家公務員法)で十分足りているのが実情だ」──。2013年10月22日(火)に名古屋市栄の市民活動推進センターで行われた、秘密保全法(特定秘密保護法)に関する学習会で、講師を務めた中谷雄二氏(弁護士)は、こう指摘した。

 「『秘密保護法』の名の下に、国民のプライバシーが丸裸にされる」。安倍政権が臨時国会で同法案の成立を狙っていることに、強い懸念を表明した中谷氏は、「国家秘密漏洩をめぐる『厳罰化』は本当に必要なのか」と訴えた。

■全編動画

  • 日時 2013年10月22日(火)
  • 場所 市民活動推進センター(愛知県名古屋市)
  • 主催 アムネスティ・インターナショナル日本 なごや栄グループ (15G)

 まず、約30年ほど前に浮上した「国家秘密法案」への言及から講義はスタートした。自民党が1985年に議員立法で提出したこの法案は、スパイ行為での最高刑を死刑とするものだったが、当時の野党やメディア、世論がこれに猛反発したことを受け、廃案となった。中谷氏は「対象にされたのは、スパイを働いた人やそれを助けた人で、私は当時、この法案が成立すれば、日本の民主主義は死滅すると恐れた」と振り返り、その理由を「なぜなら、国家権力が隠したい情報を隠せるようになり、その隠された情報に接近しようとした人に重罰が課せられるためだ」と語った。

 中谷氏は特定秘密保護法案は、この国家秘密法案の復活とも言えると主張した。「秘密保護法案では、最高で懲役10年の重罰が課せられる。現在の国家公務員法では、秘密を漏らした公務員は1年以下の懲役。法案成立を狙う政府は『もはや、現行法程度の処罰では国家の重要秘密は守られない』と主張している」。

「尖閣諸島漁船衝突ビデオ」流出は理由にならず

 中谷氏は「政府の言い分は一見もっともらしいが、現実に即していない」と断じた。秘密保護法案の成立を狙う政府によって、学者らが招集された有識者会議が、2011年8月に発表した報告書がある。中谷氏はそれを取り上げて、「報告書では、過去に実際にあった秘密漏洩の事案を示して、法案成立の必要性を訴えているが、そのどれもが1年の懲役に当該するようなものではなく、大半は起訴猶予に相当するものだった」と説明した。

 「いったい日本のどこに、懲役10年もの厳罰を課さねばならない(国の安全にかかわる)情報漏えい事案が存在するのか」と続けた中谷氏は、「現行法(国家公務員法)で十分に対応できるにもかかわらず、あえて秘密保護法を導入する理由がわからない」と強調。「有識者会議には、当時の仙石官房長官が出席した。仙石氏は法案成立の必要性を『尖閣諸島漁船衝突ビデオの流出』で訴えたが、あの動画は、海上保安庁の職員であれば誰でも見ることができたもの。秘密保護の立場での処罰対象には相当しない」との認識を示した。

 また中谷氏は、今の与党議員からなされている、「今後、諸外国からテロ行為がらみの重要情報が日本政府に提供されること考慮すると、現行法では力不足」との説明に、「では一体、どんな情報が提供されるというのか。具体的な話は一切ない。『そういう情報が提供されるようになるだろう』という、ぼんやりとした見方だけで、刑の厳罰化が推し進められるのは遺憾だ」と、改めて反論した。

「秘密保護法に一般人は関係ない」の嘘

 中谷氏は厳罰化以外にも、秘密保護法案には問題視すべき部分がある、と指摘。それは「人的管理(適正評価制度)」であり、国家秘密法案にはなかったものだ。

 適正評価制度は、政府が信頼できる人に「秘密」を扱わせることが目的。政府が、その候補者と配偶者や友人らの借金の有無、犯罪歴、精神疾患歴などを含むプライバシーを徹底的に調べ上げる内容だ。「防衛庁から委託されてモノを作っているような。民間企業に働く一般労働者も対象になり得る」とした中谷氏は、「秘密保護」の名の下で国家が個人のプライバシーを、法的根拠をタテにして強制的に丸裸にする時代の幕開けが迫りつつある、と警告。「そうなったら、重大な人権侵害だ」と訴え、秘密保護法案の成立は違憲立法に当たる、との考えを示した。「国民は、自民党の議員の言うことを鵜呑みにして『秘密保護法の問題はあくまでも国家公務員が対象、自分たち一般人は無関係』とタカをくくってはならない」。

短期間にパブコメを募集。反対意見は「組織票」と決めつける

 また、中谷氏は同法案にある「特定秘密」と「特定取得行為」の概念の曖昧さも見落とせないとした。「メディアの取材活動の萎縮につながる恐れがある」と力を込め、政府がその時々で、触れられたくない情報へのジャーナリストらの接近を阻止するために、これら概念が恣意的に解釈される恐れがあることを知ってほしい、と訴えた。「同法案が成立すれば『秘密』を探ろうとするジャーナリストらを、国が監視するようになる公算は大きい」。

 さらには、同法案に対し、政府が広く国民から意見を募るパブリックコメントの方法にも問題があると力説。15日間という異例の募集期間の短さには、「意図的に国民的議論を避けて、法案成立へと押し進めたい政府の本音がにじんでいる」と指摘し、次のように述べた。「より問題なのは、短期間にもかかわらず集まった9万件近い意見の約8割が、同法案に反対という結果について、自民党の町村信孝衆議院議員(元内閣官房長官)が『組織的な意見が寄せられたに違いない』という趣旨の発言をしたこと。あれは、国民を馬鹿にし、民主主義を馬鹿にしたものだ」。

96条改正を後回しに追い込んだ「民意」の力

 中谷氏は「今、自民党は焦っている」と言明した。「パブコメの結果が出た直後に、法案を修正する話が出始めたのが何よりの証拠で、『報道の自由』や『知る権利』への配慮がなされるようになった」。その上で、パブコメでの「8割が反対」の結果に自信を持ってほしいと語気を強め、次のように熱弁をふるった。

 「秘密保護法案は、上程が秒読み段階に入った。国家安全保障会議(日本版NSC)創設関連法案と併せて審議される模様で、『ここまで来ると、もうダメだ』と諦めてしまう人が大勢いる。しかし、私はちっとも諦めていない。パブコメの結果は、私たち有志にとって勝利を意味する。そう、私たち有志が諦めたら政府の思うツボなのだ。彼らは『民意』を恐れている。あの憲法96条の改正ですら国民世論の反発を受け、後回しにさせたではないか。急務なのは、秘密保護法の怖さの周知徹底だ」。

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