2013年3月11日(月)11時30分、東京都内において、「市民と科学者の内部被曝問題研究会」のメンバーに、岩上安身がインタビューを行った。インタビューには、同研究会の代表で名古屋大学名誉教授の沢田昭二氏(物理学者)のほか、深川市立病院内科部長の松崎道幸氏(医学博士)、琉球大学名誉教授の矢ヶ崎克馬氏(物理学者)、筑波大学名誉教授の生井兵治氏(農林学者)が出席し、内部被曝に関して、それぞれの見解を述べた。
沢田氏は、「世界的な核兵器政策や、原発推進政策に従属する形で、放射能の影響を研究している体制があるが、その体制を絶やしていくことは、福島原発事故で苦しむ人を救援し、被曝の影響を避けるという意味でも意義がある」と述べたほか、「内部被曝の問題を明らかにすることは、核兵器をなくしていくために役立つ」と語った。
松崎氏は、「妊娠・出産で、次の世代に影響が現れることが、チェルノブイリで報告されている。老化が早まる現象も報告されている」と述べた上で、「放射線はガンも含めて、全ての病気を増やす力がある。できるだけ、追加の被曝を抑えることが必要である」と指摘した。
矢ヶ崎氏は、「チェルノブイリ周辺国の住民は、放射線から保護されているのに、日本ではなぜ保護されないのか」と怒りを込めて語り、「これは、生存権、基本的人権の問題である。このことを私たちがきちんと認識し、人権要求をしなければ、被曝させられっ放しの状況が続く」と熱弁を振るった。
生井氏は、「地球上のあらゆる生命は、『子孫をいかに残すか』に最大の精力を注いでいる」と述べた上で、「子孫を守らない、育てようとしない集団、あるいは生き物の種(しゅ)は、滅びる。残念ながら、人類はその最先端を走ってしまっている」と警鐘を鳴らした。
沢田昭二氏の発言要旨(名古屋大学名誉教授・物理学者)
安倍内閣になってからも、原子力規制委員会が色々な施策を出そうとしている。ひとつは原発の安全性に関する施策で、もうひとつは住民の避難に関する施策。いずれも原発を推進する立場の施策だと思う。その根源には世界的な核兵器政策や原発推進政策に従属する形で、放射能の影響を研究している体制がある。その体制を絶やしていくことは、福島原発事故で苦しむ人を救援し、被曝の影響を避けるという意味でも意義がある。明確化していくべきである。
国際的な放射線防護体制はおかしい。その一番の根源は、広島や長崎の被爆者の放射線による影響を研究してきた米ABCC(原爆障害調査委員会、1947年設立)にさかのぼる。1975年からは日米共同運営の放射線影響研究所(放影研)が引き継いだ。放影研は、原爆が爆発した瞬間に被爆者に到達した初期放射線(透過力の強いガンマ線や中性子線)の影響だけを考え、原爆投下によって上空にできた「原子雲」から降ってきた、放射能を帯びたいわゆる「黒い雨」や、地上に到達する前に蒸発した雨に含まれていた放射性微粒子の影響、内部被曝の問題を軽視してきた。
未解明な点が多い内部被曝の影響を明らかにすることは、人類全体にとって大事だ。福島原発事故による大部分の影響は、原爆被爆者の放射性降下物による被曝影響と共通性があるはずだが、放影研はそれを無視してきた。
放影研は昨年12月8日、黒い雨の影響についての見解を発表した。広島で黒い雨に遭った人と遭わなかった人を比較し、固形ガン(いわゆるガンと一般的にいわれるもの、白血病を除く)の発症による死亡率を調べたが、「両者の死亡率に違いはみられない。従って、黒い雨の影響はなかったと考えられる」という内容であった。しかし、我々の見解は異なる。黒い雨は原子雲から落ちてきたが、雨に遭わなかった人も、雨が途中で蒸発することによって、それまで雨に含まれていた放射性微粒子が地上に降下してくるので、それを呼吸や飲食で取り込み被曝している。その影響が無視されている。
私や広島大学原爆放射線医科学研究所の研究によると、爆心地から1.2kmの範囲内は、初期放射線による外部被曝による影響が主なものである。しかし1.2kmを超えると、放射性降下物による内部被曝の影響が大きいということが分かってきた。雨が降っていない地域かつ初期放射線が到達していない場所でも、髪の毛が抜けるといった放射線被曝症状が発現しており、放射性微粒子の影響であると考えられる。しかし、政府や放影研はそれを認めようとしない。
原爆投下後、ABCCは住民を対象とした脱毛調査を実施した。その結果、初期放射線がほとんど届いていないはずの爆心地から2km以上離れた場所においても、脱毛症状がみられたということが分かっている。にもかかわらず、政府や放影研は、「理由はよく分からない。恐らく原爆投下による精神的ショックにより脱毛したのではないか」と言っている。しかし、脱毛症状は広島と長崎以外では見られない。戦時下では、日本各地で200ヶ所以上が空襲を受けた。国民の緊張感、ストレスは相当なものであったはず。しかも、脱毛といっても、円形脱毛ではなく、頭全体の毛が抜け落ちているのである。
脱毛以外にも、紫斑や下痢についても調査がなされている。広島の於保源作医師によると、内出血によってできる紫斑の発症率は、脱毛の発症率と似た傾向を示している。一方、下痢の発症率は爆心地から離れた場所においても、脱毛や紫斑よりも高い数値を示す。これは、腸の細胞が体の内側から長時間放射線にさらされたことによる影響、すなわち内部被曝による影響がより強かったためであると考えられる。
なぜ、政府や放影研は、「初期放射線しか人体に影響がない」と言い続けるのか。それは、国際人道法によって、長期間かつ広範囲に影響を及ぼす兵器は使ってはならないことになっているからであると考えられる。核兵器保有国は、核の傘による安全保障、いわゆる核抑止論というごまかしを行っている。これに対して、世界の140カ国ほどの国々は、「核兵器の問題は人道的な問題」と言っている。核兵器は内部被曝による健康被害をもたらす。内部被曝の問題を明らかにすることは、核兵器をなくしていくために役立つと言える。
本日「内部被曝問題研究会」の中継を見ましたが、その中で生井兵治さんが、紹介したい本の題名を失念されていたので、お知らせします。
紹介された本は、岩波書店『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』(NY科学アカデミー、2013年4月26日発売)です。
以下のブログに内容が紹介されています。http://chernobyl25.blogspot.jp/p/blog-page_10.html