「マスク、いったいどこにあるの? っていう国民の不安が続いてはならない。正確な情報を迅速に国民に伝えることは、政府の大きな責任である」
2020年3月30日、東京都千代田区丸の内二重橋ビルにて、日本外国特派員協会(FCCJ)の主催により、自由民主党・石破茂衆議院議員の記者会見が開かれた。
▲石破茂衆議院議員(2020年3月30日、IWJ撮影)
昨今の新型コロナウイルスの感染拡大を巡って、石破氏は上記のように述べ、「今後は国民の移動など、権利の制限を伴うことも起こりうる」と、緊急事態宣言にも言い及び、その後にこう続けた。
「それは何のために行うのか。どういう状況になれば終わるのか。それによって生じた損害をどのように補填していくか。国民が納得するための、より誠実な政府の姿勢が求められる」。とそう語り、安倍総理を筆頭に、これまでの自民党の政治家達が、決して口にしなかった、私権の制限を伴う緊急事態条項のマイナスの側面について言及した。
なお、この翌週の4月7日、安倍晋三総理は東京、大阪など7都府県を対象に緊急事態宣言を発令した。期間は5月6日までで、ロックダウン(都市封鎖)は行わない。また、営業の休止を求められた事業者への損失補填はしない方針だ。
会見の冒頭で石破氏は、前日の3月29日に新型コロナウイルスによる肺炎で逝去したタレントの志村けん氏(享年70)について、「70歳といえば、まだ若い。それがごく短期間で症状が変化し、亡くなった。これが新型コロナウイルスの恐ろしいところであり、国民はその事を強く認識することとなるだろう」と述べた。
次いで、「私は感染症の専門家ではないが」と前置きしつつ、2018年にジョンズ・ホプキンズ大学が発表した感染症に関する論文、および1918年に世界中で大流行し、日本でも45万人が死亡した「スペイン風邪」等について紹介。特に、ウイルスの変異による致死率の上昇に注意を促した。
また、今回、アメリカやヨーロッパに比べて、日本における感染が少ない理由として、日本の衛生水準や衛生意識がきわめて高いこと、経済的困窮者でも医療にアクセスできる医療制度が整っていること、水がきれいで豊富なこと、医療従事者の勤勉さなどを挙げた。
そして、「今はやるべきことの優先順位をはっきりさせることが重要だ」とし、 医療崩壊を阻止するためには、国民の移動の制限も含めて、感染拡大を防ぐためにあらゆる措置を講じるべきだと説いた。
さらに、「中小・零細企業、およびフリーランスなど、現在非常に困っている人々に対しては、つなぎ資金の提供を中心とする経済的支援を速やかに行い、その際、無審査・無担保ということも考えるべきであり、マイナンバー制度を活用することで確実な返済を担保できる」との持論を展開した。
東京オリンピックが1年延期となったことについては、「安倍総理がおっしゃるように、『ウイルスに打ち勝った証』として、東京オリンピックを開催することは重要だ。あらゆる対策を施し、新型コロナウイルスが収束に向かった結果として、1年後にオリンピック開催が可能になる。オリンピックの開催自体が、自己目的化してはならない」と強調した。
新型コロナウイルスの恐ろしさは短期間で劇的に症状が変化すること。ウイルスの変異を軽くみてはいけない!
石破茂衆議院議員「こういう機会をいただきました。まことにありがとうございます。自民党衆議院議員の石破茂でございます。
おそらく、今日の昼のトップニュースは、志村けんさんが亡くなったということだと思いますね。外国のメディアの方はどれくらいご存じか存じませんが、私が高校生、大学生の頃、ほんとに大人気で、今も人気を保っておった方です。
ご案内かと思いますが、今日は3月の30日なのですが、17日、今から2週間ほど前でしょうか、(志村さんは)どうも身体がだるいなあ、倦怠感っていうんですかね、それで自宅で静養しとった。19日に呼吸が困難になり、20日に入院をし、23日にコロナの陽性が判明して、25日から人工心肺をつけて、今日亡くなった、と。まあ、こういうことであります。
えー、70歳といったら、まだ若いですよね。わたしは63なんですけど。そして、身体がだるいなぁと思ってから、劇的に症状が変化をし、人工心肺による治療が行われたにもかかわらず、ごく短い期間で亡くなった、と。これが、コロナウイルスの恐ろしいところであり、国民はそのことを強く認識することになるだろうと思います。
私は感染症の専門家でもなんでもありませんが、2年前、つまり、2018年にジョンズ・ホプキンス大学から、きわめて興味深い論文が発表されておりました。
『今度、流行する感染症は、症状は軽く、自覚症状すらない人も大いにある。そうであるがゆえに、気がつかないままに、どんどん感染を広げる人が出るであろう。致死率が低いために、宿主、ウイルスが寄生している人間、これは死なない。したがって、ウイルスが生き続ける環境が維持されるであろう。致死率が低く、症状が軽いというのは、いいことのように思えるけれども、それは逆なのだ。このウイルスはどんどん感染し、人類の歴史を変えることになるかもしれない』
……というふうに、その論文には書いてあった。それと、同じことが起こっていたのだが、最近の変化は、致死率が意外と高くなりつつあることではないか。致死率が高くなることと比例をして、感染力は強くなりつつあるのではないか。ウイルスの変異というものを、軽くみてはいけない。
1918年から3年間にかけて、世界で大流行した『スペイン風邪』というのがあった。日本でも45万人が死んだ。当時から比べれば、人口は倍以上になっているのであって、日本の人口は。今の人口にあわせれば(換算すれば)、120万人が死んだ計算になる。
▲病棟で治療を受けるスペイン風邪に罹患した米陸軍基地の兵士(Wikipediaより)
1918年、台湾から帰ってきた大相撲の力士と、第一次世界大戦に参加していた日本の巡洋艦から、その感染が始まった。2018年の暮れに一旦、終息をするのだが、2019年、……失礼、1918年の暮れに、一旦、収束をするのですが、翌年にはウイルスはおそらく変異を起こして、致死率が非常に高くなって、国民の間に広まっていった。ワクチンの存在も、いや、ウイルスの存在も確認されていなかったし、特効薬もなかった。1920年に収まったのは、おそらく集団免疫ができたからではないかと言われている。
当時と比べて医学は格段に進歩した。今回(新型コロナウイルスについて)、今後の予測は難しいが、日本における感染がまだ、アメリカ、ヨーロッパに比べて強くない理由としては、次のようなことが考えられる。
日本の衛生水準、そして、日本人の衛生意識はきわめて高いこと。どんなに経済的に困窮している者でも、医療にアクセスできるという医療制度が整っていること。水がきれいで豊富なこと。あるいは、医療従事者が非常に勤勉であること。そして、CTスキャンの普及率がきわめて高いこと。そのようなことが要因であると考えられる。
国民の「マスク、どこにあるの?」という不安が続いてはいけない。政府には正確な情報を迅速に伝える誠実な姿勢が求められる!
今、必要なことは、優先順位を明確にして行うことである。感染拡大を阻止するために、あらゆる対策を行うこと。それは移動の制限を伴うことになる。これを行うことにより、医療現場の崩壊を阻止すること。そして、医療現場に対する可能な限りの支援を行うこと。
中小零細企業、あるいは、フリーランスの人々。そのように非常に困っている人たちに、つなぎ資金の提供を中心とする経済的支援を、速やかに行うことです。無審査、無担保ということも考えるべきである。マイナンバーによる管理をきちんと行うことにより、返済というものを確実にすることは可能である。
オリンピックが1年延期になった。それは妥当な判断であるし、国民もそのように評価をしている。安倍総理がおっしゃるように、『ウイルスに打ち勝った証として』、東京オリンピックを開催するというのはきわめて重要だ。
あらゆる対策を施し、それが効果を上げ、そして、これは日本の努力では限界があるけれども、世界において、新型コロナウイルスが収束に向かった、その結果として、1年後にオリンピックが開催されることが可能になるのであり、オリンピックの開催それ自体が自己目的でないのは当然である。総理が言う『打ち勝った証として』というのは、そういう意味において理解すべきだと考えています。
極端な人口の減少が、日本の最重要課題であることに変わりはない。社会保障の改革と、税制の抜本的見直しを行わないかぎり、この国の財政は、差す手などない。実現しないままに今日まできた防災省の創設とか、CDCの創設を、今回、解決しなければならない課題であると考える。今回の新型コロナというものを契機として、こういうものに答えを出すのが日本政府の責任である。
安全保障のあり方。すなわち、北朝鮮はミサイルの発射を最近、繰り返しているのであり、あるいは、尖閣領域の状況もきわめて緊迫している。安全保障の体制の見直しも、これを機に抜本的に行うべきものである。
なお、経済的影響については、数千億円から数兆円まで非常に予測に幅があり、断定的なことは申し上げられない。しかし、日本の輸入の7割はドル決済で行われているのであり、わが国がドルの資金というものを安定的に確保するということは、きわめて重要だと考えられる。
政府として、正確な情報を迅速に国民に伝えるということは、きわめて大きな責任であり、『マスク、いったいどこにあるの?』っていう不安を国民が持っているようなことが続いてはならない。
国民のいろいろな、移動を始めとして、権利の制限を伴うことは、今後、起こりうることであるが、それは、いったい何のために行うのか、どういう状況になればそれは終わるのか、それによって生じた損害をどのように補填していくか、ということについて、国民が納得するための、より誠実な政府の姿勢というものが求められている、と私は考えている。すみません、時間を超過しました。以上で終わります」
オリンピック延期発表と感染者数の急増に関連!? 「そこに政治的思惑があるのだとしたら国民のためにはならない。今は人類の将来を考えることが最優先」
記者からの質問とそれに対する石破氏の応答が始まった。
質問1(英語):「東京オリンピック延期の発表後から、急に新型コロナウイルスの感染者数が増加しているが、隠れていたものがあったのではないか。また、この感染拡大が今後の日本の政治に与える影響をどう考えるか」
▲質問に答える石破茂衆議院議員(2020年3月30日、IWJ撮影)
石破議員「うーん。これは、なぜ延期を発表するタイミングと、感染者の拡大が一致をしたのか、ということについてね、それは、私にはわかりません。(自分は)政府の中にもいないので、それはわかりません。そこに、いろんな政治的な思惑というものがあるとすれば、それは国民のためにはならないものであって、すべての決定は国民のために行われた、と私は信じたい。
そして、政治に与える影響というのは、今日は政治部の方も多くいらっしゃっているようであるが、じゃあ(衆議院の)解散はどうなるのだ、いつの時期に行われるのだ、本来、この夏にオリンピックを大成功に終わらせ、その勢いで解散すれば与党は大勝利を収め、えー、安倍さんの求心力は増すはずだった、と。
しかしそれが、延期によって、そのシナリオが実現不可能になったので、さあ、どうするのだ、という記事を最近多く見かける。うーん、そしてポスト安倍の人たち、含む私も、『戦略の見直しを迫られている』と。ああ、そうですか(笑)。
きれいごとを言うようだが、どうやって、これが日本において終息をし、世界において終息をし、そして、これを契機として、新しい世界のあり方、日本のあり方を確立するか、というのが重要なことなのであって、まず、それをきちんと考えましょう、ということだと思います。
結果として、選挙の時期とか、ポスト安倍とか、そういうものには影響あるかもしれない。しかし、それはあくまで結果として、ということであって、いかにして世界と国家と人類の将来を考えるか、ということが最優先だと思っています」
日本政府の初期対応には不備もあった。だが、習近平国家主席の来日を忖度して、中国からの入国制限が遅れたとは思いたくない