現在、カナダから帰国中の小笠原みどり氏が、8月20日に千駄ヶ谷区民会館にて講演を行った。
元朝日新聞の記者の小笠原みどり氏は、カナダ在住のジャーナリストで、監視問題の研究者でもあり、日本人として初めてエドワード・スノーデン氏へのインタビューを実現させた。今回の講演で、徐々に明らかになってきた、アメリカが世界中に張り巡らす監視システム対して、日本政府がどのように加担してきたかについて話した。
エドワード・スノーデンは、アメリカ国家安全保障局(NSA:National Security Agency)の元契約職員であり、アメリカ政府による世界規模の監視活動を2013年に内部文書によって告発したことで知られる。
個人情報は、普段、政府が管理しているのではなく、パソコンや携帯などを製造販売している民間企業やインターネットプロバイダーによって保護されているはずである。しかし、通信機器使用者の知らないところで、民間企業とアメリカ政府間で情報のやりとりがあったこと、サーバーへのアクセスを許可していたことなどがスノーデン氏の告発文書で明らかになった。情報漏洩により、スパイと国家機密窃取の罪で起訴されたスノーデン氏はロシアに亡命し、現在もロシアに住んでいる。
岩上安身は2016年に小笠原氏に単独インタビューを行っている。こちらもぜひご覧いただきたい。
小笠原氏がスノーデン氏にインタビューした後、2017年4月に日本関連文書が公開された。1年後の2018年5月に公開されたものも合わせ、日本と直接関係のある文書は約20点ある。スノーデン氏はこれらの文書を公開することで、日本の民主主義が非常に危険な状態にあり、政府と国民の力の差がますます開いていくという警告をしたかったのだ。政府が国民の情報を監視することは、一方的な透明性が高まるだけで、逆に国民の側からは、政府の行動がわかりづらくなっている。つまり、透明性の均衡が失われつつあるというのがスノーデン氏の主張であった。
NHKはこの日本関連文書公開をスクープとし、特番を作った。これに対して、小笠原氏は「意味がわからなかった。というのは、中身が空っぽだったんですね」と指摘。「(スクープを手にした報道機関が)日本は専守防衛の国なんでウサギの長い耳を持たないといけませんね、という結論はあまりにも場違いというか、私にとってはクエスチョンマーク以外の何物でもなかったですね」と批判し、これをきっかけに自ら日本関連文書の分析を始めた。
六本木のヘリポートにあったNSAアジトがアメリカ大使館に移設されたことについて、小笠原氏は違法に集められたデータが大使館のような外交の前線で、大使や権力者と共有されることは、彼らの意思決定に大きな影響を与え、なおかつ、民主主義的なコントロールを受けていないNSAが発言力を高めることは、「超法規的なシステムが集めてきたデータ」が権力者を動かすことにつながると危機感を示した。
また、羽田空港でも導入された顔認証ゲートについて、顔色などから気分を判断したり、病気にかかっているかどうかの判断が可能となったりする開発が進んでいるとし、これにもとづいた保険料の増加などもあり得ると話した。
このような、一見便利だと思われる技術の根底には、監視やデータ収集があり、金儲けや権力の強化につながってしまう。現実性のない話のようで、集められた情報はAI兵器に使用され、殺人ロボット開発にもつながる。戦争の被害を拡大する恐ろしい話である。小笠原氏は「(AIの)技術を牽引する力として戦争と監視が大きな予算と力を握っている。だから、ここの予算を、減らすことって大事だと思います。具体的には、法規制もそうですけど、お金を与えない、こういう部門に。そういうことにも、目を配っていかなきゃいけないかなと思っています」と講演を締めくくった。
岩上安身はスノーデン氏の内部告発を描いた映画『スノーデン』の監督、オリバー・ストーン氏に直撃質問をしている。こちらもぜひご覧いただきたい。