2011年の福島第一原発事故を受け、日本の原発にはシビアアクシデントを想定した新しい規制基準が策定され、2013年7月に施行された。新規制基準は、大規模な自然災害のほか原発に対するテロ行為も想定した対策を定めており、すでに許可を得た既存の原発に対しても適合を義務付ける「バックフィット制度」を導入している。
しかし、現在、再稼働している関西電力の高浜原発、大飯原発、四国電力の伊方原発、九州電力の川内原発、玄海原発では、テロを想定した特別施設の設置が大幅に遅れており、すでに「新規制基準施行から5年以内」という期限を「原子炉工事計画の認可から5年以内」に変更して猶予期間を設けていた。電力各社はさらなる期限延長を求めていたが、原子力規制委員会は延長を認めない決定を下した。
2019年4月24日、東京都港区の原子力規制委員会にて、第5回原子力規制委員会が開かれ、第8回主要原子力施設設置者(被規制者)の原子力部門の責任者との意見交換会(CNO会議)を受けて、特定重大事故等対処施設の問題などを議論した。
原子力規制委員会の更田豊志(ふけたとよし)委員長は、電力会社側が「(工事の大規模化など)状況変化により、特定重大事故等対処施設の完成が期限に間に合わなくなりつつある」とCNO会議で主張していると伝え、「5年間という期間を再検討する状況変化があったのか」「運転期間中に期限を迎えた原発には、どう対処するのか」という2つのポイントを提示した。
4人の委員からは、電力会社の主張は期間延長の理由にはならないとの見解が示され、更田委員長も、「期限がきても原子力施設の状態に変化はないが、一定期間内に安全性向上に関する措置を完了できないからと先送りしては、バックフィットはできなくなる」と指摘。「5年の期間を変更する理由に『状況変化』はあたらない。経過期間は、現在定まっている『工事計画認可を受けた日から5年間』で変わらない」と結論づけた。
また、期限後の原発の運転に関して更田委員長は、「技術的というより、むしろ規制の根幹に関わるところ」とした上で、「サイクルの途中で運転を止めることは、リスク上のデメリットがあることは事実だが、影響としては無視しうるもの。したがって、基準不適合状態に達したもの、ようするに、期限を迎えても(対処施設が)完成していない原子力施設は利用停止」と明言し、規制委員会の立場を明確にした。
これによって、今後、再稼働済みの全ての原発において、運転停止の可能性が高まってきた。
さらに、2018年7月に発足した原子力エネルギー協議会(以下、ATENA)に対する規制委員会のスタンスも示された。
ATENAは、原子力産業界の自律的かつ継続的な安全性向上の取り組みを定着させるため、事業者とメーカーで設立された新組織で、これまで電気事業連合会(電事連)が担ってきた規制対応の機能は、ATENAが一元的に担うこととなる。更田委員長は、「ATENAができたからといって、ATENAが規制委員会と電力事業者のバリアになってはならない。当面は、ATENAと対話して様子を見ることになる。これは産業界の規制当局に対する接し方の問題だから、規制委員会の対応に変化はない」と語った。
伴信彦委員は、改正案が示された「安定ヨウ素剤の配布・服用に当たって」の「40歳以上の者へのヨウ素の効果」の項目について、「(広島、長崎の)原爆被曝者の疫学調査とチェルノブイリ原発事故での調査でわかっていることは、大人が被曝した場合のリスク上昇がなく、青年期を含めた子どもはリスクの上昇が認められるということ。『40歳』という基準は、便宜上WHOが出しているだけなので、この記述は正確ではない」と修正を求めた。
これを受け、更田委員長は、「関心が高い項目だから、説明とエビデンスは丁寧であるべき。したがって、伴委員の意見を踏まえて、改めて改正案を諮るべき」と事務方に要請した。
原子力人材育成等推進事業費補助金事業に応募した京都大学が、事業を実施できず補助金を返還することになった問題に関しても、今後の対策が議論された。更田委員長は各委員の意見を踏まえて、「京都大学複合原子力科学研究所長が念書を出すのであれば、自身がこの事業で果たすべきだったが果たせなかった責任について、明確に書くこと。その上で、新規採択の事業ではどうするのかを文書で明確にすることを前提に、すでに採択を決めた事業については執行を認める」とまとめた。
原子力発電所等における基準地震動のうち、震源を特定せず策定する地震動(Mw6.5 未満の地震)は、共通に適用できる地震動の策定方法の明確化が求められており、規制委員会内の検討チームで標準応答スペクトル(案)の作成が進んでいる。更田委員長は、「作成案は、距離補正について改善の余地があることから継続検討となるだろう。しかし、『素晴らしいものができるまで待ちましょう』が一番危険な行為であることは、福島第一原発事故の教訓だ。したがって、現時点で得られる知識をきちんと規制に反映していく」と述べた。