東日本大震災による福島第一原発事故の反省を元に、国は、航空機が原発に突っ込むようなテロ犯罪まで想定した新しい規制基準を定めた。しかし、既存の原発をこれに適合させるには大規模な工事が必要で、関西電力、四国電力、九州電力が再稼働させている原発では、「原子炉工事計画の認可から5年以内」という特定重大事故等対処施設(以下、特重施設)の設置期限をクリアすることはできない見通しだ。
2019年4月23日、東京都千代田区の衆議院第一議員会館にて、脱原発弁護団全国連絡会による緊急記者会見「次の原発重大事故を防ぐために特定重大事故等対処施設の期限厳守を求める」が開かれた。河合弘之氏(弁護士)、海渡雄一氏(弁護士)、平岡秀夫氏(弁護士・元法務大臣)、大河陽子氏(弁護士)らが見解を述べた。
海渡雄一弁護士は、「特重施設を各原発に設けなければいけないことが、新規制基準で決まっている。当初は基準制定後、5年以内に作るとなっていたが、再稼動が進まなかったこともあり、『新規制基準にもとづく工事認可日から5年』へと延長されている。それが『この期限に間に合わないから、さらに延長を認めてほしい』と電力会社側が言っている。これを認めると、将来、福島原発事故のような深刻な事故を繰り返す恐れがある。原子力規制委員会は電力会社の圧力に負けることなく、『認可から5年で作れなければ(原発を)止める』という毅然とした態度をとっていただきたい」と要請した。
大河陽子弁護士は、2019年4月17日に行われた第8回主要原子力施設設置者の原子力部門の責任者との意見交換会(CNO会議)の内容に言及して、こう話した。
「CNO会議は、関西電力の取締役が『5年でできると思っていたけれど、見通しが甘かったです』と言うところから始まる。それを聞いて(原子力規制委員会の)山中伸介委員は『5年と基準で定めているのだから、それを満たさない場合は基準不適合ですね』と明快な回答を述べている。更田豊志委員長は『いったん定めた経過期間をずるずる延ばすことではない』とも言っている。ただし、規制委員会は5人の合議制なので、この意見交換会では結論は出していない」
脱原発弁護団全国連絡会共同代表の河合弘之弁護士は、「テロがあったら、特重施設がなければダメだから、特重施設を作れと言ったのに、5年間猶予すること自体がおかしい。まして『認可から5年』と延期したのもおかしい。おかしいことが続いているのに、今度はそれも守れないから勘弁してくれ、とは非論理的である。私たちは、規制委員会の毅然たる態度を期待、要求する。しかし、馴れあい的な決定を下すのではないかと危惧している」と懸念を示した。
平岡秀夫弁護士は、「新たな規制基準では、経過措置期間後に規制基準を満たしていない施設は、運転の前提条件を満たさないと判断することから『稼働できない』というのが論理的結論。今、特重施設の申請工事を進めている3社と、今後、設計を進めていくBWR(沸騰水型原子炉)プラントでも工事期間は超過する見込みである。つまり、『みんなで渡れば怖くない』という意識で、電力会社が圧力をかけてきていると言わざるを得ない。このような電力会社の意向で規制が変わることは、原子力規制委員会の設置趣旨からしておかしいことであり、認めてはならない。前提条件を満たさなければ、(原発の運転を)止めることをしっかりと示してもらいたい」と訴えた。