毎月勤労統計の不正調査問題をめぐって、2月22日、衆議院本館で野党合同ヒアリングが行われた。毎月勤労統計のサンプル入れ替え方法の変更について、官邸の関与の可能性が濃厚となってきた。
毎月勤労統計の「改善」に向けて2015年に設置された有識者検討会の座長である阿部正浩・中央大学教授に対して、厚生労働省職員が同年9月に送っていたメールが、2月22日、公開された。立憲民主党の逢坂誠二衆議院議員は、このメールの内容を踏まえ、ヒアリングの場で次のように追及した。
「(9月14日のメールには)『委員以外の関係者と調整している中で、サンプルの入れ替え方法について、部分入れ替え方式で行うべきだとの意見が出てきました』と。委員以外の関係者と調整しているということですね。(中略)委員以外ですよ! 何のための検討会かわからないということになるわけです」
2015年8月7日の検討会第5回会合では、従来通りの方法である「総入れ替え方式が適当」との判断が下された。
ところが、同年9月14日に、「委員以外の関係者と調整している中で、サンプルの入れ替え方法について、部分入れ替え方式で行うべきだとの意見が出てきました」と記されたメールが、検討会の座長である阿部教授のもとに届いた。そして16日の検討会第6回会合で急遽、部分入れ替え方式が選択肢に含まれた。
この急な方針転換は、「委員以外の関係者」の影響が強いのではないか。逢坂議員や国民民主党の山井和則衆院議員は、「委員以外の関係者」とは中江元哉元総理秘書官(現財務省関税局長)ではないのか、と追及するも、ヒアリングに出席した厚労省の担当者は答えなかった。
さらに、第6回会合が開かれる前の9月4日のメールには、「官邸の関係者に説明している段階であります」と記されていた。
逢坂議員は、「9月4日にこういうことをやっている。逐一官邸関係者に説明していたんじゃないですか? 本当に驚きですよ。まったく今までの答弁と違う。騙されていた、そう思わざるを得ない」と憤った。「委員以外の関係者」が「官邸関係者」で、官邸の意向を強く受けて、検討会の判断が歪められた。このように疑わざるをえない。
以下、22日の野党合同ヒアリングの一部の文字起こしを掲載する。
- 内容 2月22日に公表される毎月勤労統計の確定値及び前回の宿題返しについて厚生労働省、総務省、財務省、内閣府よりヒアリング
- タイトル 勤労統計不正「賃金偽装」野党合同ヒアリング
- 日時 2019年2月22日(金)17:00〜
- 場所 衆議院(東京都千代田区)
立憲民主党・逢坂誠二衆議院議員「ずっと国会で問題となっていた9月14日の、厚生労働省から阿部(正浩)先生へのメールですが、阿部先生のほうから厚生へ転送があり、厚生労働省から今公開されました。それがその中身です(紙を見せる)。
これにはですね、添付ファイルが本来ついているはずなのですが、今日公開されたものはメール本体だけということで、添付ファイルは送られてきておりません。我々の要求は添付ファイルの中身もきちんと開示することが全面公開という理解ですので、まだ半分までの公開という感じです。
私も先ほどの理事会で受け取ったばかりで中身をよく見ていないのですが、ただ一枚めくりますと、『委員以外の関係者と調整している中で、サンプルの入れ替え方法について、部分入れ替え方式で行うべきだとの意見が出てきました』と。委員以外の関係者と調整しているということですね。
『ご存知の通り報告書案では総入れ替え方式が適当との記載を予定していました。このため第6回会合では報告書案ではなく、中間的整理案の議論ということで』。
すなわち本来は最終報告書にするはずだったのに、中間的整理の議論ということで取りまとめをするということです。『あわせてサンプルの入れ替え方法についても、引き続き検討するというような記述とする予定です。このため検討会についても引き続き行うことになる予定です』ということなんですね。
だから本来で言えば、当初の予定通り6回目で報告書を出して終わるはずだったものが、委員以外の関係者と調整している中で、委員以外ですよ! 何のための検討会かわからないということになるわけです。
『なお中間的整理案については後ほど送付をさせていただきます』と。2ページ目の最後のところですが、『検討会開催前の突然の方針変更等でご迷惑をおかけしますが、どうぞよろしくお願いいたします』と。ここを見るだけでも、この検討会が、5回目までの流れと、6回目の直前で、大きく変わったということが、この本文を見ただけで推測できるのではないかと思います。
もちろんこれには添付ファイルがついているわけですので、添付ファイルを見ると、どの部分がどう変えられたのかということが、またさらに明らかになるのではないかと思います。本当に私、15分ほど前に(このメールを)見て驚きました。いったい今までの厚生労働省や大臣と答弁は何だったのか。
驚きです。私のほうからはとりあえず冒頭以上でございます」
国民民主党・山井和則衆議院議員「これ、今日の姉崎猛・元厚労省統計情報部長の答弁も虚偽じゃないんですか。姉崎さんは委員外でなくて、第5回の委員の発言で修正したと言っていましたからね。これは虚偽答弁じゃないんですか。屋敷さんにお聞きするのは酷ですが、委員以外の関係者というのは中江元哉元総理秘書官ですよね?」
厚労省・屋敷氏「14日に中江秘書官とお会いしているといったやり取りがなされていると承知しています」
逢坂議員「根本大臣は委員以外の関係者とは中江秘書官と答弁しています。そういう理解でよろしいですね。」
国民民主党・原口一博衆議院議員「それで6ページ目に、『官邸関係者に説明をしている段階であります』と。そのものずばりが書いてあるじゃないですか。今日2月22日の国会答弁は限りなく虚偽答弁のである疑いが、このメールで濃くなった。本当に国会を馬鹿にしている。国民を馬鹿にしている。断じて許せない」
山井議員「(2月22日の衆院予算委で)国民民主党の後藤祐一議員が何度も『中江さんではないのですか』、と10分も20分も言っているのに、『いや、そうじゃない、委員の意見です』と何度も何度も否定していましたよ」
逢坂議員「『官邸関係者に説明している』って、今までの話はなんだったんですか。馬鹿にするのもいい加減にしてほしい。国会審議の時間を返してほしい」
山井議員「『官邸関係者に説明をしている段階であります』は何日のメールですか」
逢坂議員「9月4日です」
山井議員「9月4日の時点で官邸関係者に説明しているという話は、今までの審議で一切なかったです。逆に否定していましたよ。官邸とはやり取りしていないって。
この官邸関係者というのは中江元秘書官ですか? それとも中江元秘書官以外の関係者ですか?」
屋敷氏「申し訳ございません。今はお答えできません」
逢坂議員「屋敷さんはこのメールをご存知だったんですか?」
屋敷氏「今見ているところです」
逢坂議員「厚生労働省のこれまでの答弁は虚偽だと思われますが、屋敷さんはそう感じませんか?」
屋敷氏「お答えできません。申し訳ございません」
自由党・森ゆうこ参議院議員「メールが9月4日なんですね。そうすると、9月3日に、安倍総理が中江秘書官から、サンプルの総入れ替えの影響について説明を受けているんですよね。これは国会答弁であったと思います。
9月4日というのは翌日のメールですから、官邸関係者に説明しているということは、つまり、中江元秘書官から総理に説明したことに入るんじゃないですか」
屋敷氏「お答えできません」
原口議員「月曜日の集中審議に向けて、これまでと違う事実が出てきたので、整理して逢坂理事に渡してもらえませんか」
逢坂議員「このメールを見る限りでは、厚生労働省のこれまでの答弁は、ほとんど嘘っぱちであったと思わざるを得ません。
2つめの綴りの9月4日のメール、『現在検討会の検討結果については、官邸関係者に説明をしている段階です』。これ、9月4日にこういうことをやっている。逐一官邸関係者に説明していたんじゃないですか? 本当に驚きですよ。まったく今までの答弁と違う。騙されていた、そう思わざるを得ない。しかも、『姉崎部長の意向もあります』。これはいったい、何なんですか」
逢坂議員「本当は皆さん国会答弁はずっと事実と違うということはわかっていた。メールが出てきたら事実でないことがわかることも知っていたんじゃないですか。阿部先生から厚生労働省に転送したといったから、仕方なく出したのではないですか」
山井議員「『官邸関係者』だけは大至急確認してください」
逢坂議員「我々は騙されていたんですよ。確認してください。阿部座長が来たら困るということで、(国会に呼ばないよう)厚生労働省が止めていたんじゃないですか」