【岩上安身のファイト&スポーツ】ファイト&スポーツ専用アカの最初のツイ録は2月12日の那須川天心対スアキム!出し惜しみなし・小細工なしの、内から元気が湧き出てくるマッチメイクに期待!! 2018.2.12

記事公開日:2018.2.12 テキスト
このエントリーをはてなブックマークに追加

(岩上安身)

 さて、ファイト&スポーツの別アカ(@iwakami_fight)を作り、最初のツイートは、当然、これ。

 那須川天心の明日の対戦相手のスアキムは、ムエタイの実力者。これまでとは桁違い。誰も文句のつけられない実績と実力の持ち主。身体のフレームも一回り大きい。計量後、かなり戻してくると思うので、天心が楽勝するイメージは全く描けない。特にパンチと肘が凄い。

 スーパーバンタム級なのに、強すぎて賭けが成立せず、二階級上のスーパーフェザーで戦うスアキムは、左の肘一閃、ルンピニー現役王者のナウポンをKO。王者の上をいく強者であることを証明。今の時代、ネットで動画で確認できるので、どれほどのものか、自分の目で確かめられる。

 以下のクイールというサイトの記事はバランスよくまとまっている上、ナウポンをKOするシーンも入っている。

 僕は打撃系格闘技の、ムエタイ、キックボクシング、肘なしキック(K-1)、フルコン空手、伝統派空手(堀口の登場でますます見直した)そして蹴りのないボクシング、どれも好きだし、それぞれに楽しめるし、素晴らしいと思っている。

 なので、◯◯が最強、と言った発言はアホくさいと思うし、武尊のようなトップ選手が口にしたりすると、どっとシラケてしまう。ルールによって技術は大きく変わってくるのだ。特に理解されていないことだが、肘の有無はとてつもなく大きいということは言っておかなくてはならない。

 昔、総合がリアルファイトで始まった頃、観客が技術を理解できなくて、寝技の膠着戦としか感じられず、退屈になってヤジを飛ばす、なんてことがあったが、今なお、ムエタイにおける首相撲の技術の攻防はまだまだ理解されているとは言い難い。やってみればわかることだが実に奥が深い。

 さらにこの首相撲の接近戦で、膝だけでなく、肘が入ると、それはもう、K-1のようなルールの技術とはまったく別の格闘技となる。僕は少しだけキックの経験があるが、それだけでなく、肘も膝も頭突きも金的も組み技もなんでもありの大道塾を長く経験していたので、肘がどれだけ使い勝手が良く、破壊力があり、かつディフェンスしにくいか、嫌という程、知っている。人間の拳や手首は実はとても脆く、痛めやすい。パンチを打っている方が痛めやすい。対して肘は極めて頑丈なのだ。

 肘は、パンチのように鈍器として用いるだけでなく、鋭利な刃物のように斬ることができる。その攻防は、見る目が養われれば、たまらなくスリリングなものとして映るようになる。昨年、立ち上がったknock outというプロモーションの功績はこの肘の魅力を存分に伝えたことだろう。

 knockoutというブシロードが出かけるキックイベントの凄さは、第1試合からメインイベントまで、あくびの出るようなぬるい試合がまったくないこと。どれも濃すぎて、観戦し終わった後、くたくたになる。こんな格闘技イベントはほかにそうそうない。肘が全開、というのがその理由の一つ。

 もちろん、昔から肘うちはあったし、それこそ、沢村忠や藤原敏男の時代にもあったのだけれども、横から、あるいはオーバーハンド気味の打ち下ろし以外、昔は使いこなせる選手がほとんどいなかった。

 ところが今はカウンターの立て肘は当たり前、アッパーのような打ち上げも、打ち下ろしも、さらに肘の内側を使うかなり高度な打ち方も使われる。これは遥か昔、30年くらい前、僕自身がタイへ取材に行って、ついでに練習もして、見よう見まねで色々教えてもらった中のテクニックの一つ。

 こんな技は、昔のキックボクシングでは、到底、使いこなせる選手はなく、実際、試合で見ることもなかった。それが今や、knockoutでは次々と繰り出されている。昨年一年、knockoutはほとんど観てきたが、物凄い熱戦の連続と、この肘のレベルの高さに舌を巻いていた。

 たしかに首相撲やクリンチを徹底的に禁止して、小さく鋭い肘打ちを禁じ、大きな蹴りとパンチのみで、試合を組み立てるようにするK-1的な、首相撲、肘なしルールは、ムエタイ的な膠着戦がなくなるため、大衆的なわかりやすさが人気を博したのはよーくわかる。

 僕はプレK-1時代から夢中になって観てきた一人だ。が、最近の新生K-1と昔の旧K-1と見比べると、気になることがある。かつて、旧K-1は、ある程度のクリンチからの膝などは認められていた。今は、一切ダメ。

 首相撲はおろか、ボクシングにおけるクリンチレベルも許さない厳しさ。蹴りのキャッチも許されない。となるともう、グローブでボコボコの打ち合いになる。それは派手で見栄えはいいのだが、あれはですね、実はかなり脳にくる。グローブは、素手よりも脳を揺らしてしまうのだ。

 派手、面白い、わかりやすい、カッコいい、技術が小難しくない。だか、選手の脳へのダメージが、ちょっと気になる。首相撲ありの上での肘打ちと膝蹴りありのムエタイやキックルールは、脳を過剰に揺らさずにKO決着に結び付けられる。肘でカットされたら、そこで終わり。

 流血シーンは女性ファンやお茶の間のファン向けではないとはもちろん思うが、選手のその後を考えると、つかみなし、顔面ありの極真ルールともいうべき、K-1ルールは、見る側の面白さのために、やる側の脳ダメージが大きくなりすぎてないか、心配になる。

 ちょっと話が逸れてしまったので戻すが、スアキムである。スアキムはムエタイの選手の基本たる左ミドルを重ねる選手ではなく、身長も手足も長いのに、長い間合いで戦わず、距離を詰めて、パンチ、膝、そして最終的にはとてつもなく重そうな肘でキメる。フィジカルもやたらと強い。

 K-1的な肘なしルールに見慣れてしまったお客さんには、左ミドルを連打するような華麗なブアカーオなどと違って、スアキムは派手さがなく、その強さがわかりにくいかもしれない。が、ムエタイ選手の本当の強さは接近戦に現れる。とんでもなく強い、ということは強調しておきたい。

 出し惜しみ一切しない、本当に強い相手を探してマッチメイクしてしまう。那須川天心に対して、どんだけ強敵をぶつけてきたか。このknockoutの小野寺プロデューサーの姿勢は、賞賛、絶賛の意味を込めて超クレージープロモーターと呼ばせてもらう。

 knockoutの、小野寺プロデューサーのインタビューがこれ。→なぜ那須川の相手に危険すぎるスアキムが選ばれたのか。小野寺プロデューサーの囲み会見

 なんというか、普通に天心の限界を極めるべく、とんでもない選手探しをして、またムエタイ側も、かつてなく天心に対してムキになっている事情がわかって、興味深い。エンターテイメントとして、出し惜しみしながら盛り上げるなんて小細工なし。こんなヤワな時代に、たまりませんね。

 正直、日本の格闘技のチャンピオンは、キック系だけでなく、ボクシングなどがその典型だけど、過保護ばかり、というのが多い。王座を獲ると、挑戦者を選べる特権を利用して、選択試合で、下位ランカーとばかりタイトルマッチを組み、防衛回数重ねるのがごく普通。

 王座を獲ると、王者の特権を利用して、下位ランカーばかりを相手に選択試合を行い、防衛回数を増やすのが普通。選択試合の反対が、団体が指名するトップランカーと試合を義務付けられる指名試合。この指名を逃げるために大金を払った「人気者」チャンプすらいる。

 そんな中、王座を奪取後、なーーんにも考えず、指名試合を受けてトップランカー相手になぎ倒してきたのは、井上尚弥ぐらいのものである。井上が苦戦したのは、自分のパンチ力に負けて右拳を損傷したのとスパーしすぎの腰痛だけ。

 ついには他団体王者も、同じ団体の上位ランカーも試合をしてくれなくなった。スーパーフライ級はタレント揃いで、ものすごく面白いのに、他団体王者が対戦してくれないので、もう減量もきつくバンタムに転向する。

 この井上尚弥の、そろばんづくで金になるビッグマッチをやろうとか、下位ランカー相手にも、そこそこ相手のいいところも引き出して、互角の打ち合いの挙句、接戦で倒してみせた、なんていうケレンが全くないところが、一面、那須川天心と共通している。

 井上に比べると、那須川の方がはるかに派手で、陽性で、エンターテイナーだが、どちらも、デビューの時から「最強になりたい」ばかり口にしている。金を儲けていい車に乗って、いい女を侍らして、そのために格闘技をやっている、なんて言葉が、どこからも出てこない。

 最強なんて、「幻想」ですよ、というのが、ある程度、世間を知ってしまった大人のセリフ。格闘技は辛すぎる。あのレジェンドの長谷川穂積、山中慎介も、防衛戦数回目で、ファイトマネーだけが、モチベだったと告白している。正直な告白で少しも責められることではない。

 が、井上と那須川は、違う。井上は、手応えのない弱い相手に楽勝しておきながら、本気でリング上でファンを前にして仏頂面をみせ、「物足りない。ヒリヒリする試合がしたい」とのたまう。

 天心は陽気に相手を粉砕して、次はもっと上、と言い続ける。しまいには、ジャンル違いの井上尚弥の名前すら出して、リスペクトしつつも手合わせだけでもしたいと言い出した。金になる話と全然関係ない話だ。二人とも、最強幻想まっしぐらの格闘技が大好きでたまらない少年なのである。

 そのピュアさ、愛すべき幼さが、やはり心を揺さぶる。「僕、魔裟斗さんみたいなスーパースターになりたいんです」という言葉にはもう本当に萎えるしかない。だが、「僕は最強を目指す」という言葉には、そのお馬鹿さも含めて、愛おしさを感じ、自分の内からも元気が湧き出てくる。

 さて、そんなわけで、明日のknockout、大田区総合体育館へ足を運びます。チケは天心の応援席。相手がスアキムと発表される前に買っておいてよかった。もう、タオル買っちゃうかな笑。

 くどいけど、スアキムは強い。剛の強さ。以下の3試合見ればわかる。

 あと2試合。

※2018年2月12日付けのツイートを並べて加筆し、掲載しています。

IWJの取材活動は、皆さまのご支援により直接支えられています。ぜひ会員にご登録ください。

新規会員登録 カンパでご支援

関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です