2016年10月、中国が主導するAIIB(アジアインフラ投資銀行)の顧問に就任した、鳩山友紀夫(由紀夫から改名)元内閣総理大臣。
しかし、元総理の国際機関への就任であり、そして21世紀のユーラシアインフラ投資の行方を左右する重要なニュースであるにも関わらず、日本の既存大手メディアはこのニュースを黙殺するか、あるいは偏見の色眼鏡をかけて、中国とAIIBを嘲り、見下し、鳩山氏を揶揄する論調の記事ばかりを流し、AIIBの実相をまともに報じようとしない。
2015年の発足時、参加の是非をめぐって大きな議論を呼んだAIIB。結局、既存のADB(アジア開発銀行)を主導する日本と米国だけは参加を見送ったが、イギリスを皮切りに欧州諸国はなだれをうって参加を表明し、AIIBの加盟国は発足時の57カ国から増え続け、2017年にはADBの67カ国を上回る80カ国程度になる見込みだと言われている。
中国がAIIBを設立した背景にあるのが、習近平国家主席が2014年11月に提唱した「一帯一路」構想だ。
中国西部から中央アジアを経由してヨーロッパにつながる「シルクロード経済ベルト」と、中国沿岸部からアラビア半島を経由してアフリカ東岸を結ぶ「21世紀海上シルクロード」からなるこの壮大な経済圏構想は、ユーラシアの東西を陸と海でつなぎ、成長著しい中国やインド、資源の豊富なロシア、中央アジア、中東、そして一大消費地の欧州を直結させるので、実現すれば、世界経済のロジスティクス(物流)を大きく変えるインパクトを持つ。
アゼルバイジャンからトルコへのパイプライン事業など、一部はすでにAIIBによる融資によって現実のものとなりつつある。AIIBは、この「一帯一路」プロジェクトに資金を投じ、壮大な物流インフラ構築の実現を目指す役割を担っているのである。
▲中国の習近平国家主席が提唱する「一帯一路」構想
▲中国の習近平国家主席(WikimediaCommonsより)
総理在任時から、対米従属一辺倒のこれまでの外交から距離を置いて、中国との経済連携を目指す「東アジア共同体」構想を提唱してきた鳩山氏は、このAIIBと「一帯一路」についても、「まさに、『ユーラシア共同体』だ。日本も今すぐ、ここに入るべきだ」と主張する。
なぜ、このタイミングで鳩山氏はAIIBの顧問に就任したのか。そして、トランプ大統領の誕生にともない、日本は中国や米国と今後どのような外交を展開するべきなのか――。2017年1月10日、岩上安身が鳩山氏に話を聞いた。
- 日時 2017年1月10日(火) 15:00頃~
- 場所 IWJ事務所(東京都港区)
プーチン、ドゥテルテ、そしてトランプ――。世界各国の首脳がAIIBと「一帯一路」に注目している
「世界中で起きているテロや武力衝突の問題、これらの背後には貧困や差別、人権の蹂躙などがある。こうした問題を解決するためには、経済的に貧しい国のインフラを整備することが重要だ。その意味で、AIIBと『一帯一路』には大きな意義があるし、日本も早く参加するべきだ」――
10月23日、北京で行われたAIIB「国際諮問委員会」の会議で、トップバッターで発言を求められた鳩山氏は、このように述べたという。
この「一帯一路」への参加を表明しているのは、中国とその周辺国にとどまらない。2014年5月、ロシアは中国と40兆円規模での天然ガス供給で合意。2016年6月17日にはプーチン大統領が「大ユーラシアパートナップ構想」を打ち出し、「一帯一路」との統合を発表した。他にも最近では、フィリピンのドゥテルテ大統領も、AIIBへの融資要請を発表し、「一帯一路」に接近している。
▲プーチン大統領 (WikimediaCommonsより)
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▲ドゥテルテ大統領(WikimediaCommonsより)
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「国を守るために必要なのは、軍事力ではなく外交力」――終わりなき「対米従属」からいかに抜け出すか
そして何より、今後の日本外交において最重要なのが、トランプ大統領のもとでの米中関係の行方である。トランプ氏の側近には「反中派」(ピーター・ナバロ氏など)と「親中派」(ジェームズ・ウールジー氏)が同居しており、当面の米国の対中政策は「両睨み」の状態が続くと見られている。
このトランプ政権について、鳩山氏は次のように分析した。
「トランプ大統領という人間は、ビジネスマン。アメリカをビジネスでどう儲けさせるかを考えている人間だ。海外の金を使い、国内で仕事をさせて雇用を増やす、ということを考えているはずだ」
実際、トランプ氏はこのインタビューの前日である1月9日、ニューヨークのトランプタワーで、中国のネット通販最大手「アリババグループ」の馬雲(ジャック・マー)会長と会談。「米国内で、今後5年間で100万人規模の雇用を生み出す」という約束を取り付け、「辣腕ビジネスマン」としての一面を国内外に見せつけた。