「翼賛体制の構築に抗する言論人、報道人、表現者の声明」を発表した今井一氏、古賀茂明氏、マッドアマノ氏らが2月25日(水)、日本外国特派員協会で記者会見を行なった。
この声明には、現時点で言論人・報道人・表現者ら約2500名が賛同し、これとほぼ同数の2500名もの市民が応援の署名をしている。IWJ代表の岩上安身も賛同者として名を連ねているほか、現役のNHKチーフプロデューサーや、毎日新聞編集制作者も名乗りをあげている。
この日の会見では、劇作家・演出家の平田オリザ氏、小説家の中沢けい氏も出席。それぞれが今回の運動の意義や、昨今の日本のメディア報道をめぐる問題点を指摘した。
風刺が大嫌いにも関わらずシャルリー・エブド襲撃事件で哀悼の意を表する安倍政権の矛盾
今井氏は、「日本の報道・言論・表現の場に自粛と萎縮が大変なスピードではびこりつつある。これをせき止めよう」というのが運動の目的だと説明。普段、こうした声明に名を連ねることがないようなスタンスの人たちが、こぞって賛同の意を示しているのが特徴だという。
マッドアマノ氏は、「安倍政権は風刺が大嫌いな政権」であるにも関わらず、フランスの風刺週刊誌シャルリー・エブド襲撃テロ事件に対しては、安倍首相が哀悼の意を表していたことを指摘。以前、自民党ポスターのパロディーを作成した際に、当時、幹事長だった安倍首相から通告書が届いた経緯を語り、「風刺は批評行為なので、風刺を認めない安倍政権を認るわけにはいかない」と述べた。
平田氏は、「演劇はお客さんを相手にするので、場を奪われたりするのが一番の脅威」と語り、様々な媒体が演劇界の表現の場を奪ってしまうことに懸念を示した。日本演劇は戦前、大政翼賛に協力した不幸と反省の歴史があることを平田氏は解説。当時も、表現の場を人質に取られて、多くの演劇人が戦争協力を行なったという。
平田氏は、戦前のような事態になる前に、声をあげなければと、会見に参加した理由を明かした。
失われていく国民の正しい判断
非公式な形で報道の機能が失われていると認識している古賀氏は、過去の歴史から、報道の正しい機能が失われることで、独裁や戦争に繋がっていくと解説。その過程を三段跳びにたとえて説明した。
ホップの段階では、政権側がマスコミに対して、圧力や懐柔によりイニシアティブを取る。ステップの段階では、メディアが権力に擦り寄り、既得を享受して自己抑制をしてしまう。古賀氏は、現在の日本の状況はステップの段階だと考えているという。
この状況が進行すると、正しい情報が国民に伝わらず、国民の知る権利が失われて、国民は正しい判断ができなくなる。結果、選挙という民主的であるはずの手続きを経て、独裁政権が誕生する。最後のジャンプの段階というのは、そんなに遠くないと警鐘を鳴らした。
進むネットとTV・新聞の情報乖離
中沢氏は、今回の運動に協力した理由は、2つの危惧があったからだと話す。ひとつは、インターネットから情報をとっている者と、TV・新聞で情報をとっている者の間で非常に大きな情報の乖離が生まれていることを指摘。その背景には、国民が知るべき情報がTV・新聞で報じられていないことがあるとし、例として、第二次安倍改造内閣の当時、国家公安委員長・拉致問題担当大臣で、現在、第三次安倍内閣でも同職を務める山谷えり子氏の外国特派員協会で行なわれた会見を挙げた。
この会見は、IWJでも生配信を行なっており、インターネット上では大きな話題を呼んだ。国会でヘイトスピーチ規制法が作られようとしている中、関係省庁のトップが、ヘイトスピーチで問題視される在特会に支持されているという状況は、非常にまずいと中沢氏は考えている。
しかし、これについて日本のTV・新聞は全く報道しなかったことに疑問を感じたという。もうひとつの危惧は、ネット上などで行なわれている乱暴な行為を挙げた。これは、主に情報を発信する個人や企業を標的にした業務妨害を指し、ネット上の書き込みなどで個人や企業を特定するほか、標的の個人・企業に対する攻撃の呼びかけ、場合によっては、勤務先に大量のFAX・電話をするなどの行為を指す。
日本のメディアの萎縮は、政権からのプレッシャーだけではなく、ネットユーザーからの業務への嫌がらせなどのプレッシャーも関わっていると中沢氏は言う。「ネットに広がっている現状に対する危機感を、ネットを使わない人々にも気付いていただきたい」と訴えた。
「安倍政権を批判しなければ出世できる」報道とは違うレベルで政権批判自粛も