「死刑廃止を考える日」と題したシンポジウムが11月15日(土)、青山学院大学で開催された。駐日英国公使のジュリア・ロングボトム氏のスピーチをはじめ、袴田巖氏、秀子氏を迎えて袴田事件の報告、パネルディスカッションが行われた。
袴田事件の弁護団事務局長である小川英世弁護士は、警察による捏造を鋭く批判。「絶対的な刑である死刑を、不完全な制度、不完全な人のもとで、してはいけない」と強く訴えた。
「死刑廃止を考える日」と題したシンポジウムが11月15日(土)、青山学院大学で開催された。駐日英国公使のジュリア・ロングボトム氏のスピーチをはじめ、袴田巖氏、秀子氏を迎えて袴田事件の報告、パネルディスカッションが行われた。
袴田事件の弁護団事務局長である小川英世弁護士は、警察による捏造を鋭く批判。「絶対的な刑である死刑を、不完全な制度、不完全な人のもとで、してはいけない」と強く訴えた。
記事目次
■ハイライト
※以下、発言要旨を掲載します
ジュリア・ロングボトム英国公使「英国、EUを代表して、1.死刑制度廃止に関する英国の経験、2.死刑廃止をめぐる世界の動向、3.日本の死刑制度の3つのテーマでお話を進めていきます。英国の死刑廃止の実現には、2つの重要な要素がありました。誤審と刑の不可逆性に対する国民の意識の高まりと、一人の下院議員の粘り強い運動。このシルバーマン議員は、最終的な(死刑)廃止までの3回の動き全てに関わっています。
1948年の政府提出法案は、議会の大きな反発にあいました。シルバーマン議員が修正を加えることで下院を通過しましたが、上院で否決。50年代になり誤審が相次ぐようになります。妻と娘を殺したとして絞首刑が執行された男性が無実であったことが、真犯人の名乗りで明らかになり、国民は衝撃を受けました。この男性は死後66年に恩赦されました。
同様の誤審事件によって、国民の間に誤審の危険性と死刑の不可逆性に対する圧力が高まりました。58年、議員は再び法案を提出しますが、否決されます。世論の圧力が高まり、政府は廃止を検討せざるを得なくなり、65年、殺人罪での死刑執行が5年間停止される法案が可決されました。69年、別の法案により執行停止が恒久化されます。2004年に欧州人権条約第13議定書に署名し、全面廃止となりました。ここまで50年の歳月がかかっています」
ジュリア・ロングボトム英国公使「犯罪抑止と被害者、被害者家族の支持が、死刑存続の根拠としてよく言われますが、英国の経験では、死刑が殺人に対し抑止力となるという具体的証拠はありません。廃止が殺人事件の発生にどれほど影響しているのか、判断は非常に難しい。
国際的調査でも、抑止力について明確な根拠がないことが明らかになっています。2004年の米国における調査では、死刑制度のある州の方が、殺人事件の発生率が高くなっています。カナダでは、1975年の廃止以降、2003年までの間に発生率は44%減少しています。
死刑制度存続は、被害者家族を含めた国民の意思という主張がありますが、世論というものは複雑でいかようにでも変わるものです。政府には民意を導く義務があります。英国では死刑支持率は確実に低下しています。政府が決断することで、長期に世論を導いたことを示しています。
国連193カ国の内、2003年には28カ国が死刑制度を存続していました。12年には21カ国に減少しています。この傾向は続いていきます。死刑制度のある国の中で、米国は存続を支持する例としてよく取り上げられますが、廃止に向けた動きが出てきており、執行人数も減少してきています。
存続の可否は最終的には各国の判断ですが、廃止を選択する国は増えています。世界がどの方向に向かっているかは明らかです」
ジュリア・ロングボトム英国公使「EUと英国は死刑存続国に対するメッセージと同じものを、日本にも伝えます。私たちはいかなる場合でも死刑に反対します。死刑は人間の尊厳を傷つけるものです。抑止力となるという証拠もありません。犯した過ちを取り返すことができません。
近年日本で死刑執行が相次いでいることを懸念しています。日本政府に対し、国民と率直に対応するよう強く働きかけます。現在、国民の支持が正当化の理由となっています。2009年の内閣府調査では、86%が支持していました。次回の調査は今年の予定です。情報を得ることができれば、国民の考えに違ったものが出る可能性があると考えています。日本自身が決断するのは言うまでもありませんが、EUは、日本で十分な情報のもとで具体的議論が行われるよう、支援したいと考えています。今日がその一歩となるよう願っております」
続いて、袴田巖氏、姉の秀子氏、弁護団事務局長小川英世弁護士が登壇。巖氏にマイクが渡るも、うまく発言できず、秀子氏がマイクを引き取った。
秀子氏「このような状況でございます。ご容赦いただきたいと思います。弟のことがなかった頃は、死刑に関心がありませんでしたが、死刑は恐ろしいものです。早いところなくしたほうがいいと思っています」
小川弁護士「秀子さんに質問する形でお話をうかがっていきたいと思います。3月27日静岡地裁で再審開始決定が出されました。注目すべきは死刑の執行停止のみならず、拘置の執行停止も決断したこと。当日、東京拘置所に駆けつけて面会された時の状況についてうかがいます」
秀子氏「3年半振りでとにかく面会しなければと思っていました。12月に『どうせ死刑になると言った』と聞いたので、励まそうと思っておりました。(本人は)信じませんでした。嘘ばかり言うから帰ってもらえ、と。時間切れになり、明日また、と思って、面会室をあとにしましたが、看守に呼び止められて、戻りました。看守から、お金を返すと言われ、荷物を私の家に送るがいいかと尋ねられて。釈放されるとは思っていませんでした。2~3ヶ月かかると思っていましたが、いま本人が来る、と。本人が出て来て、釈放された、というので、『よかったよかった』と喜びました」
小川弁護士「面会を始めたのはいつからですか? その頃の様子は?」
秀子氏「兄が健在の頃2人で行きました。待っていたようにたくさん話して、私たちは頷くだけ。こちらが励まされていました」
小川弁護士「様子が変わったと思いますが、いつごろからどのように変わられたのでしょうか」
秀子氏「(死刑が)確定して、最高裁が棄却して、(居室を)移ってから、大人しくなりました。兄が聞きましたら、ひどいところにいる、と。かつての勢いがなくなりました。あるとき一人で面会に行きましたら、昨日隣の人が処刑されたと(取り乱して)。猿がいる、天狗がいる、とおかしなことを言い出しました。拘禁症の反応です」
小川弁護士「それからも事件の事を話せましたか?」
秀子氏「確定後は事件のことはほとんど言いませんでしたね。理解に苦しむことばかりの方が多かったです」
小川弁護士「途中からお姉さんともわからなくなっていましたか?」
秀子氏「10年ほど面会拒否が続きまして、そのあとは偽物だと言われました」
小川弁護士「面会のあり方や処遇について、ご意見はありますか?」
秀子氏「大勢の人が来て、みんなで話しかける方がいいですね。狭い部屋ではかわいそう。死ぬまでは生きている人間です。人間らしく扱わないと、と思います。たとえ死刑囚であろうと」
小川弁護士「再審開始が認められ、嬉しかったですね。この決定は中身についても画期的なものです。証拠について、警察の捏造の可能性が決定書ではっきり言われています。
静岡県下では今まで多くの冤罪事件、捏造を主張して疑われた事件がありましたが、裁判所が触れたものはありませんでした。これからの捜査、裁判にいろんな影響を期待しています。
死刑事件だったわけですが、執行停止、拘置執行停止をして釈放されました。大英断だったと思います。捏造の可能性を裁判所が感じたから、英断を下したのだろうと思っています。検察は即時抗告をして現在高裁で戦っていますが、検察官の主張を検討した限り、時間の問題で再審が開始されると思います。ご安心いただいていいと思います。
なぜ袴田事件が誤ったのか、整理したいと思います。いろいろ考えられるところですが、一つには弁護活動です。一審の時からの活動が事件を誤らせています。本件は自白があります。全体で60通の自白調書があります。平均12時間、最長16時間の酷い取り調べが行われていました。夏だったのですが、調室から一切出さず、トイレも便器を持ち込んで中でさせています。22日間の中で弁護人はたった3回、合計37分しか面会していません。当時は接見が自由でなく、弁護人は検察庁に行って検察官から切符をもらって、許可を得なければならなかった。そういう状況だったにしても、酷いと思います。これが結局自白を作り、裁判を誤らせた原因だと思います。
証拠の5点の衣類ですが、これが発見されたのは(事件から)1年2ヶ月後のことです。1年2ヵ月も味噌タンクに漬けるなんて、犯人がやるか冷静に考えればわかります。まして血のつき方もおかしい。5点の衣類は最初から捏造の疑いを持っていて然るべきものです。
残念ながら弁護団は、確定まで捏造とは一言も言いませんでした。袴田さんの物ではないという主張にとどまりました。何故か? 静岡県下で捏造の疑いがある事件がいっぱいあったわけです。裁判所はナイーブになっていたんですね。弁護士は余計な気を利かせて捏造という主張をしなかったわけです。言って初めてきちんと証拠を分析するわけで、言わなかったということが非常に残念です」
※スクリーンに証拠写真が次々映し出される
小川弁護士「白黒しかないんです。重要な証拠なのに。これが何色だったか争っているんです。バカバカしいことですが。第二再審で証拠開示の結果、出てきたカラー写真を初めて見ました。血痕などがはっきりわかります。本当に味噌に浸かっていたのかという疑問があります。
ステテコの方がズボンの裏側よりも血が付いています。即時抗告審は何と言ったか、犯行途中でズボンを脱ぐこともあるから問題視しない、と。本当に言ったんですよ。実際に味噌につけて実験しました。20分漬けただけで色が違います。検察はどう言っているかといいますと、捏造するなら上着とズボンだけで十分だから、5つはおかしい、などと言っています。
捏造のオンパレードです。だからこそ、裁判所は捏造に触れたわけです。警察が捏造し、検察官が隠した一番重要な問題。ひとつだけ言いたいのは、こうして警察が捏造や酷い取調べをし、そして嘘をつくわけです。被疑者の希望で便器を調室に持ち込んだ、などと。一旦嘘をつき始めると、突き通さざるを得なくなるんですね。これが事件を歪めてしまったと思います」
小川弁護士「結局、最初から4人の強盗殺人だから死刑は見えているんですね。それでも捏造を平気でやっているんです。裁判所は特別な手続きをとっているわけではありません。普通に行われ、間違ってしまったという事件です。80年代に4件の再審無罪がありましたが、裁判所は何も反省していなかった。原因追求をしていなかった。またこういうことが起きるという危惧があります。当時と事情が違って、誤判原因は解決してきたと思われるかもしれませんが、人も制度も完全ではないわけです。絶対的な刑である死刑を、不完全な制度、人でやるのは間違っていると思っています。
日本の刑事手続は多くの問題があります。事件によって深夜まで取調べがあったり、大声で怒鳴りつけたりする。可視化しても無実の自白があったケースもあります。それにも関わらず、絶対的な刑を科してはいけないというのが私の結論です」
(…会員ページにつづく)