2010年1月13日(水)、東京都港区の郷原弁護士事務所にて、IWJ代表 ジャーナリスト 岩上安身の、元検事で弁護士 郷原信郎氏へのインタビューが行われた。先の1月10日、「サンデープロジェクト」のオンエア中、小沢幹事長への政治団体「陸山会」の政治収支報告書に、4億円の記載がない、これこそが小沢氏の「疑惑のカネ」の焦点だったはずが、郷原氏は、記載はあると官報を見せ騒然となった。
岩上は、郷原氏にこの一連のマスコミの報道のあり方、そして検察と疑惑の真相などを聞いた。
(IWJテキストスタッフ・関根かんじ)
特集 陸山会事件|特集 郷原信郎弁護士
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2010年1月13日(水)、東京都港区の郷原弁護士事務所にて、IWJ代表 ジャーナリスト 岩上安身の、元検事で弁護士 郷原信郎氏へのインタビューが行われた。先の1月10日、「サンデープロジェクト」のオンエア中、小沢幹事長への政治団体「陸山会」の政治収支報告書に、4億円の記載がない、これこそが小沢氏の「疑惑のカネ」の焦点だったはずが、郷原氏は、記載はあると官報を見せ騒然となった。
岩上は、郷原氏にこの一連のマスコミの報道のあり方、そして検察と疑惑の真相などを聞いた。
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■ハイライト
■全編動画
まず、岩上が、小沢幹事長をめぐるマスコミの足並みがそろった報道姿勢に疑問を持っている。郷原氏に小沢幹事長をめぐる事件は、本当に事件性があるのか、また、この報道にあり方について郷原氏に、意見を求めた。郷原氏は「当初、収支報告書の記載が、2004年に土地の代金が支払われていたのに、翌2005年の取得時になっていた。それで、2004年の購入代金の原資が問題になっているのかと思って調べたら、その2004年の購入資金は小沢氏からの借入金として記載が残っていた」。岩上が「ではマスコミはちゃんと調べず報道していた」。
郷原氏がそれに続けた。「いや、司法記者クラブの記者とかに聞いてみたら、問題はもっと深いところにあった。その説明は、捜査機関から詳しく聞かないとわからないし、その類の話が公にどんどん出てくるのはおかしい。あまりにも実態とかけ離れた次元で騒がれている」と現状を指摘した。
岩上が「検察のリークはグレーな部分も多い、その裏取りもしないでまさに真実のように断定し、報道を続ける。リークする側でも国家公務員法の守秘義務違反にあたり懲役もある。これがさも当たり前のようにまかり通っている現状は、きわめて政治的な捜査であり、報道だ」と述べ、郷原氏に元検察から見た事件性の是非を問いた。
郷原氏は「事件性は少ないが、あっても微罪。だから、小沢氏が払った4億円の内容について早く明らかにするべきだ。今回は、検察の正式な捜査は、まだ何もなかった。強制捜査が行われているわけでもない。マスコミが一方的に騒いでいるだけ。しかし、その中身を見てみたら、何が処罰すべき事件なのかも分からない程度のものだった。それを小沢氏が説明しないから、まだまだくすぶっている。それが逆に、石川さんが刑事責任を問われかねないような状況になっている」と答えた。
岩上が「また匿名ブロガーの『世に倦む日々』では、郷原先生は間違っていると、指摘する。なぜなら、これは法の問題ではない。そもそも政治である。マスコミも、官僚も、検察も、全力を挙げて政治的に『小沢一郎』という存在を葬り去ろうとしている、ということだ。これについてはどう思うか?」と質問した。
郷原氏はそれに答えて、「私は大久保秘書逮捕の時には、一体何を根拠にやっているか、なぜそれが政治資金規正法上、重大な犯罪と言えるのか、と、いろんな問題があるということを指摘してきた。違反の正否自体も問題であるということを言った。そういった指摘をすることで、政治的な動機で捜査が行われていると、国民に気づかせることができたとも思っている」と話した。
1月10日、「サンデープロジェクト」のオンエア中、その「椿事」は起きた。
民主党の小沢幹事長の政治団体「陸山会」の政治収支報告書に、世田谷の土地購入に充てたはずの4億円の記載がない、これこそが小沢氏の「疑惑のカネ」の焦点なのだ--。
様々なメディアで、そう報じられ、番組でもその線に沿って、政治家や解説者らが居並ぶ中、トークが進んでいったのだが、出演者の一人、元検事の郷原信郎弁護士が、「4億円の記載は、あるんです」といって、官報のコピーを取り出して見せたのだ。
「小沢氏が、当時の秘書の石川知裕衆議院議員に渡した現金4億円について、収支報告書に記載されていなかった。その記載漏れが政治資金規正法違反に相当する」。主要メディアは、検察側のリークとおぼしき情報にもとづいて、そうしたストーリーを流し続けてきた。それを前提に話を進めていたパネラーらは動揺を隠せない。今までの報道は、いったいなんだったのか。
翌日の新聞各紙には、この報道を訂正するように、詳しい図解入りの解説記事が掲載された。「銀行から小沢氏名義で融資を受けた4億円については、記載したが、石川議員が小沢氏から受け取った4億円の現金については記載されなかった」という複雑な話になっている。情報の出所はどの新聞も明らかにしていないが、こんな詳細な話を各新聞が足並み揃えて報じるためには、捜査関係者からのレクチャー抜きにはありえない。しかも捜査関係者しか知りえない、石川議員の任意の聴取内容まで、リークされている。
こうしたリーク報道を、郷原弁護士は、かねてより「当局によって都合の良い情報だけが一方的に報じられるという点で、戦時中の『大本営発表』とよく似ていると言うべきであろう」(日経ビジネスONLINE「ニュースを斬る」2009年3月17日)と、厳しく批判してきた。だが、そうした批判は、現在の主要マスメディアの耳には、届かないらしい。
私は、詳しい話を聞くべく、取材を申し入れ、1月13日、郷原弁護士の事務所に向かったが、到着した、まさにそのタイミングで、携帯に「陸山会」の事務所をはじめ、小沢氏の関係各所に強制捜査が入った、という通信社からの速報が入った。
<ここから特別公開中>
岩上「小沢氏の政治資金管理団体の政治資金収支報告書に、土地購入代金の4億円についての記載がない、といわれてきたのに、郷原先生が調べたら、04年の官報にちゃんと記載されていたという。1月10日に生放送された『サンデープロジェクト』において、郷原先生がこの事実を明らかにすると、大変大きな衝撃が走りました。きちんと基礎事実を押さえて、記事を書いているマスコミがほとんどないんだという、衝撃的なことが分かったわけですね。 私自身、過去、田中角栄のロッキード事件を見てきて、リクルート事件も見てきて、こんなに検察が何も言わない、それなのに全てのマスコミが、同じ記事を書き、同じような論調で足並みを揃えているというのは記憶にありません。
つまり過去だったらば、一方的な主張に対して、対抗して反対の論陣を張るマスコミもいたんですよ。それが皆無なんですね。おそらくは、ネットをのぞいて。 こういう状態は、小沢さんという人がですね、『嫌われ者』なんだというような事で片付けられることなのかもしれないですけど、とても不健全で、やはり声を大にして『おかしい』と言いたい。 昨日(1月12日)、小沢さんの記者会見が行われて120人くらいの報道陣が来たんです。オープン記者会見なので、フリーの我々でも入れる。
そこで私は、検察と、この報道のあり方は明らかにおかしいと、それをどう思われるかという質問をご本人にしたんです。そこにいる記者クラブの連中は、聞いていて、挑発的な質問だと多分思ったと思うんですけれども、やはりこういう状態はおかしいと、誰かが言わなくてはと思っています。 今回の小沢幹事長を巡る事件と言われるもの、これは一体、本当に事件なのかどうか。それから捜査のあり方。あるいはそれを巡る報道のあり方について、先生にお聞きしたいと思いますが」
郷原「まだ、その検察としての正式なアクションが今までなかったので、何が問題にされているのか、何が被疑事実となって捜査が行われているのかということも、よく分からなかったんですよ。 今日(1月13日)、捜索に入ったというのですね。(陸山会の)ええそれから、石川さん(石川知裕議員)の議員会館の部屋とか、ゼネコンにも入っているとかいうことなんですけれども、どうも、聞くところによると、それも結局、今まで言われていた4億円の収支報告書への不記載ということらしいんですよね。どうも。他の事実じゃないという話なんで。結局、なんとなく今まで報道されてきた4億円というお金について、収支報告書に書かなかったということが問題にされているようなんですよ」
岩上「これは整理すると、世田ヶ谷の深沢の土地を買うために……」
郷原「そうです」
岩上「3億4千万で買ったと。その資金が、原資がどこから来たのかが判然としないと」 郷原「それが、今報道されているところによると、陸山会の収支報告書上は、土地の購入が2005年になっていると、実際には2004年に既に代金の支払いが行われて、不動産が購入されていたと。 それはまず客観的に収支報告書に事実と違う記載が行われているということが、まず言われていたんですね、取得した時期が。本来は2004年のところに陸山会の不動産として土地が記載されていなければいけなかったのに、2005年からしか書いていない。 そのことと別に、原資となっているお金について収支報告書への不記載があるというようなことが言われていて。普通に考えると、それは期がずれているわけですから、2004年と2005年と。
本来はその原資の話をですね、不動産を購入する代金を、2004年に収入があったというふうに書かないといけないのに、不動産を購入した時期を、取得した時期を2005年と書いてあるから、それは2005年にずれていて、2004年に不動産を購入するために使った資金はどこなのかということが収支報告書に明らかになっていないということが、問題なんだろうなと、思っていたわけですよ。 ということは2004年には、原資が全然書かれていないというところが問題なのかと思っていたんですね。ところが今回改めていろいろ確認して分かったことは……」
岩上「先生が、ご自身できちんと確認されたんですね」
郷原「ええ、そうです。官報に記載されているところでは、少なくとも2004年の収支報告書に、小沢一郎氏からの4億円の借り入れという記載があるんですよ。 これまで問題にされてきたのは、現金で小沢さんがこの不動産の購入資金を貸したんだと、そのことが今回明らかになったんだと、その4億円の貸し付けのことが、これが収支報告書に出ていないんだということが問題にされていると思っていたんですけれども、これは確認してみて分かったことは、少なくとも2004年の収支報告書には4億円の小沢一郎氏からの借り入れ金というのが、1つは書いてあるわけですよ、1つは。 それが、全く書いていないということが問題にされてたんじゃないかと思っていたら、実はこれが書いてある」
岩上「ということは、まず、書いていないということで、不記載ということが問題だと、かなり報道が出ました。色々な新聞がですね、検察の恐らくはリークと思われる情報を鵜呑みにして報じた。ところが、こんな基本的な事実をメディアは、実は確かめてなかった……」
郷原「いや、そうじゃないと思うんですよね。おそらくレベルがかなり違うわけですよ。おそらく、多くの人はふわ~と事実を捉えている。細かいことまでですね、事実を確認していない人はそう思っているわけです。 ところがですね、もっと詳しく事実を突き詰めてるとか、捜査機関側にアプローチできるようなマスコミですとかね、そういう人たちに聞くと、もう少し突っ込んだ説明が出てくるわけですよ」
岩上「先生ご本人が、司法記者クラブの……」
郷原「ええ、聞いたんですよ。そうしたらですね、要するに問題にされているのは、この4億円の借入金というのは、これは金融機関から、銀行から融資を受けた4億円というのがあるんですよ。それが小沢一郎氏の名義で借りていて、小沢一郎氏から陸山会に貸し付けられているという形になってると。ここで書かれている4億円というのは、その銀行から借り入れた4億円であって、小沢さんが現金で貸した分はここには書かれていないんだという説明なんですよ」
岩上「現金で貸したというのは、現金で秘書に手渡したというお金ですね」
郷原「そうそう、その分は、この収支報告書に書いてある4億円の借入金と違うんだという説明なんですよ。改めて聞いてみると。ところが、まず問題なのは……」
岩上「すいません。その説明というのは、つまりは記者たちは自身では何も確認できないわけですから、要するに検察に夜打ち朝駆けをして聞き取った情報ですよね」
郷原「なかなかそうじゃないと、分からないですよね」
岩上「ですよね。現実に証拠となる何かを記者自身が握っているわけではない……」
郷原「客観的には、まずひとつ4億円というのが出てるわけですよ。この4億円について、元々原資について、不動産の購入の原資については、陸山会側は銀行から借り入れたお金だという説明はしてたわけですよ。だから、それとこれを結びつけると、この4億円というのはそういう意味だと理解はできるのかもしれないけれど、同じ4億円の借り入れ金ですからね、小沢さん個人が現金で持ってきたものも4億円。こっちも4億円とすると、それはどっちの意味なのかということは、なかなか分からないですよ。比較した時には。 そういったややっこしい話というのは、今まで全然そういう風に、みんなにちゃんと分かるように報じられていないんですよ。
確かに読売新聞が去年の10月に、最初にこの問題を報じた時には、2004年の収支報告書に4億円の借入金の記載があってということは、確かに全体の中では書かれているんですよ。ただその時には現金4億円の話はないんですよ。ですからそこには全然スポットライト当たっていないんですよ。
その事自体は。 その後、石川さんの調べが始まって、石川さんの供述によると、ということで、小沢さんから4億円の現金が渡っているということが明らかになってからは、そういうことが報じられるようになってからは、2004年の収支報告書に、この4億円の記載があるということは、全然それからは報道で出てこないんですよ。 だからみんな、最初に、確かに一部報じられていたかもしれないけれども、2004年の収支報告書に4億円の借入金の記載があるということを、ほとんどの人が認識していないわけですよ。 それがまるっきりなかったんだろうと思っていたんですね。そこが今回多くの人が違う認識で、この問題を捉えていたということじゃないかと、いうことなんですね」
岩上「この間の『サンデープロジェクト』に出演されていたとき、星さんとか岸井さんのような朝日新聞、毎日新聞を代表する方々を前に、郷原先生が、『いや、収支報告書に記載がありますよ』とペーパーを出した時、司会の田原総一郎さんを含めてですけれども、そこにいらっしゃる方々がみんな、びっくりしていましたね」
郷原「私は何もそれを指摘することで、2004年の収支報告書に4億円の借入金が記載されているから、だからそもそも違反ではない、不記載でないということを断定しているわけではないんですよ。 それについては、銀行借り入れのほうがあるから、この4億円が銀行借り入れなのか、現金で借り入れたものなのかということが問題にされているのかもしれないけれども、しかし、そんなことは、やっぱり捜査機関から詳しく話を聞かなければ分からないし、違反だとは、なかなか確証がもてない話なんじゃないかと。 だから、報道のあり方として、そういうような類の話がどんどん出てくるというのは、おかしいんじゃないですか、ということを、問題として指摘したかっただけなんです、私の発言は。 ところが、その過程で出てきた2004年の収支報告書に4億円が記載されてないということ自体をみんなが知らなくてですね、それで大騒ぎになったわけですね」
岩上「大変なことになってしまいましたね」
郷原「それは私、思ったのは、私も確かに、逐一全ての情報を確認しているわけじゃないから、そういうふうな誤解をしていた。私だけじゃなくて、みんながそうだったんだと。そういうようなことをですね、コメントしている人たちも、みんなそういう前提で考えていたのかと。それはちょっとですね、あまりに実態とかけ離れた認識でね、本件の問題が捉えられていたということになるんじゃないかと」
岩上「報じているマスコミ自体が理解もせず、報じているのに等しい状態があった……」
郷原「ええ、そういうようなマスコミが相当いて。一方で、恐らく司法クラブとか、おそらく検察に直接取材をするところの記者たちは、さっき言ったような、(4億円の出所が)2つあって、片方は記載されていてるけど、片方は記載されていない、というような認識を持っていたのかもしれないけれども、しかし、そこは丁寧に書いてはないんですよね。 そこではっきりその話が出てきたのが、翌日の朝日と読売の朝刊なんですよ。それまでは現金の4億円の話が出てきた時には、これは収支報告書に記載されていないということは書いているけれども、それとは別に金融機関から銀行から借り入れた分については4億円は記載されているということについては対比して書いていないんですよ、全然。だからみんな、ないと思っちゃうんですよね」
岩上「誤解されるような報じ方が、少なくとも『サンデープロジェクト』で先生がおっしゃるまでしばらく続いていたことは事実で、そこについてやっぱり報道機関は、戒めるべきだろうし、反省すべきだろうし、また、そういうリークの仕方をしている検察、これも……」
郷原「そうですね、検察のリークの仕方の問題なのかどうか、それは分からないですけれども」
岩上「民主党の枝野さんがあの時、弁護士の立場ということでおっしゃっていました。リークというのも、ギリギリのところでやっている話で、法と違法のグレーゾーンのようなところですよね。僕らもジャーナリストなので分かるのですけれども、本当にリスキーなことなのですが、相手からリークされた情報が間違っている場合もあるし、そのために裏を取りにいかなければならないし、それなのにですね、誤報を含めて、きちっと検証されたのかどうかも分からない状態で、さも何もかも事実として明らかになったかのように、断定的に報じてきている。しかも流している方は、国家公務員法の守秘義務違反にあたる。懲役もあるんですよね。1年の懲役という……」
郷原「6ヶ月だったか1年だったか」
岩上「という、ある意味重い罪を背負うわけですよね。そういうリスクを背負っている。だけれども、さしたる抵抗もなく、そんなことが進んでいく状態というのは、これは極めて政治的な捜査、それから政治的な報道のあり方になってしまうのではないかなと思うんですけれども」
郷原「捜査機関の側から出た情報なのかということについては、100%の実証というのは確かにですね、なかなか難しいんですよ。それは他の可能性だって全く排除できないかもしれない。 しかし、情報の中身によっては、これは普通に考えて捜査機関から教えてもらわなければ分からないだろうと、思えるものもあるわけですよね。
それから、例えば今回の問題で言えば、陸山会の内部資料じゃないと分かり得ない、知り得ないことですよね。 収支報告書は公開されていますけれども、収支報告書だけでは分からないことがある。会計帳簿を見ないと分からないとか、あるいは銀行預金の口座の動きとか、こういったものは、銀行は守秘義務があるから絶対に明らかにできないし、しかも陸山会の側は、基本的に押収されていますからね、証拠を。だから分からないわけですよ。
それがなぜ次々とそういう事実が出てくるのか。これはやはり捜査機関の側からそういう情報が漏れているという疑いを持たれても仕方がないですね。 それから石川さんの供述内容が、次から次から出てくる。これも、石川さんの話を誰かが聞いて、陸山会側の人が聞いて、それをマスコミに密かに漏らしているというような可能性まで考えたらね、それは100%とは言えないかもしれないけれども、普通に考えたら陸山会側がそんなことしないですよね。
普通に考えたら、調べを受けた内容を、話したりするかなと思いますよね。 そうするとやっぱり石川さんの供述内容というのも、捜査機関側から出ているというふうに疑われるのも、無理はないですね」
岩上「こうした捜査の内容が、まだ逮捕も起訴も行われていない段階で、次々とメディアに明るみになっていくというのは、過去に例があるものですか?」
郷原「それは、内偵段階からの話で、色々出て行くということも、あまりその検察の情報管理が徹底してないせいか、なくはないですよ。 第一、その一番有力な情報は、いつ、どこにガサに入るって話でしょ。これなどは一番トップシークレットのはずなのに、ガサ現場に報道陣のカメラが待ってて。
だから、そういう意味では、強制捜査という正式なアクションが始まってないのに、情報が外に出てるということは、これは別に他にないことではないんだけれども、今回は、それがあまりにマスコミの報道ばかりが先行して、検察の正式なアクションというのものが、何もない状態が長く続いている。 それが、今回の強制捜査で局面が変わったようなんですけれども、果たして犯罪として処罰すべきと言えるような違反が、あるのかどうか」
岩上「あえて小沢さんに対して厳しい目で見て、半ば想像も加えて、考えられるだけのシミュレーションをしてみた場合、新たに分かった事実も含めてですね、何の犯罪事実があると考えられますか?」
郷原「4億円の不記載ということ自体は、これは私、今までの報道されているところからすると、そんなに政治資金規正法上、重大な違反になるとは思えないんです。
というのは、その先程言ったようにですね、4億円の貸し付けが2つあって、1つは現金で小沢さんが貸したと。もう1つは金融機関から小沢さんの名義で。ということは要するに小沢さんが4億円現金を、貸し付けたんであれば、不動産の取得の代金はそれで払っていたはずなんですよ。それで十分だったはずなんですね。
ところが、報道によると、石川さんの話ではそれでよかったんだけれども、従来から、陸山会の不動産の取得というのは、銀行に定期預金を担保に入れて同額の融資を受けるというやり方をしてたから、小沢さんから現金が入ったけれども、それとは別にそういうようなスキームも使って、借り入れもしたというふうに言っているようなんですよ。
ということは、本来1つでいい借り入れというものが2つになっていて、その2つの借り入れがその後ですね、最初現金で借りて払ったお金、それが振り返られていったんじゃないかと思うんですね。定期預金担保の銀行からの融資の。そうすると、最初の小沢さんからの現金100%が購入代金だったのが、徐々に振り替わって、途中からは、銀行からの借り入れが、不動産の取得代金というふうになっていったんだと思うんですよ。
そうすると、結局のところ、収支報告書で開示すべき事実として、この3億4千万の不動産の原資は何ですかと言ったら、小沢さんから4億円借りたんですと、というのが実態ですよね。
それが最終的には徐々に、銀行からの借り入れというものに振り替わっていったけれども、それも同じ小沢さん個人の借り入れなんですと。名義は小沢さんですと。現金なのか、銀行からの借り入れなのかというところが徐々に変わっていったんだと。
要するに、不動産の取得原資は、基本的には小沢さんからの貸し付けなんだということにおいては、そんなに実態との大きな食い違いはなないといことなんですね。その借入金4億円というのが記載されて解消されていって、最終的に陸山会が取得した不動産になるということは。
そうすると、たまたまそのスキームが両立していたというのがあって、一時期、それは定期預金担保で融資を受けたという時期があったとしても、実質的には、不動産の取得のために従来から使っていたスキームが途中経過でずっと進んでいたから、だぶっちゃった時期があったとしても、実質的には小沢さんの借り入れによって不動産を取得したということに変わりはない以上、そんなに実態と食い違った処理が行われていたとは、必ずしも言えないと思うんですね」
岩上「うんと形式的な、重箱の隅をつつくようなことを言ったとして、元検事としてですね、あえて、無理矢理にでも起訴しようと思った時に、何か罪状つけられるんですか」
郷原「そういう意味では、確かに形式上はですね、小沢さんからの現金の借り入れがあった。それとは別に小沢さん名義で銀行から借りたものの借り入れがあった。2つあった。2つあったうちの1つしか書いてないから、だからそれは違反なんだと。ということは、形式論としては言えなくもないかもしれません。
ただそれが、本当に政治資金規正法に違反する、だからこれが悪いんだというような違反事実なのかどうか、ということですよね。しかも、銀行からの借り入れのほうは、小沢さんの名義を使わなくちゃいけなかったけれども、実質は、陸山会が金融機関から借りたということですよね。実質は。
小沢さんからのお金は、実際に小沢さん自身がお金出しているわけですよ。そういう意味で言えばですね、小沢さんから借入金が入ってます。そして残高が借入金これだけあります、ということが表示されているということは、実態とそんなに大きく食い違っているわけではないし、政治資金の収支として開示すべきものが、開示されてないといって悪質な行為とまでは言えないと思うんですね。
ただ問題は、その4億円の中身なんですよ。それを、今マスコミのほうで朝日とか読売とか書いているのは、その原資が非常にやましいお金で、それを隠すために、この銀行の定期預金と銀行からの借入金というスキームを使ったんだというふうに言っているわけです」
岩上「闇のお金……」
郷原「そういった闇のお金みたいなものがあってと」
岩上「ロンダリングするためというか、隠蔽するためというか……」
郷原「そう。そのお金が、非常に表に出しにくいやましいお金だったとすると、それは確かに動機の部分で悪質性があるということにもなるかもしれないし、犯罪として処罰すべき、というようなことにもなっていくかもしれないです。
だから私は『サンデープロジェクト』の中でも何回も言ったし、今日の『日経ビジネス』にも書いたのは、小沢さんがとにかく、説明を求められている現金の貸し付けの原資、これを早急に明らかにすべきなんですよ。 今回の件については、それは小沢さんの責任として早くやるべきですよ。そこが、本当にやましいお金じゃないというのだったら、それを小沢さんが言ってしまえば、何の問題もないじゃないですか。
そういう意味で私は、前の大久保さんの事件のときにね、起訴された後に、さんざん説明せよ、説明せよと、説明責任を問われてね、それで結局説明できないんだったら辞任せよ、ということで辞任しちゃったんですけども、あの時とは違うと思うんですよ、今回は。
あの時は、ゼネコンから多額の献金を長期間に渡って受け続けてきたのはなぜかとかね、そういう問いだったわけです。それは、なかなか簡単には言えないですよね。与党政治家も含めて、昔の政治資金の流れというのは、基本的にそうだったわけですから」
岩上「当時としては厳しく問われることはなかった、ということですよね」
郷原「その説明を求められても、なかなか説明し尽くせない事があると。しかし、今回の『説明しろ』と言われているものは、個別の事柄じゃないですか。4億円のお金をどこから持ってきたのかと、それを説明さえしてしまえば、別に石川さんがね、政治資金規正法違反に問われるほどの話じゃないと思うんですよ。
だから私は、今回の件については、まず小沢さんに言いたい。早く説明すべきだと。説明できない、本当に絶対説明できないようなお金だとしたら、やっぱりこれは放置できないですよね。やはりその問題は避けて通れないです」
岩上「私は、小沢さんの会見に何回か出ているんですけれども、いつも小沢さんが言うことは、『全て押収されてしまっている。何も手元にない。だから説明のしようもない』という言い方がまず1つ。それからもう1つは、『捜査が入っているから、個別のことに関していちいちコメントできない』と。これはある意味そうでしょう。人権とかそういう意味で黙秘する権利もありますから。政治家としての説明責任というのは、また別にあるかもしれませんが」
郷原「それは細かいところまで説明しろと言われたって、これは無理ですよ。しかし今回の件はそうじゃないじゃないですか。あの世田ヶ谷の土地を買ったときに、小沢さんが4億円の現金を出したんだとしたら、それはどこからもってきたものなのか、いろんな所からかき集めたんならともかく、こうだということぐらい言えるでしょう」
岩上「今、言われているのは、1つは西松建設のからみの、表に出せない金が原資なんじゃないかという噂みたいな話です。何が根拠がはっきりしないですが」
郷原「だから、そういうような表に出せないようなやましい金じゃないということなのであれば、それは説明すればいいんですよ。
しかも、もう1つはね、問題は捜査中だからという話はね、これは確かに鳩山さんの時はそうでした。私もそう言ったんですよ。鳩山首相は説明すべきではない。それはなぜかと言ったら、総理大臣という立場にあって、法務大臣に対する指揮権というものを持っているわけですよ。そのような立場で、捜査されている事項の中身について発言するというのは、これは当然影響があるし、それは適切ではないということは言いました。
その時はなぜそう言えるかと言ったら、総理大臣の立場であるからということと、あの事実が違反であることは、もう否定できないですよね。だから検察がそのまま捜査していった時に、当然最終的に処分をする上で、事実関係が非常に問題になるわけですよ。違反であることが否定できない。だから刑事処分が行われることも基本的には予想せざるを得ない局面なんですね。
ところが今回は、検察の正式な捜査のアクションというのは、まだ何もなかったんですよ。強制捜査が行われているわけでもないし、告発されたから、告発された事実について一応捜査することは当然かもしれないけど、そういう当たり前のことが行われている程度かもしれない。あとはマスコミが一方的に騒いでいるだけなんですよ。
そうだとすると、しかもその中身を見てみたらね、私は何が処罰すべき事件なのか分からない程度のものでしかないんですよ。それを小沢さんが説明しないから、まだまだくすぶっているわけですよ。それが逆に、石川さんが刑事責任を問われかねないような状況になっているわけだから」
岩上「一説にはまた、相続したお金ではないか、という話もありますよね。とすれば、税逃れという嫌疑がかかるかもしれない。ただこれも時効になるんじゃないかという話もあると言われている」
郷原「そう言ったことも含めて、とにかく4億円のお金が、小沢さんから渡ったことが間違いないんであれば、それはその中身を早く説明することで、この事態の収拾を図るというのが、私は小沢さんの責任だと思うんですね。
それをやらないから、ますますいろんな憶測を呼んでしまって、事態が長期化してしまう。それは今の日本の国にとってもね、社会にとっても決して良いことじゃないと思うんですね。もっともっと政治が取り組まないといけない問題がたくさんあるわけですから」
岩上「そうなると、説明できない理由があるのではないかと……」
郷原「ということになってしまうんですね」
岩上「漠たるものであっても、疑いがある……」
郷原「もちろん、マスコミの側にも、もし検察のほうから情報が出ているとすると、そっちには重大な問題がありますよ。そういったことで説明を求められること自体が、本来おかしいと、これは遠藤さんが言っている通りなんですよ。
しかし、現に、もうそういうことになっている以上は、小沢さんがその説明をしないと収まらないんですよ。この事態は。だから今日だって強制捜査までいっちゃったわけですよ。
まずはそこの説明をして、事態を決着させることを図るべきだし、その上で、じゃ何だったんだと、今までの騒ぎは。何でこんなことになって、こういうふうな形で捜査に関連づけてマスコミはこんな報道をしたんだと、捜査に関する情報管理は適切だったのか、というようなことは、その上で問題にすべきことであって、まずはこの事態を解決するためには説明をきちんとするということしかあり得ないと思うんですよ」
岩上「これ、『世に倦む日々』という、匿名のブロガーの人が書いているブログがあります。先生に対する『反論』というのですが、これ、ご覧になりました?」
郷原「読みました」
岩上「これ、ものすごくシニカルというか、ニヒリスティックに書かれてるんですね。郷原先生は間違ってるという。法的には郷原先生の主張の通りかもしれない。でも法の問題じゃないと。やっていることは、そもそも政治なんだと。マスコミも、官僚も、検察も、全力を挙げて政治的に『小沢一郎』という存在を葬り去ろうとしていると。葬り去るために捜査があり、起訴されてしまえば、もうおしまいである。一審判決が出て、その判決がどういうことになっても、二審があって、ずっと引きずっていってしまう。
それまでに関係者はみんな亡くなっているし、引退していると。小沢さんも、もう生きていないかもしれない。みんな入れ替わってしまって忘れていく。
つまり逮捕、あるいは起訴された段階から、『小沢一郎』という政治家の政治力、政治的な生命、影響力というのは失われてしまう。そのように彼を政治的に葬ることが目的の捜査であり、裁判であり、そして一緒になっているのが報道なんだと。非常にニヒリスティックな見方を示しているのですが、これはどうお考えになりますか?」
郷原「だから、そういったことがまかり通っていいのか、という話ですよね。まさにそうなんです。そのために、どうしなくちゃいけないのかって言ったら、私は大久保事件の時には、検察の捜査のアクションが表に出ているわけだし、強制捜査も入って逮捕もしている。何を一体根拠にやっているの、どんな被疑事実なんだと。なぜそれが政治資金規正法上、重大な犯罪と言えるのか、というようなことを色々考えながら、いろんな問題があるということを指摘してきたわけですよ。
このような事実で、このような強制捜査、逮捕ということを行うのが適切なのか、違反の正否自体も問題であるということを指摘したわけですよ。そういった問題を指摘することによって、そういう、逆に言えば政治的な動機で捜査が行われているということの問題も、みんなが認識できるんじゃないかと。
決して、その本来の政治資金規正法の捜査処理として、適切なやり方が行われているとは言えないんじゃないかということを指摘することによって、一方でなんかそういうね、意図があるんじゃないかということも……」
(続く)