【IWJブログ・東京都知事選】「国家戦略特区」は“ブラック特区”派遣法改正で拡大する賃金格差~岩上安身による棗(なつめ)一郎弁護士インタビュー 2014.2.4

記事公開日:2014.2.4取材地: テキスト
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 東京都知事選の争点は「脱原発」だけなのか。原発問題が重要な課題であることは間違いないが、果たしてそれだけなのか。「脱原発以外はイシューではない」という一部の主張によって、私たちは重要な論点から目をそらされようとしているのではないか。改めて考えてみる必要がある。

 昨年12月の臨時国会で可決された国家戦略特区関連法案。1月22日、安倍総理は「世界経済フォーラム年次会議」(ダボス会議)で、「既得権益の岩盤を打ち破るドリルの刃になる」「春先には、国家戦略特区が動き出す。向こう2年間、そこでは、いかなる既得権益といえども、私のドリルから、無傷ではいられない」、と各国首脳や企業のトップを前に宣言した。

 他方、細川護熙候補も1月22日に都庁記者クラブで行われた出馬会見で、「岩盤規制と言われる、各種の既得権によって阻まれてきた医療、介護、子育て、教育などの分野での規制改革を強力に推し進めていきたい」と、安倍総理の「岩盤規制の打破」と同じ言葉を使って、規制緩和の重要性を説いている。

 労働者派遣法の改正を審議してきた厚生労働省の労働政策審議会は1月29日、派遣労働に関する規制を大幅に緩和する法改正案をまとめた、同法案は今国会に提出され、来年春から実施される見通しだ。

 同法案では、現行3年の派遣受入期間を撤廃する他、これまで「無期限派遣」が可能だった「専門26業務」が廃止されるなど、企業が正社員を派遣社員に置きかえやすくする内容となっている。

 今回の改正案について、労働問題に詳しい棗(なつめ)一郎弁護士は「労働規制の緩和ではなく、破壊だ」と警鐘を鳴らす。

 東京都知事選の争点の一つであり、安倍政権が進める「国家戦略特区」の導入が、このような労働の規制緩和の延長線上にあることは明らかだ。「国家戦略特区」によって労働者はどのような状況に置かれるのか。棗一郎弁護士に、岩上安身がインタビューを行った。

▲岩上安身のインタビューに応える棗一郎弁護士

※記事本編はこちらからご覧ください。

以下、インタビューの実況ツイートをリライトし、再構成したものを掲載します。

国家戦略特区は「簡単に解雇できるようにするためのもの」

岩上安身「労働問題に詳しい棗一郎弁護士にお話をおうかがいします。現在、若者の労働問題が注目されています。そのような中で、安倍政権が国家戦略特区を進めています。国家戦略特区については、安倍総理と諮問会議に権限が集中する仕組みになっています。今回の東京都知事選でも、この国家戦略特区は重要な争点ではないでしょうか」

棗一郎氏(以下、敬称略)「今の日本社会の雇用は、正規と非正規の格差が非常に開いているというのが現状です。1997年から非正規労働者がどんどん増えていまして、既に4割を超えています。

 派遣労働者の方は、年収が300万円以下の方が4割を超えます。派遣ネットワークの方にお話しを聞くと、なんと月給が17万円しかないんですよ。このように条件が非常に低く、不安定な状況にあるにもかかわらず、政権は非正規雇用をさらに拡大しようとしています。

 企業にとっては派遣労働は使いやすいし、賃金も低いし、期間が過ぎれば簡単に解雇することができます。現在は26の業務に限定されていますが、それがさらに拡大されようとしています。若い方の正社員の就職口がどんどんなくなると思います。

 現在の政権も、正規と非正規の格差が問題だと認識はしています。しかし、国家戦略特区の発想はその逆です。『岩盤規制』を打破すると言ってますが、これは労働者を保護するための規制です。日本の憲法や労働基準法がなぜ『岩盤規制』ということになるのでしょうか。

 国家戦略特区というのは、自由に解雇できるようにしようというものです。現在の日本の規制は世界的に見て標準的なものです。これを取り払うと、労働者が丸裸になってしまいます。特区は、世界一低賃金で、簡単に解雇できるようにするためのものです」

岩上「私も経営者ですが、一緒に働く仲間を使い潰すというような発想は、とても理解できません」

労働規制の破壊

棗「企業としては、本当に必要なのは一部の正社員だけで、後は取り換えが可能な人材が欲しいわけです。これまでの正社員の賃金モデルを捨て去ろうとしています。

 非正規の方が増えると、共働きになり、子育てが難しくなります。そうなると、少子化に歯止めがかからなくなってしまいます。今回の派遣の完全自由化に向けた動きは、労働人口を外国人労働力で補填することを前提としたものでしょう」

岩上「最後は『移民の導入』という話も聞きます」

棗「私もそう思います。現在の日本で権力を持っている方々は、日本に格差があってもいいと考えているのでしょう。もはや完全に割り切ったんだと思います。今回の派遣法改正は、労働規制の緩和ではなく破壊です。

 国家戦略特区の発想は、労働時間の撤廃です。1日8時間の労働、8時間の睡眠、8時間の私的時間というのが人間生活の基本です。それを上回る業務を課すなら、当然残業代を払わなければならない。特区を作るということは、これをやめようということです」

岩上「まさに奴隷労働であり、19世紀のようですね」

棗「本当に、こんなことを推進しようとしている人たちの気がしれないですよ! とんでもない! 労働者のことをなんだと思っているのでしょうか!」

 さすがに法の下の平等に反するということで、政府はいったん引っ込めました。ですが、現在の特区構想の柱に、有期雇用の人たちを5年経ったら正社員にできる労働契約法を撤廃するというものがあります。

 参院選が終わってから、このような労働規制緩和の提言が、産業競争力会議などからどんどん出されています。正規と派遣の賃金を同一にする”均等待遇原則”が世界の常識ですが、産業競争力会議などにはそんな発想は全くありません。

 雇用の流動化がいいという議論がありますが、とんでもないですよ。正社員の方が解雇されたとして、正規の職に再就職できるわけがないじゃないですか。非正規を増やすために、雇用の流動化を進めているんですよ」

岩上「1日8時間労働を守るとか、それを超えたら残業代を払うとか、休日出勤をしたら代休を取らせるとか、そういうのは当たり前のことじゃないですか」

棗「特区では、そういうことができなくなります。まさに『ブラック特区』です」

岩上「経営者として気をつけなければいけないことは何でしょうか」

棗「人の労働力、人の人生の時間を使って会社が儲けを得ているということをしっかり自覚すべき。『俺が金を払ってやってんだ!』という考えは改めてほしいですよね」

岩上「休みを与えず働かせ続ければ、人は壊れてしまいますよね」

棗「疲れきってしまった若者をどうフォローするか。相談に来る若者は、仕事で疲れきってしまって、会社を相手にして戦おうという気力をなくしてしまっています」

岩上「『岩盤規制』という言葉は、安倍総理はもちろんですが、細川護熙さんも使っています」

棗「この言葉が特に使われるようになったのは、安倍政権ができてからではないでしょうか。小泉さんは規制緩和の内閣でしたから、その点で発想は一緒じゃないですか」

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