新聞・テレビはなぜ権力に屈するのか ~故・日隅一雄氏が弁護士として手がけたNHK番組改変問題の実相を岩上安身が聞く~岩上安身によるインタビュー 第82回 2011.1.9

記事公開日:2011.1.9取材地: テキスト動画独自
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(サマリー執筆・2014年8月、更新・2014年10月:IWJテキストスタッフ・富田)

 享年49。その、あまりにも早すぎる死を悲しんだジャーナリストや市民活動家は、大勢いるだろう。福島原発事故後、不治の病と闘いながら東電の記者会見に連日参加。東電が約1万トンもの放射能汚染水を海洋投棄したことについて、「流水決定の責任者は、武藤栄副社長」との言葉を東電広報部から引き出している──。

 2012年6月12日20時28分、日隅一雄氏は、がん性腹膜炎でこの世を去った。

 死の1年余り前、そして福島原発事故の約2ヵ月前になる2011年1月9日、岩上安身が日隅氏にインタビューした。

 産経新聞記者時代のエピソード、なぜ弁護士になったのか、弁護士として手がけたNHK番組改変問題の実相などについて、よどみなく語った日隅氏。インターネット新聞NPJ(News for the People in Japan)の編集長でもある彼は、IWJ(インディペンデント・ウェブ・ジャーナル)を主宰する岩上安身と、「ネットメディア」の将来性についても熱く意見を交わした。2人は、既存メディアの「体たらく」が顕著な今、独立系のネットメディアの台頭が急務だと訴えると同時に、その将来は必ずしも「バラ色」とは言い切れないことに言及した。

 インタビューの中で日隅氏が指摘した「放送法改正」の問題については、2014年6月20日に「改正放送法」が参議院本会議を通過し可決、成立した。この改正法はNHKのインターネット事業拡大を含んでおり、近い将来に、インターネットも受信料支払いの対象になる可能性が出てきた。日隅氏の予見通り、政府は「もはや電波と通信は一緒のもの」ととらえ始めている印象だ。

 なお、インタビューの後半では、岩上安身が「秘話」を公開する場面も。『脳内革命』(サンマーク出版・春山茂男著)を批判し、「11億円の損害が出た」として訴訟を起こされ、やる気のない弁護士のせいで、自力で和解を掴み取るに至った話が、この日初めて披露された。

■ハイライト

再就職がままならず「弁護士」に

 日隅氏は1987年に京都大学法学部を卒業。しばしの就職浪人生活を経て、産経新聞社に入社した。「実は、新卒の時点で産経の東京本社の採用試験に落ちている。学生時代に、ちっとも勉強してこなかったことが響いたのだろう。その年に10月採用という枠があって、これに何とか引っかかった」。

 兵庫県西宮市での勤務。働き始めて間もなく、同市内にある朝日新聞阪神支局の襲撃事件が起こった。「事件現場からさほど離れていない場所にある産経の支局が職場だった。先輩らは、支局に泊まる際、用心のためのナイフを枕元に置いていた」。

 日隅氏は、影響力がある大手新聞の記者仕事は「ゲーム」と割り切ってしまえば面白い、と言う。「自分が書いたスクープ記事に、職場の仲間が驚く姿を見るのは痛快だった」。

 それと同時に「社の姿勢に対する違和感があった」とも明かした日隅氏は、こう言葉を重ねた。「公益性の高い記事が、必ずしも大きく扱われるわけではなかったから」。

 岩上安身が言葉を継ぐ。「読者にとって、さほど重要な事件でなくとも、その社の記者のスクープであれば大きく扱う。新聞社が気にしているのは、公益性よりも競合他社の動向だ」。

 日隅氏が続ける。「直接、上司に真意を確かめたわけではないが、広告のスポンサーに関するネガティブな原稿は拒否された。たとえば、電力会社が事故を起こしたことを記事にしようとしても、簡単にボツにされた」。

 海外の通信社の日本支社に勤務すれば、もっと自由に報道ができるはず──。入社から4年ほどが経過したある日、こうにらんだ日隅氏は、英語力の会得のために産経新聞を辞め、海外に渡ることを決意し、すぐに実行に移した。しかし約2年間、海外で暮らしたにもかかわらず、英語を自由に操れるようにはならなかった。

 やむなく帰国して再就職する道を選ぶのだが、「日本に戻ったら、バブル景気が崩壊しており、新卒でも就職は厳しく、中途採用など、ほとんど実施されていなかった」。

 いきおい日隅氏は、法学部出身であることを生かして「弁護士」になると決心。「すでに結婚していたから必死だった。睡眠以外の時間はすべて勉強に充て、睡魔が襲ってきたら立って歩きながら教科書を読んだ」。2年間の猛勉強は実を結び、司法試験に合格を果たした。

NHK番組改変問題を担当

 岩上安身が指摘する。「弁護士としての日隅さんは、世間の注目を集めた重要な事案を数多く手がけている」。毎日新聞の元記者が秘密情報を漏らしことを巡る西山事件、NHK番組改変問題、反捕鯨活動にまつわるグリーンピース宅配便窃盗事件。岩上安身は「手がけるジャンルの幅が実に広いことが、弁護士・日隅一雄の特徴だが、どれも『メディア』と関係している」と続けた。

 列挙された事案のうち2001年に起きた「NHK番組改変事件」については──。

 これは、市民グループのVAWW-NETジャパンが実施した、従軍慰安婦問題の責任は誰にあるのかを問う模擬裁判の様子を、NHKが番組として報道したことに関するもの。日隅氏は次のように強調した。

 「その市民グループとNHKの間では『模擬裁判の全容を伝える』という約束がなされていた。昭和天皇が有罪とされることもあり得る点に関しても、NHKは了解していた。しかし、放送されるまでの間に、政府から継続的にNHKに圧力が加わり、放送日の前日には、当時官房副長官だった安倍晋三さんが、NHKのスタッフに向かって持論を説いた。そして、安倍さんの持論に合わない部分を、NHKは急きょカットしたのだ」。

 当時はちょうど、NHKの予算が国会で承認される時期であり、そういう時期のNHKは政治家に対しては特に弱腰になる、と日隅氏。放送された番組の裁判シーンがぶつ切りだったことに、話が違うと怒ったVAWW-NETジャパンが訴訟に踏み切った、と説明した。

 「NHK側は編集権をタテにした。そこには一理あるが、当該番組では市民グループとNHKの間に『全容を伝える』との約束があった。たとえ大きく譲歩したとしても、改変の合理的理由は一切見当たらず、われわれ原告サイドは、編集権を逸脱していると主張した」。

放送免許の「政府管轄」は大問題

 2004年3月の1審では、VAWW-NETジャパンに接した孫請け会社に責任がある、との判決が下されるが、2007年1月の高裁の段階では、NHKスタッフの「政治家からの圧力があった」との内部告発もあり、原告側が逆転勝利。しかし2008年6月、最高裁では「NHKがやったことは編集権の範囲内」とされ、原告側の敗訴が決まった。

 日隅氏は「高裁の判決文と最高裁の判決を、ぜひ読み比べてほしい」とし、「高裁の判決文は『現場のスタッフが作ろうとしていたものとは違うものへと、上司のひと言で変えられた。現場スタッフの表現の自由も歪められている』といった趣旨のことが書かれている。実に、素晴らしい内容だ」と口調を強めた。

 インタビュー後半では、日本のメディア業界の問題部分に関する論議があった。岩上安身が、日隅氏の近著『マスコミはなぜ「マスゴミ」と呼ばれるのか』(現代人文社)を手にとって、「この本のタイトルは扇情的だが、中身は極めてロジカルだ」との寸評を行った。そして、同書も指摘する「独立行政委員会」が不在であることが話題に。

 これは、日本のテレビ業界ならではとも言える問題点であり、背景には、放送免許をめぐる、ほかの先進諸国には見られない実態がある。

 日隅氏は「言うまでもなくテレビ放送は電波を使用するため、免許制になるのは当然だ」としつつも、「問題は『誰(どの会社)に免許を与えるかを、誰が決めているのか』という部分だ」と強調し、次のように訴えた。

 「日本の放送免許の許認可権は、政府(総務省)が握っているという制度のあり方では、政府が自分たちにとって好都合な会社に免許を与え、都合の悪い会社から免許をはく奪することが可能になってしまう。それは、日本のテレビ局が政府の『プロパガンダ機関』になることを意味する」。

 そこで必要なのが公正取引委員会ならぬ「独立行政委員会」と日隅氏。内閣から独立した、この組織の管轄という「世界の常識」にならうことで、テレビ放送の「表現の自由」を確保することが肝要、と力を込めた。

報道操作は民主主義の大敵

 そして議論が、日本の新聞社とテレビ局の「系列」の問題におよぶと、岩上安身は「政府は、たとえば朝日新聞を締め上げたいのなら、テレビ朝日の免許更新の部分で圧力をかければいい、という話になる」と発言しつつも、「現実問題として、テレ朝がある日突然、テレビ局でなくなることは、そう簡単には起こり得ない」と指摘。日隅氏は「免許の更新時期でなくとも、政府は常にテレビ局に圧力をかけることが可能。だから、NHKの番組改変問題が生じた」と語った。

 岩上安身は「ニューカマー(新たなテレビ局)が登場しない、という問題もある。Jリーグの入れ替えのようなことは、今の日本のテレビ業界には起こらない」とも述べ、それが既存のテレビ局の横並び報道の温床になっている可能性は極めて高い、との見方を示した。

 日隅氏は「日本ならではの巨大広告代理店の存在も、テレビ業界にまつわる大問題」だとし、「経済界が、実質上のテレビ局の『財布』の持ち主である電通を通して、各テレビ局に圧力をかけている」と言及した。

 岩上安身から「新聞社は、今どの程度、広告収入に依存しているのか」と質問があると、日隅氏は「私が記者だった時代は、購読料は販売店の経費にすべて回り、要するに本社の収入といえるものは、広告収入のみだった」と応じ、新聞社にも経済界からのプレッシャーがかかりやすいとした。

 日隅氏は力説する。「政府や企業から圧力がかかったことが、報道にどう反映されたかを、国民は知ることができない。だからなおさら、『メディアの報道に、政府や企業が圧力をかけることは許されない』というのが世界の通念なのだ」。

 岩上安身も言う。「民主主義社会は、メディアが提供する情報の上に成り立つもの。だから、メディアの報道が、外からの圧力で歪められてはならないのだ」。

 その後、日隅氏は独立行政委員会に「政府の息」がかからないようにするにはどうすればいいか、との視点で、さらに発言を重ねていった──。

ネットジャーナリズムの未来はバラ色か

 「自分が知り得た事実を公表することに、公益性があることを確信した者は、たとえ自分の職業が記者やジャーナリストでなくとも、その情報を発信していい。つまり市民には、知る権利とともに『知らせる責任・義務』があると思う」。

 今後のジャーナリズムのあり方を探る議論では、岩上がこう主張した。

 そして、インターネットの大普及が、それを容易にしていると指摘すると、「情報発信でミスをしてしまった場合は、早期の謝罪と訂正が肝要だ」と強調。一般市民がミスを恐れて、自分が情報発信者になることに気後れしてしまうことが一番良くない、と訴えた。

 日隅氏もまた、「あのニューヨーク・タイムズだって、日々、2面に訂正スペースを割いている」と紹介し、同紙の記者らは正確な報道を心がけつつも、自分が犯したミスを潔く認めていると説明した。「私が実際に会ったニューヨーク・タイムズの編集スタッフは、『われわれは(大手メディアにありがちな)無謬神話とは、かなり前に決別している』と話していた」。

 日隅氏が「新聞やテレビが巨大権力に押さえられている以上、残りは『出版』ということになるが」と岩上安身に水を受けると、岩上安身は自身の経験に照らしながら、「総合月刊誌は、商業的にほぼ壊滅状態。週刊誌もまた、名誉棄損の罰金がつり上ったのを受け、無難な記事が主流になっている」とし、雑誌ジャーナリズムにもほとんど期待は持てない、と話す。

 であればなおさら、誰もが発信者になれるインターネット・ジャーナリズムの台頭が「時代の要請」である、との認識で2人は一致するのだが、それと同時に「とはいえ、ネット・ジャーナリズムには黙っていても「バラ色の未来」が開けると、楽観するわけにはいかない」(岩上)との共通認識も示されるのだった。

ネットは「表現規制」とは無縁?

 「ネットにも、政府は規制をかけられる」。日隅氏は、こう口調を強めて「フィルタリング・ソフト」の名前を挙げた。

(…サポート会員ページにつづく)

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<関連リンク>
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「新聞・テレビはなぜ権力に屈するのか ~故・日隅一雄氏が弁護士として手がけたNHK番組改変問題の実相を岩上安身が聞く~岩上安身によるインタビュー 第82回」への2件のフィードバック

  1. hotaka43 より:

     ヤフーニュースなどはもうフィルタリングをしています。私が他者のネトウヨ的書き込みを批判することを書き込んだら、私自身の書き込みができなくなりました。書いても表示されないのです。他の人が5000,8000などという評価が出ていても、私は上手くいっても20,30で終わってしうようになってしまい、この頃は0ばかりです。
     又、msnのアドレスでの書き込みはmsn自身が止めてしまったようです。他の所にも書き込みできません。
     そんな中で極右的書きこみだけを読んで感化されていく若者が大勢居るんだろうなぁ、と危惧しています。
     といってフェイスブックなど新しいものは余り使いたくないのですよね。これ以上個人情報を広げたくないんですがねェ。

  2. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見) より:

    新聞・テレビはなぜ権力に屈するのか ~故・日隅一雄氏が弁護士として手がけたNHK番組改変問題の実相を岩上安身が聞く http://iwj.co.jp/wj/open/archives/9134 … @iwakamiyasumi
    マスメディアの「日本独自の規制」を鋭く、分かりやすく日隅さんが教えてくれます。
    https://twitter.com/55kurosuke/status/584872758066053120

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