醍醐聰東大名誉教授他 「TPP影響試算作業チーム」による北海道現地調査密着取材 1日目 2013.5.13

記事公開日:2013.5.13取材地: テキスト動画
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 2013年5月13日(月)、北海道札幌市中央区の北海道庁で、醍醐聰東大名誉教授他「TPP影響試算作業チーム」と、北海道庁担当者との意見交換会が行われた。

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 北海道は、すでにTPP交渉参加による影響試算を発表している。米、小麦、てん菜、でん粉原料馬鈴薯、小豆、いんげん、乳製品、牛肉、豚肉、鶏肉、鶏卵、軽馬種の12品目を試算対象とし、4762億円の生産額減少と見積もっている。

 北海道は、3月18日付けで、「国民に対する十分な情報開示がない中で、3月15日、安倍首相がTPP協定交渉への参加を表明されたことは極めて遺憾」との文書を発表している。47都道府県では最もTPPに反対している自治体のうちの一つだ。

■北海道庁での意見交換会 ※機材の不調により、一部お聞き苦しい点がございます。何卒ご了承ください。

  • 参加
    • 影響試算作業チーム
      東京大学名誉教授 醍醐聡氏
      静岡大学名誉教授 土居英二氏
      桜美林大学専任講師 三好ゆう氏
      道内大学教員 5名
    • 道庁関係者
      総合政策部政策局 仲野主幹、原主査
      農政部農政課 福島主幹
      水産林務部総務課 遠藤主査、伊村主任
      総合政策部経済調査課 梶田主幹、安部主査
  • 日時 2013年5月13日(月)
  • 場所 北海道庁(北海道札幌市)

■「TPP影響試算作業チーム」が北海道庁に送った質問事項

■北海道庁のホームページに掲載されているTPP関連資料



醍醐聰氏と北海道庁側の主なやり取り

醍醐氏「小麦や米、原料が関税撤廃されたら、第一次加工までがセットで影響を受けるとお考えか。第二次加工以降は、国産がなくなっても輸入に頼ってやっていけるという想定なのか」

北海道庁農政課主幹福島氏「そう整理せざるを得ない、という感じがする。例えば小豆などは、中国産が大量に入る。国産を売りにしている農家の方などは、打撃を受けることになると思う。他方、アンコなどは輸入でも代替可能かと思う」

醍醐氏「農業が、生産だけでなく、加工から流通までワンセットでやっていこうという流れが出来てきている。これがTPPの関税撤廃で打撃を受けたら、サプライチェーンが駄目になるのではないか」

福島氏「小麦は年にもよるが、自給率が10%しかない。しかも品質は輸入品のほうが安定しているという現状がある。国産にこだわると、どうしてもコストが高くなる。それだけの消費者が付いてくればだが」

醍醐氏「製粉工場、今は生産地の近くに置いているかと思う。輸入品でよいなら、あえて現地、例えば十勝などに工場を置く必要はなくなると思う。

 入り口の品目の設定が非常に大きい意味を持つと思う。今の日本政府の考え方は、現段階でTPPに参加している国から、輸入がどれくらい来ているか、というものだ。

 仮に今後、コンニャクの関税が撤廃されたとしたら、新しく日本向けに輸出しようという国が現れるだろう。今、TPPに参加していない国でコンニャクをたくさん生産している国があれば、そこのものが入ってくることになる。

 道庁として、今後政府にはどう働きかけていくのか」

道庁総合政策部仲野氏「知事が国に要請しているとおり、国民合意・道民合意がないままでのTPP協定の参加には反対の立場。政府には情報提供を行うこと、これまで関税撤廃したことのない品目について引き続き関税を維持すること、本道経済や道民生活に影響が生じると見込まれる場合には、交渉から撤退するなど万全な対応を行うことを求めていく」

醍醐氏「反対するのは、政府が言う5品目を超えるのか。最近、甘利さんは『聖域』をぼかし、拡大解釈するような言い方をしている。

 私は、判断基準が明確でないと、守れるものも守れないと思っている。交渉が実際に始まったら、情報が完全にクローズになる。今の5品目が守られるのかどうか、国民も議員も道庁さんも、完全に分からなくなる。だから、現場にいる行政の方々には、ぜひ頑張っていただきたい」

仲野氏「繰り返しになるが、引き続き、国に対し情報提供を求めていきたい」

■醍醐聰氏によるまとめ

――北海道庁で担当者と意見交換をした率直な受け止めは。

醍醐氏「元データを提供してもらった。事前に送った質問に対しても、農政部の方を中心に、丁寧に説明してもらった。実りのある議論ができたと思う。また、北海道庁も、試算するに際し、私たちと同じ問題に直前していることが分かった」

――直面している同じ課題とは何か。

醍醐氏「農水省は、関税が撤廃されたら、生産額がどの程度減少するかを品目ごとに試算している。しかし、これは単純な計算ではない。例えば小麦では、原料の段階のものを対象にするか、それとも製粉されたものを対象にするかで、試算額が大幅に違ってくる。このような細かい点をどうするか、私たちも難しいと感じていたし、道庁側も同様の感覚を覚えているようだった」

――都道府県別に試算を出すことの意義は。

醍醐氏「政府による重要品目の選定には、恣意的なものを感じている。例えば、コンニャクは重要品目に入っていない。しかし群馬県は、全国で90%のコンニャクを生産している。群馬県にとっては、コンニャクが最重要品目だ。政府はTPP参加国から輸入実績がないことを理由に、コンニャクを重要品目から外している。しかし、関税が下がれば、今後輸出をしようとする国が新しく出てくるかもしれない。だから、都道府県ごとの現状を踏まえて試算をしなければ、現実とずれた結果が出てしまう。全国ベースで試算を出すだけでは、実態が見えてこないのではないか」

――明日、帯広・十勝に向かうが、主にどのような点を調査したいか。

醍醐氏「生乳や製粉など、十勝・帯広に特化した産業があると思う。例えばトラック業界でも、生乳を運搬するためのトラックがあるのではないか。十勝産の生乳が輸入品に置き換わった場合、そうした関連産業がどのような影響を受けるのか、現場の声を聞いてみたい。

 日米事前協議の結果、日本側が大幅に譲歩していたことが判明した。日本側に交渉力がないことの証拠だと思う。この状態で、最後の国会での批准の段階で何とかしようというのは、現実味のない話だと思う。しかも、7月に交渉に参加したら、情報が何も出てこなくなる。そうなったら、国民はもちろん国会議員でさえも、交渉の内容が何も分からなくなる。批准の段階で大騒ぎしても、手遅れということになりかねない」

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