第3回 9条セミナー「アジアの中の日本 領土問題と日本の安全保障」孫崎享氏講演 2013.3.23

記事公開日:2013.3.23取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・富田/奥松)

 2013年3月23日(土)13時半から、新潟県新潟市のクロスパル新潟で、「第3回 9条セミナー『アジアの中の日本 領土問題と日本の安全保障』孫崎享氏講演」が行われた。講演者の孫崎享氏は、うそと詭弁が通用する政治の現状を批判し「日本では言論統制が始まっている」と警鐘を鳴らした。

※13時半からの収録を19時より録画配信しました。

■全編動画

  • 講師 孫崎享氏(元ウズベキスタン・イラン大使、元外務省国際情報局局長、元防衛大学校教授)
  • 日時 2013年3月23日(土)13:00~
  • 場所 クロスパル新潟(新潟県新潟市)
  • 主催 新潟県9条の会

 冒頭で、孫崎氏は「これからの日本の政治では、女性が主役になるべき」と主張、検察や裁判所の腐敗を批判することでも知られている、森ゆうこ参議院議員(生活の党)を、その筆頭に挙げた。「会社などの中で生き残っていくのに必死な男性には、組織のしがらみがあり、原発やTPP(環太平洋パートナーシップ協定)について、自分の意見を示すのが難しい。しかし、主婦は、教育を十分に受けている上に、家庭に入っており、自由に自分の考えが述べられる。政治家としての覚悟が備わっている森氏なら、日本の主婦層の代表になれる」と述べた。

 孫崎氏は「今の日本の政治は、危機的状況にある」と主張、「憲法9条の改正が現実味を帯びる中で、今の自民党の政策に疑問を感じる人たちが、積極的に投票できる政党の確立が急務である」と訴えた。しかし、「個々人を大切にするリベラル派の政治家には、多少意見が違っても大同団結を組む動きを期待しにくい」とも指摘し、今の自公連立政権の対抗軸をつくることは容易ではない、との考えを示した。

 その後、孫崎氏は「昨年の衆院選で、TPP参加に反対の公約を示して当選した自民党議員240人は、今、何をしているのか」と疑念を表明し、次のように続けた。「政治が国民に対し、あるべき国の姿を示し、選択を迫るのが本来の姿だ。しかし、TPP問題に限らず、今、横行しているのは争点の隠ぺいだ。重要なことには触れず、国民を一定の方向に導こうとしている」。その上で、TPP参加は日本に不利、と主張する自分を出演させたNHKを、自民党議員が批判したことを話題にし、「その議員は、TPP反対を掲げて当選したのだ」と怒りをのぞかせた。

 領土問題に話が及ぶと、孫崎氏は、日中国交回復に尽力した元外務次官が専門誌に寄稿したレポートを引用し、「尖閣問題は、両国首脳レベルで棚上げにすることで合意された」と力説。今の日本政治を覆う、棚上げは中国側の主張で日本は合意していないと言い張る空気は、「ある種の言論統制にあたる」と断じた。そして、尖閣諸島問題の発端は、石原慎太郎氏(前東京都知事)の発言にあると指摘。「訪米中の彼が講演した場所は、ヘリテージ財団。ここは米国のシンクタンクで、軍事力強化などを掲げている」と説明し、昨年11月に、同シンクタンクのブルース・クリングナー研究員が発表した論評を紹介した。「そこには、米国は日本の政治的変化を利用して同盟を強化すべきである、と書かれている」。

 この論評について孫崎氏は、「安倍政権の誕生と、日本社会に噴出する中国に対する反発心を、米国は活用しない手はない、とする進言だ」と解説を加え、その具体的内容として、防衛費の増大、集団的自衛権の行使、普天間基地の辺野古移転、韓国との軍事協力の推進、の4点を挙げた。「いずれも、安倍政権がやろうとしていることに、十分に重なる。われわれは、尖閣問題が米軍事関係の強化のために使われていることを、見落としてはならない」と訴えた。

 さらに孫崎氏は、1945年のポツダム宣言で、戦後の日本の領土は「本州、北海道、九州、四国と、連合国が決定する、その他の島々である」と限定された歴史に言及。中道右派と目される、読売新聞の1979年5月の社説に、「日中間で棚上げの合意があった尖閣問題を、紛争の火種にしてはいけない」との趣旨の文章が掲載されたことを伝えると、会場にどよめきが起こった。

 最後に孫崎氏は「日本にとって、絶対に優位である棚上げの合意を、日本人自らが存在しないと言っている。それも、政治家とメディアと学者が、一緒になって発言している。実にばかげたことだ」と力を込めた。そして、「こういった詭弁とうそで、日本人の危機感を煽り、日本に集団的自衛権を持たせ、憲法9条を改正させようしているのだ。みなさんは、誰よりも尖閣問題について、正しく理解してほしい」と、客席に向かって呼び掛けた。

 質疑応答の中で、「棚上げをめぐる日中の合意が、文書化されていない理由は何か」との質問があり、孫崎氏は「日中ともに、微妙な案件であり、どこまで文書にできるかが問題となったため、暗黙の了解とされたのだと思う」と語った。

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