第一部のテーマは「水道事業民営化の問題点」。パネリストは椿本祐弘氏(フリーライター・元大和総研主席研究員)と辻谷貴文氏(全日本水道労働組合書記次長)、コーディネーターは山田正彦氏(元農林水産大臣)。司会は三雲崇正氏(新宿区議会議員・弁護士)
※2017年4月16日の実況ツイートをまとめています。
第一部のテーマは「水道事業民営化の問題点」。パネリストは椿本祐弘氏(フリーライター・元大和総研主席研究員)と辻谷貴文氏(全日本水道労働組合書記次長)、コーディネーターは山田正彦氏(元農林水産大臣)。司会は三雲崇正氏(新宿区議会議員・弁護士)
■ハイライト
椿本氏「3月7日、水道法の改正案が閣議決定された。発端としては、麻生副総理が2013年の4月に『日本の水道をすべて、民営化します』と発言したこと。
水道民営化はメリットが明確ではない。コスト対メリットを考えた時、コストがかかりすぎる割にはメリットが少ないんじゃないか。欧米大都市の事例として、コンベンション式で成功している事例は全くない。逆に、再公営化が進んでいる。
2000年頃は民営化の波が非常に高まった。各国が新自由主義的な考えで民営化を進めた。 現在では、トレンドは完全に逆転している。
イギリスは1984年、サッチャー政権のもとで上下水道を完全民営化したと言われる。しかし、完全民営化したのはイングランドとウェールズだけ。スコットランドは公社形態でやっている。北アイルランドは自治体直営。
民営化後、会社の収入源は水道料金だけ。これだけではおぼつかないので、附帯事業をやらないといけない。イギリスの民営会社も附帯事業比率を上げていた。しかし現在では完全に撤退している。
大阪市がやろうとしていることは、パリの失敗の轍を踏もうとしていること。全く世界の潮流から反したことを言っている。極めて奇妙なことを発言している」
辻谷氏「水は自治の問題。コンベンション方式は公共水道にとっては筋が悪い。水道はライフラインであり、公共性が高いが、応分の負担をしないといけないから、地方公営企業が運営している。
90年代以降、経済財なのか、公共財なのか、議論されてきた。経済財にしたい方々が色々と主張してきたが、やっぱり水は人権。
パリの再公営化に至るマインドには、民間水道が約束したものを守らなかったことが背景がある。民営化が進みすぎたため、バックラッシュが起こっている。
日本の水道職員は30%削減されている。技術の継承も大変、老朽化・耐震化にも時間がかかる。人口減少により収益は右肩下がり。
水道法改正のこれまでの経過。いろいろなところで持続可能な水道を実現しようとしてきたが、各地域の事業所はなかなか応じてこなかった。このため法改正に至った。
麻生氏のCSISでの発言は、『ジャパンハンドラー』の要請を受けたものではないのかと思う。しかし、アメリカに言われたかどうかは別として、現在の安倍内閣は国策として、民営化を進めている。
今の政権状況を見ていく限り、どれだけ反対しても通ってしまう。そういう中でどうするのか。議論中で有益な答弁、議事録を残すことが重要。附帯決議も用意しておいた方が良い。
水道事業を維持させることは、その地域を維持させることだと思う。水は自治の問題として、一人一人の問題として、皆さん方と一緒に考え、行動していきたいと思う」
山田氏「水道法改正、一番の問題点は、アメリカの要求なのか、そうでないのか。TPP協定の中に水道事業も含まれている。アメリカの多国籍企業が日本の公共サービスをすべてビジネスにしようとしている。
運営権の譲渡、水道料金はどうなるのか、各自治体の権限が縮小されて行くのではないか。改正法案の各条文を読んでいくとわかる。
水道法改正により『健全な経営を確保することができる』という文が追加される。企業を前提として、企業の儲かることを前提として改正される。
水道の運営を民間に任せると災害の時に運営が止まるのではないか。過疎地には行き渡らなくなる可能性がある」
椿本氏「上水道の民営化について、大阪市、奈良市では今のところ、否決されている。下水道については浜松市ですでにおこなわれている。問題がある」
山田氏「老朽化した水道施設を民間が本当にやってくれるのか。その費用は水道料金に上乗せさせられるのではないか。現場はどう考えているのか?」
辻谷氏「水道料金は上がるでしょう。大阪では現在、耐用年数を超えた水道が50%を超えている。経営の枠組みばかりを議論して地に足のついた水道行政をしてこなかったんじゃないかと批判する議員もいる」
山田氏「水道はいのちに直結する。現場はどう考えているのか」
辻谷氏「公営水道としてやってた当時、未納整理に行ったこともある。水道を止めないようにするため、全額でなくても、一部納入にして帰ったこともある。民間企業にしたらどうなるのかはわからない。
水道料金の関係でいうと、現状で50%の自治体で原価割れしている。公営で継続させる上でも、ある程度上がることは仕方がないと思う」
山田氏「水道事業は公共のものであり、我々のいのちに関わる。それを民間に譲渡したらどうなるのか、世界の事例でわかってきた。補修については、民間企業が投資でおこなうのではなく、税金で賄うべきではないかと思う。
水道法改正案が通ったとしても、自治体の権利で公営を維持することができる。各自治体でしっかりと検討しないといけない」
白鳥氏「長野県の伊那市は集落が点在している。老朽管の更新も手がつかない。コスト的に公営企業でも難しいのに、民間になった時にできるのかと思う」
出席者「水道を民営化させないために、どういう点が提案できるのか。改善点はどこにあるのか」
辻谷氏「今の地域の現状を知ることが一番大事。その上で、民営化するのか、公営のまま続けるのか、話し合って決めることが重要なのではないかと思う。
今の水道事業の効率が悪いとは思っていない。しかし例えば、調達の問題。そういうところは効率化できるかと思う」
出席者「水道法第11条について、水道事業を民間業者から他の業者にゆずりわたす場合、議会の承認が入らない、届出で済むようになる、と読める。歯止めの意味がなくなるのではないか」
椿本氏「水道については事業法の規制があるので、所有が変わっても勝手なことはできない。水道法の11条については、事業からの退出の話。民間企業が入ってきた場合、退出せざるを得ない場合がある。その場合、譲渡することがあるのではないか」
三雲氏「水道法6条が事業参入の話で、11条が退出の話。事業を辞めるときには規制がかからない。新しく入ってくる事業者に関しては、6条でまた議会の同意が必要になる」
第二部は「PPP/PFI推進施策の問題点」について、地方議員からの報告および参加者意見交換
三雲氏「PPP/PFIについて。PPPとは公民連携。つまり公共と私的分野の連携、民間の活用。PFIとは民間の資金を使って、あるいは経営能力を活用して、効率化やサービスの向上を図っていくこと。
聞こえは良いが、実際にはどういうことが起こるのか。コンセッション方式とは、公共施設を自治体が保有しながら、運営権を設定し、企業に委託すること。自治体は運営権の対価をもらい、運営権者は料金収入を得て、運営権の対価を取り戻す。
政府はPPP/PFIを推進しており、優先的検討規定を作るよう求めている。規定の中には外部のコンサルタントを入れることも含まれている。自治体はお金を払ってコンサルタントに検討してもらう。
コンサルタントはPPP/PFIのコンサルでお金をもらっているため、悪いことを言わない。自治体は検討しないといけなくなる。
さらに、PPP/PFIについての啓発活動も要求している。地域において、産官学および金融機関で構成したプラットフォームを作り、民間事業から積極的にPPP/PFIについての提案を受けるようにと言っている。
PPP/PFI優先的検討規定について、国は前のめりになっているが、自治体もさすがにやりすぎじゃないかと思っている。
それぞれの自治体は、すでに公共施設の総合管理計画をつくらされている。これを元にPPP/PFIが推進される。民間の企業が、自治体がどういう施設を持っているのか、把握するためにつくらされた。
今の自民党は、PPP/PFIについて住民のためではなく、産業を振興するための道具として考えている。自治体の自治権を侵害してでも、民間の事業に移し替えていくことを考えている。それがよくわかる」
出席者「国の方から自治体にPPP/PFIを推進するように要請するというのは、憲法で保障されている自治権に触れないのか?」
三雲氏「総務省は『技術的助言』という言葉を使っている。強制ではない。しかし問題は、政府の言っていることを鵜呑みにしてしまう自治体もある。技術的助言と言いながら、そちらの方に誘導されていく事例もある」
出席者「水道公共インフラについて、『運営権は売却できる』ということで、運営権が投機の対象になる可能性はないのか?」
辻谷氏「投機の対象になりうると思っている」