「国会のニュースを見て、ひどい野次だと思って。当事者はいっぱいいるんだということを示したかった。それだけですね。当事者の私が行かないといけないんじゃないかなと」――
2016年3月4日、国会前で行われたスタンディングデモに参加した女性は、参加のきっかけをこう語った。3歳と6歳の兄弟を無認可の保育園に預けて働いているが、認可保育園の「不承諾通知」を2回受け取ったことがある。不承諾通知を受け取ってから1カ月間は、昼は電話帳で認可外の保育園を探しては電話をかけ、見学を繰り返し、夜は授乳という日々を過ごしたという。
「その保育園探しが本当につらいんです。もし見つからなかったら、このまま仕事を失うかもしれないという恐怖に押しつぶされそうになりながら、必死になってこの時期みなさん保育園を探すんですね。
こんな経験を、私だけじゃなくて多くの方がやっているということが信じられないし、吐き気がするくらい悔しいことだと思っています」
▲当日のツイートを見て国会前に集まった当事者と支援者
- タイトル 保育園落ちたの私だスタンディング
- 日時 2016年3月4日(金)18:30〜
- 場所 国会議事堂正門前北庭側(東京都千代田区)
「匿名」を理由に事実に背を向けた安倍総理と心ない野次を放った国会議員たちに、全国から怒りと失望の声
問題の「ヤジ」は、2月29日の衆議院予算委員会での民主党・山尾志桜里議員の質問の際に、何人かの男性議員から投げつけられた。山尾議員が、保育園の入園審査に落ちた当事者が書いた「保育園落ちた日本死ね!!!」と題されたブログを読み上げたところ、「誰が書いたんだ」「ちゃんと本人を出せ」などのヤジが飛んだのだ。
安倍首相の答弁では、「匿名である以上ですね、実際にそれは本当であるかどうかを、私は確かめようがないのでございます」と殊更に「匿名」を強調。こうした政府与党の態度が、翌日にはネット上で拡散され、困窮している当事者たちの怒りに火をつけた。
平成27年4月1日時点の保育園待機児童数の合計は、23,167人。厚生労働省から10月時点の参考値として発表されている待機児童の数は2014年まで3年連続で4万人を超えている。また、就労状態などから申し込み自体を諦めている「潜在的待機児童」の数はこれをはるかに超えると長年言われ続けている。「日本死ね!!!」ブログの悲痛な叫びが共感を呼んだのは、多くの親にとってまさに「自分のこと」だからだ。この重要な点を、安倍首相をはじめとする与党議員たちは本当にわかっているのだろうか。
この野次と答弁をきっかけに、ツイッターでは「# 保育園落ちたの私だ」というハッシュタグもつくられた。
4日夕のスタンディングデモは、こうした声の中から自然とわき上がり、数時間の間に拡散された。国会前には、当事者、支援者など数十人が集まった。中には「保育園落とされたのオレだ!」というプラカードをつけた生後半年になる0歳児もいた。草加市から来たという。
子どもを連れて参加した20代の女性は、「あと半年は(育休の)延長ができるんですが、年度途中には(認可保育園の空きが出ず)入れない。無認可はあるんですが、金銭的に無認可だと赤になるので…いつまで仕事を続けられるか。苦しいどころの話ではなくなる」と現状を訴えた。
0歳児を連れてベビーカーを押し、夕刻に近郊から都心まで向かうのがどれだけ大変なことか、ヤジを飛ばした議員にわかるのだろうか。それでも訴えなければならないところまで、保育行政や少子化問題の根本的な解決策は先送りされ続けている。
▲プラカードをつけて参加した待機児童本人
今回のデモで、「匿名」と切り捨てられた当事者たちは、きちんと自身の存在を見せ、カメラの前で語ってくれた。その声は、本当にたくさんの「実在する(またはかつての)待機児童の親たち」の声を代弁している。
ヤジを飛ばした議員こそ、「匿名」の向こう側に隠れているではないか。
あなたたちこそきちんと名を名乗り、「一億総活躍社会」とやらに向けてどれだけの覚悟を持って臨むのか、どれだけの結果を出すのか、誠実に語るべきではないのか。
「仕事をしている同僚が戻ってこれない。保育園に預けられないから」
IWJのインタビューに応えた九州在住の38歳の女性は、国会前に来た理由を語った。…