【IWJブログ・特別寄稿】『健康被害に関するICRPの理論の問題点』(北海道がんセンター名誉院長 西尾正道)  

記事公開日:2015.3.15
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 2011年3月11日の福島第一原発事故に際し、日本政府に被曝放射線量の許容値について勧告を行ったICRP(国際放射線防護委員会)。このICRPの実態とは、いかなるものか。国際的な「原子力ムラ」の一部として位置づけられるその実態について、放射線治療の第一人者が告発する。(IWJ編集部)

 私は、がんを如何に放射線で治すかという放射線の光(表)の世界に長く携わってきた。そんな業務のなかで、ラジウム(Ra-226)やセシウム(Cs-137)などの少量の放射線を出す小線源を使用した治療も行ってきた。これは腫瘍に線源を刺入したり、線源を腫瘍に密着させて照射する治療法であり、患者さんにとっては内部被曝を利用した治療法である。

 しかし、2011年の福島原発事故は、放射線の健康被害について根本的な視点から考える機会となった。それは放射線の影(裏)の世界についての考察となる。その考察を通じて突き当たったのは、現在、国際的に放射線防護体系として流布されているICRP(国際放射線防護委員会)の理論は全く科学性がなく、原子力政策を推進するために修飾された疑似科学的な物語であるという事実だ。この事実を改めて知ると、驚愕せざるをえない。本稿では、ICRPの根本的な問題点について簡潔に述べる。

ICRPとはどんな組織か

 放射線をある程度正確に測定できるようになったのは、1928年頃である。こうした背景もあり、1928年に放射線の医学利用領域の放射線業務従事者の健康問題について医師が中心となり「国際X線およびラジウム防護委員会」が設立された。

 しかし、1946年に原爆製造に携わった核物理学者が大勢を占める NCRP(米国放射線防護審議会)が設立され、ほぼ同じ陣容で1950年にICRPに衣替えした。このため医学利用における健康管理の視点は軽視され、原子力政策を推進する立場の組織に変容した。そして最も深刻な健康被害の要因となる内部被曝に関する委員会の審議を打ち切った。そこから内部被曝に関しては隠蔽と研究中止の世界が始まったのである。

 ICRPは国際的な権威のある公的機関ではなく、研究機関でもなく、調査機関でもない。単なる民間のNPO組織なのである。民間の組織は目的を持って活動する。ICRPの目的は原子力政策の推進である。このため、IAEA(国際原子力機関)やUNSCEAR(国連放射線影響科学委員会)などと手を組み、原子力政策を推進する上で支障のない程度の内容で報告書を出しているのである。

 報告書作成に当たっては、各国の御用学者が会議に招聘され、都合のよい論文だけを採用して作られる。ICRP自体が調査したり研究したりすることはない。

 ICRPは事務局はあっても研究者はいないため、多くの医学論文で低線量被曝の健康被害が報告されても一切反論もできず、無視する姿勢となっている。日本でもICRPに関与している学者やICRPの報告に詳しい有識者が政府・行政の委員会のメンバーとなっているため、国民不在の対策となるという構図となっている。

 医療関係者の教科書も全てICRP報告の内容で記載されているため、今回の事故が起こっても多くの医師には問題意識が生まれないのである。

 なお、ICRPは「しきい値なしの直線モデル」を認めており、BEIR (米国科学アカデミーの「電離放射線の生物影響に関する委員会」)と同様の姿勢を取っているが、事故後の日本政府は100mSv以下では明らかな健康被害は他の要因も絡むことから証明することはできないとする立場を取っており、国民の健康に関しては、より無責任な態度に終始している。これでは「国民の生命と財産を守る」として集団的自衛権を語る資格はない。
 

ICRPの疑似科学の幾つかのポイント

 ICRPの疑似科学的核物理物語においては、まず放射性物質を「気体」の時の測定から始まり、それを基にして計算やデータ分析を行ない理論を構築している。このため放射性物質が個体(超微粒子)としても存在することを想定せず考慮外としている。

 気体中の放射線量は物理量であり、信用できるが、この線量を人体影響に結びつける過程で誤魔化しが生じる。まず吸収線量は1Gy=1J/Kg と定義されているが、この定義量では生体の影響は説明できない。もちろん1Gyと10Gyでは10倍のエネルギー付与として相対的な比較はできる。

 しかし原爆投下時の米国の公式見解である「全身被ばく7Svが致死線量」を考えてみると、X線やγ線の場合は体重60Kgの人では60×7=420J(ジュール)=100カロリーとなる。熱量換算では、約150カロリーであるおにぎり1個食べれば全員死亡することとなる。付与された放射線量(吸収線量)を熱量換算する定義量では、人体影響は全く説明がつかない。Gyという定義量自体が、物理学と分子生物学のインターフェイスとはなっていないと言うべきである。

 また等価線量はGy x 放射線荷重係数として計算しているが、例えばトリチウムのβ線の係数は1ではなく、1.5~2とする実験結果が出ている。さらに実効線量への換算には組織荷重係数という全く実証性のない仮想の係数が使われている。ここでは性別や年齢などの補正もない。

 こうした根拠のない非実証的係数を組み合わせたSvという単位では人体影響を正確に評価できず、Svの隠された意図は放射線の種類、被曝部位、被曝様式の違い、被曝者の違いなどを一緒にして健康被害と線量との相関を分析できないようにすることにあると勘繰られるほどインチキなものなのである。

 次のポイントは最も影響のある問題を隠蔽する姿勢である。まず放射線生物学においては、放射線感受性に関する『Bergonie-Tribondeau の法則』という大原則がある。

 放射線感受性は、① 細胞分裂が盛んなもの、②増殖力、再生能力が旺盛なもの、③形態及び機能の未分化なものほど高いというものである。この①の原則から言えば、人体の中で最も感受性が高く影響を受ける臓器は骨髄や小腸や精巣などであるが、それ以上に影響を受けるのは受精卵や胎児である。このため流産・死産・先天障害の発生に繋がるが、深刻すぎるので、隠蔽と過少評価に徹する姿勢となっている。

 また内部被曝の深刻さにも同様に対応している。外部被曝と内部被曝をたとえると、「外部被曝とは、まきストーブにあたって暖をとること、内部被曝は、その燃え盛る”まき”を小さく粉砕して、口から飲み込むこと」とたとえることができる。どちらが細胞に障害を与えるかは見識のある人ならば誰でも解ることである。

 さらに前述したようにICRPでは放射性物資が個体(超微粒子)として存在することは想定外であるが、実際には事故で放出した種々の放射線は中性子線以外は荷電されており(資料1)、大気中では何らかの物質と電子対となり、超微粒子の個体となる。結合した物質によって塩化物、酸化物、水酸化物となり、土・砂・塵などと付着している。筑波市の気象研究所で事故直後から大気中の浮遊塵を捕集した研究から、2013年8月に足立光司氏はセシウムを含む不溶性の微粒子を報告している。

資料1 各種放射線の荷電の状態

 この微粒子の問題は2014年12月21日(日曜日)23時30分からのNHK Eテレ サイエンスZEROで『謎の放射性粒子を追え!』と題して取り上げられた。科学的に考えれば、少しも”謎”ではないが、ICRPの理論では“謎”だっただけである。

 さて、こうした超微粒子が呼吸や食事で体内に取り込まれた場合はどうなるのであろうか。この問題は微粒子のサイズによって体内動態は全く異なるのである。人体の細胞の直径は6μm~25μm であるが、ナノ(nm)のサイズ【*1mm=1,000μm(103)=1,000,000(106)nm】の超微粒子では、細胞膜や血管壁を通る。血管内に入れば全身を循環し、胎盤の血液循環を通して胎児も被ばくすることとなる。こうして全身に放射性物質がまわれば、色々な臓器の影響が出現しても不思議ではない。チェルノブイリ事故後のがん以外の慢性疾患の増加は医学的には説明がつく。いわゆる『長寿命放射性元素体内取り込み症候群』として考えることができるのである。

資料2 物質のサイズと体内動態

 また核種によっては臓器親和性を持っており、Sr-90であれば2価アルカリ土類金属のカルシウム(Ca)と同族体であるため骨に蓄積する。骨組織への取り込みは造骨活性に依存するので、成長期の子どもの骨に取り込まれ蓄積し、β線を放出し続けるのである。

 こうした臓器への集積・蓄積の問題はICRPでは全く考慮されていない。侵入する経路や滞在時間により影響は異なることから、生物学的半減期も意味がなくなるのである。

(資料2)に微粒子サイズによる体内動態を示すが、粒子によっては鼻腔内に排出され、鼻粘膜に密着して粘膜を傷つけて鼻血の原因となるのである。

 500mSv以上でなければ骨髄障害が起こらず、出血傾向が出ないので、鼻血は出ないと主張するICRP信奉者には考えられないことなのである。放射線障害で出血傾向が出れば、脳出血や消化管出血などの致命的な事態も想定しなければならず、鼻血どころではないのである。

 資料3は2013年7月に南相馬市内に設置したダストサンプラーのフィルターをイメージングプレートに密着させて画像化したものである。セシウムを含んだ微粒子が写し出されている。こうした放射性微粒子が、大気中に浮遊し、呼吸により体内に取り込まれているのである。

資料3 セシウムを含んだ微粒子

 さらに内部被曝の影響を評価する場合、ICRPの考え方は、「線量が同じであれば、外部被ばくも内部被ばくも人体影響は同等と考える」と取り決めている。ここでは線量分布は全く考慮されていない。目薬を全身投与量としているようなものである。眼薬は眼に注すから効果も副作用もある。それを口から投与して、投与量が少ないから影響はありませんと言っているようなものである。

 しかし外部被曝では全身が均一に被ばくすると考えてもよいが、内部被ばくでは放射性物質の周囲の細胞だけが被ばくするのである。α線では体内での飛程は40μm(ミクロン) ほどであり、β線であれば数ミリ程度である。その周囲の細胞にだけエネルギーを放出するため影響は大きいのである。

誤魔化しで構築されているICRPの理論

 しかし、内部被曝の実効線量の計算では、放射性物質の近傍の限局した局所の細胞にいくら当たっているかを計算するのではなく、全身化換算するため超極少化した数値となる。

 では、放射性微粒子の近傍はどの程度被ばくするのかを考えてみよう。資料4は医療用イリジウム(Ir-192)線源を点線源として医療用治療計画装置で計算したものである。

資料4 イリジウム線源の近傍線量

 線源の近傍は電子平衡が成立せず、正確には測定できないが、線源から5mmの点を100%とすると、0.1mmの点では1284倍となっている。単純に放射線の減弱を距離の逆2乗の法則で考えれば、50×50=2500倍となる。測定機器の限界から、正確な測定もできないほど線源近傍の細胞は被曝しているのである。0.1mmでもここには10層(一個の細胞サイズを10μmとした場合)の細胞がある。こうした過大に被ばくした細胞が障害されたり、がん化しても全く不思議ではない。このため、放射性セシウム粒子が鼻粘膜に密着した場合は、鼻血の原因となるのである。

 資料5の写真は舌がんに対して、腫瘍内にCs-137の針状線源を刺入する組織内照射の治療症例である。腫瘍を取り囲むようにしてCs-137針を7本刺入した写真と照射後10日目の粘膜反応の口腔写真である。放射線は当たった所にしか反応は出ない。照射後の粘膜炎が強度となり白苔が出現している。本来内部被曝の計算は被曝している細胞の線量で評価すべきであるが、これを全く被爆していない全身の細胞まで含めて計算することは全く間違っているのである。このようなICRPの計算方法では内部被曝線量は本当に当たっている細胞集団の数万分の一~数十万分の一の線量となる。

資料5 舌がんに対するCs-137針による組織内照射

 またカリウム(K-40)のβ線の自然放射線は微小サイズであり、体内ではイオンとして存在しているが、原発事故で放出された人工放射線はサイズが大きく微粒子としても存在するため、心筋などでは細胞膜のカリウムチャンネルを障害し、細胞内外のカリウムのバランスを崩し、心伝導系の異常をきたし心電図異常が見られたり、最悪の場合は突然死につながる。こうした事態をICRPでは全く想定していない。

 こうした基本的な問題を考慮せず、誤魔化しで構築されているのが現在のICRPの理論なのである。そしてさらにこうした生体影響を正確に反映したものではない実効線量だけで議論され、対策が立てられていることが二重の誤魔化しなのである。人体影響は単に線量だけではないことも知るべきである。

 1945年の原爆投下のデータを根拠に組み立てられたICRPの理論的破綻は明確であり、それ以降の最近の放射線生物学の知見を取り入れて検討してないICRPには呆れるだけである。

 紙面の都合もあり、放射線の人体影響の幾つかの主な要因を資料6に示す。これらの要因の詳細は拙著などを参考として頂ければ幸いである。

『放射線健康障害の真実』『正直ながんのはなし』 旬報社
『被ばく列島』 角川ONEテーマ21

    

 

資料6 人体影響の種々の因子

 国民はICRPの催眠術から覚醒するべきであろう。原発の問題は、単に人体影響ばかりでなく、『国破れて 山河あり』だが、『原発事故では 山河なし』なのである。

 最後に、政府は報道にも露骨に圧力をかけて思うままに愚策を推進しており、戦後日本にとって最も危険な時期となっている。こうした時代の流れは早期に止めなければ、止めようがなくなる。全国にばら撒かれた原子力発電所にミサイル一発撃ち込まれれば簡単に負ける国なのに、戦争ができる国にしようとする見識の無さは呆れる。この日本の状況はまともな人間であれば、憂い、ストレスとなる。

 IWJを率いる岩上安身氏は2月19日に私のインタビューを終えて帯広市に向かったが、21日夜に心臓発作で緊急入院となった。幸い近くに帯広市内で最も大きな病院で救急救命部門も充実している施設で手当てを受けることが出来た。過労やストレスが原因とされる「冠攣縮性狭心症(かんれんしゅくせいきょうしんしょう)」であった。この疾患は単純に心臓の冠動脈が狭窄して発症する狭心症ではなく、二トロールなどの冠動脈の血管拡張の薬剤だけでは発作は改善せず、対応に苦慮することもある。冠動脈が痙攣し循環障害をきたすからである。そのため、ストレスや過労によりまた誘発されるリスクがある。

 人間の運命は不公平なもので、開発途上国の医療施設に乏しい地域のホテルで夜間に発作を起こし死亡する人もいるし、元旦に都内の大病院の前で倒れて救命された人もいる。こうした救急疾患では何処で発作を起こすかが生死の分かれ目ともなる。真摯に見識を持って報道に携わっている岩上氏にとって、現状の日本や世界の政治状況がストレスの原因であるばかりでなく、会員数が減少して会費だけで切り盛りしているIWJの経営問題も大きなストレスとなっていると思われる。政府の圧力にも屈せず、まともなジャーナリストとして活動することが如何に大変かは察するに余りある。今後もさらにストレスがたまる時代となりそうである。景気も東京オリンピックまでは誤魔化せてもそれ以降はトンデモナイ経済危機に見舞われるであろう。集団的無責任で『今だけ、金だけ、自分だけ』の日本の風潮を変えなければストレスも続く。

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