【第127-128号】岩上安身IWJ特報!原発と核兵器技術の保有はコインの裏表~京都大学原子炉実験所助教・小出裕章氏インタビュー 2014.2.28

記事公開日:2014.2.28 テキスト独自
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原発の導入は核兵器保有が目的だった!?

 2月9日(日)に投開票が行われた東京都知事選挙では、元首相の細川護熙氏が立候補したことによって、数ある争点の中から「脱原発」が最大の争点としてクローズアップされた。

 一方、細川元首相の立候補によって「脱原発」を支持する有権者は、票を投じる先に迷うことになった。同じく「脱原発」を掲げる宇都宮健児元日弁連会長が、先行して立候補していたからである。一部の「勝手連」からは、「一本化」を求める声があがったが、両候補にその意志はなく(宇都宮候補は航海で話し合うと回答。細川候補は話し合いを拒否)、「一本化」は実現しなかった。

再処理という三つの技術があります。

記事目次

 原発といえば、エネルギー需給の側面から語られることがほとんどである。「脱原発」のシングル・イシューで今回の選挙を闘った細川候補は、再生可能エネルギーの活用によって「原発ゼロ」を達成すると繰り返し主張してきた。

 しかし、原発は、エネルギーの観点からのみ語られる問題ではない。原発は、軍事と安全保障の問題と密接に関わっているのである。

 日本政府は、原発で出た使用済み核燃料を「再処理」してプルトニウムを抽出し、それを再び原発で燃料として使用する「核燃料サイクル」をエネルギー政策の柱として採用している。この「核燃料サイクル」は、原子力に関する技術を日本側が包括的に運用することを認めた、1988年の日米原子力協定によって可能となったものである。現在、高速増殖炉「もんじゅ」の運転停止により、この「核燃料サイクル」の実現見通しは立っていない。

 「核燃料サイクル」によって生み出されるプルトニウムは、核兵器の原料として転用可能なものである。日本には現在、既に44トンのプルトニウムが蓄積されており、長崎型原爆4000発分を製造することが可能であると言われる。「核燃料サイクル」技術を維持し、「兵器級プルトニウム」を蓄積することは、核兵器を潜在的に保有することに、ほぼ等しい。

 こうした日本の原子力/核政策を規定しているのが、日米間で締結されている日米原子力協定である。

 1955年、米国から日本へ濃縮ウランを貸与する目的で、日米原子力協定が締結された。これにより日本は、「原子力の平和利用」の名の下、核に関する技術を運用することが可能となり、原発を稼働させることができるようになった。

 しかし、この日米原子力協定は当初、日本側の核運用に関する細かい「箸の上げ下ろし」まで、米国側の許諾を得なければならないものであった。そこで、「核燃料サイクル」を構築して「兵器級プルトニウム」を蓄積し、独自の「核技術抑止力」を保有することを求めた日本側は、米国に対し、核の「包括的な運用」を求めることになる。それを認めたのが、1988年に改定された日米原子力協定だったのである。これは日本に30年間にわたり、「フリーハンド」を認めるものだった。

 この、日本に潜在的な核保有を許している日米原子力協定が、2018年に期限を迎える。この期限を見越してのことか、都知事選たけなわの1月27日、非常に重要だと思われるニュースが飛び込んできた。

 共同通信が伝えるところによると、冷戦時代に米国が研究用として日本に提供し、東海村にある日本原子力開発機構が保管してきたプルトニウム331キロについて、米国側が日本政府に対して返還を要求している、というのである。

 そして都知事選が終わり、新都知事となった舛添要一氏が、大雪害をよそに出かけたソチ五輪も閉幕したあとの2月25日、プルトニウム返還の方向で日本政府が最終調整に入ったとの続報がひっそりと流された。

 日本は戦後、「原子力の平和利用」の名の下、原発を導入した。しかしそれは、岸信介元総理や佐藤栄作元総理などの発言からも分かるように、「平和利用」という大義名分を盾に、原発から出るプルトニウムによって核技術抑止能力を持つための手段であった。戦後の日本は、「原子力の平和利用」「非核三原則」を顕教、核技術抑止を密教とし、そのどちらが日本の本音なのかを明らかにはしないという「あいまい路線」、すなわち「中庸」を取ってきたのである。

 しかし、靖国神社への参拝や集団的自衛権の行使容認といった安倍政権の暴走に眉をひそめる米国は、2018年に迎える日米原子力協定の期限切れを前にして、日本に対して、従来の「中庸」路線をそう易々とは認めないのではないか。今回のプルトニウム返還要求は、中国との間で政治的緊張を高める日本に対して、強い警告を発する米国からの政治的メッセージとも受けとれる。

 今回の東京都知事選で最大の争点となった「脱原発」は、このような軍事と安全保障の観点から捉える必要がある。

 仮に「中庸路線」が不可能となったとき、日本が取るべきなのは、都知事選において61万票を獲得した田母神俊雄氏の主張する、国際的な孤立を強いられてでも核武装に踏み切る、「核武装独立路線」なのか、核保有の技術も、プルトニウムの貯蔵もすっぱりとあきらめる「絶対平和主義」なのか。2011年3月11日の福島第一原発事故直後から、「原発とは、核を抱えている社会の問題だ」と主張してきた京都大学原子炉実験所助教の小出裕章氏に、話を聞いた。

▲岩上安身のインタビューに応じる小出裕章氏

原発は電気のためではなく核兵器を作るために導入された

岩上安身「私は今、京都大学の原子炉実験所に来ています。小出裕章先生にこれからお話をうかがいたいと思います。小出先生、よろしくお願いいたします」

小出裕章氏(以下小出、敬称略)「よろしくお願いします」

岩上「今、都知事選のまっただなかです(※インタビューの収録は2月3日)。そういう状況で発言をすることは少し控えたいと言っていらしたところに押しかけまして、本当に申し訳ありません。どうしてもこのタイミングで、小出先生のお話をうかがいたいと思いました。

 多くの人が、今回の都知事選の喧騒に飲み込まれてしまって、非常に重要なニュースを見逃しているのではないかと思います。その件について、ぜひ先生のご見解をお聞きしたいと思っています。

 その重大なニュースとはいうのは、アメリカがプルトニウムの返還要求をしてきている、というものです。1月27日に共同通信が一報を流しまして、各紙がそれを載せました(※1)。我々は、これは大変なニュースなのではないかと思いまして、外務省に連絡したんですね(※2)。外務省の担当課は、否定はしませんでした。曖昧な言い方でしたが、否定はできないということは、それが事実なのだろうと思います。

 文芸評論家で早稲田大学の教授の加藤典洋さんが、3.11以降に『3.11~死神に突き飛ばされる』という本を書かれて、その中に、「国策と祈念」という論文を書いていらっしゃいます(※3)。日本の原発の平和利用において、それとワンセットで、核の技術的抑止というものが目指されてきたのだということを指摘されています。

 ところが、もしこのプルトニウムを返還しろということを言われたのであれば、日本の核開発の目的というのは、水泡に帰してしまいます。これは、実は大きな選択を迫られるという話なんですね。

 核技術抑止論と言ったり、潜在的核保有論と言ったり、いろいろな言い方はあると思いますが、こういうことを近年、石破さんとか、あるいは安倍さんも、発言をされている(※4)。

 しかしこうなると、周辺諸国、とりわけ中国との関係において牽制するということはできなくなります。曖昧な戦略ができなくなる、ということです。そうなると、もう核兵器を持ってしまうか。それともまったく諦めるかという選択を迫られるのではないか。このように分析しているんですね。

 こんなに脱原発の議論が都知事選がらみで盛り上がっているにも関わらず、この話題が全然議論の遡上にあがらないのです。

 そこで、小出先生にお話をうかがいたいなというふうに思っております。日本の原発の平和利用と言っても、裏側に核燃サイクルと抱き合わせで、このような核兵器保有のための準備をし続けてきたというのは事実であり、そして、このプルトニウム返還要求が、そうしたものの断念を迫られる可能性があるという点について、どのようにお考えでしょうか?」

小出「日本という国は、原子力の平和利用というような言葉を作って、あたかも日本でやっている原子力利用は平和的だとずっと装ってきました。しかし、もちろんそんなことはありません。

 ずいぶん前でしたけれども、野坂昭如さんが、技術というのは、平和利用だ、軍事利用だと分けることが出来るはずがないとおっしゃっていました。そんなものはない、と。もしあるとすれば、平時利用と戦時利用だということでした。

 平時に使っている技術でも、戦時になればいつでもまたそれが使える、ということです。日本が原子力をそもそもやり始めたという動機も、先程から岩上さんがおっしゃってくださっているように、核兵器を作る潜在的な能力、技術力を持ちたいということから始まっていました」

岩上「そもそも核保有が出発点であり、電気のためではなかった、と」

小出「もちろん、そんなのは違います。核兵器を作る力を持ちたかったということで、日本の原子力開発が始まっているわけですし、単に技術力だけではなく、平和利用と言いながら、原爆材料であるプルトニウムを懐に入れるということです。

 そしてもうひとつは、ミサイルに転用できるロケット技術を開発しておかなければいけない、ということです。両方を視野に入れながら、科学技術庁(※5)というものを作ったわけですね。今はなくなりましたけれども。

 科学技術庁は、原子力と宇宙開発をやるわけですけれども、まさに原爆を作るためのものです」

岩上「なるほど。ひとつの役所が、まるごとそのために生まれたようなものだと」

小出「そうです。日本人は、日本は平和国家と思っているかもしれませんけれども、国家のほうでは、戦略的な目標を立てて、原子力をやってプルトニウムを懐に入れて、H2ロケットやイプシロンなど、ミサイルに転用できるロケット技術を開発してきたんですね。

 しかし、日本のマスコミは、例えば、朝鮮民主主義人民共和国が人工衛星を打ち上げると、ミサイルに転用できる、実質的なミサイルであるロケットを打ち上げたという。しかし、自分のところが打ち上げるH2ロケット、イプシロンについてはバンバンザイという、そんな報道しかしないわけですね。

 もちろん北朝鮮だって、ミサイル開発と絡んでいると思いますけれども、同じように日本だって、軍事的な戦略を立てながらやってきたわけです。

ただし、日本の思惑というものが貫徹できるかどうかということは、現状では、完全に米国が握っているんですね」

岩上「これは、日米原子力協定というもので、拘束されている、と。これはどういうものなのでしょうか」

(※1)共同通信は1月27日付けで、「米、プルトニウム返還を要求 オバマ政権が日本に 300キロ、核兵器50発分/背景に核テロ阻止戦略」というニュースを報じた。記事によれば、「複数の日米両政府関係者」が明らかにした話として、茨城県東海村にある日本原子力研究開発機構の高速炉臨界実験装置(FCA)で使用するプルトニウム331キロについて、米オバマ政権が日本政府に対し、返還を要求しているのだという。記事は米国による返還要求の背景として、「『核兵器転用可能な核物質をテロリストの手に渡してはならない』と訴えるオバマ大統領の安全保障戦略がある」と解説している。
(【URL】http://bit.ly/1j5GRIn

(※2)1月27日、共同通信の報道について、IWJは外務省に事実関係を取材した。取材に対して、外務省の軍縮不覚散・科学部、不拡散・科学原子力課の主席事務次官は「具体的な中身についてはノーコメント」としつつも、「日本としても核物質のセキュリティ強化を重視しており、国際的な核セキュリティ強化への貢献という観点から、アメリカの取り組みに積極的に協力してきている」と回答するなど、共同通信の報道を否定はしなかった。
(【URL】http://bit.ly/1dXRSDu

(※3)『3.11~死神に突き飛ばされる』の著者である加藤典洋氏は、米国からのプルトニウム返還要求について、自身のTwitterに分析を投稿した
(加藤典洋氏の「プルトニウム返還要求の意味」まとめ【URL】http://togetter.com/li/621667 )。

 加藤氏は2月4日、岩上安身のインタビューに応じ、次のように語った。「『非核の選択』を書かれた杉田弘毅さんに直接お聞きしましたが、核の技術抑止政策というのは、いつでも核武装ができる最高度の技術だと。日本はそれを持ってしまった。非核三原則が盾となって、核の技術抑止が可能になった、という面があるのです。日本の政策は、非核三原則と核の技術抑止をセットにする、というものでした。それが今回、安倍政権の暴走で、このセットが破綻することになったのではないか。米国からプルトニウムの返還がなされたのには、このような背景があるのではないでしょうか」
(【URL】http://bit.ly/1jOQ59e

(※4)自民党の石破茂幹事長は2011年10月の雑誌「SAPIO」のインタビューで、「原発を維持するということは、核兵器を作ろうと思えば一定期間のうちに作れるという『核の潜在的抑止力』になっていると思っています」「私自身は、安全保障の面から、日本が核兵器を持てることを否定すべきではないと思う」「日本は、核の平和利用を原子力発電の技術によって営々と積み重ねてきた。なればこそ、テクノロジー面においても、マネジメント面においても、世界で一番安全な原発を作っていかなければいけない。これは、世界に対する日本の責務だと私は思う。だから、私は日本の原発が世界に果たすべき役割からも、核の潜在的抑止力を持ち続けるためにも、原発をやめるべきとは思いません」と述べ、「核技術抑止」の観点から、原発を維持すべきだと主張している。
(【URL】http://bit.ly/1f5D0JB

 2002年5月13日、安倍総理(当時は官房副長官)も、早稲田大学の大隈講堂で行われた講演会で、「自衛のための必要最小限度を超えない限り、核兵器であると、通常兵器であるとを問わず、これを保有することは、憲法の禁ずるところではない」「核兵器は用いることができる、できないという解釈は憲法の解釈としては適当ではない」と述べている。
(【URL】http://bit.ly/1j3VJ7I

(※5)1956年に総理府の外局として設置。2001年の中央省庁再編の一環として廃止され、その業務は内閣府と文部科学省に引き継がれた。原子力安全・保安院の前身である原子力安全局や航空技術研究所などを抱え、主に原子力技術と宇宙開発技術を担った。初代長官は、読売新聞社主で「原子力の平和利用」キャンペーンを行って原発の導入を推進した正力松太郎である。
(科学技術庁 Wikipedia【URL】http://bit.ly/N2zGTv

米国の属国だからこそ可能だった日本の原子力政策

小出「日米原子力協定では、米国の同意がなければ、核燃料をどう扱うかということすら決められないというようになっています。米国がどう考えるかということで、日本の原子力開発の動向が左右されているわけですね。日本は米国の完璧な属国ですよね。そうであるかぎりにおいて、米国は日本に一定程度の自由を許してやる、ということになっているわけです。

 原爆を作るための技術というのは、核分裂性のウランを濃縮するというウラン濃縮という技術。それからプルトニウムを生み出すための原子炉。さらに、生み出されたプルトニウムを取り出すための

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