「日本の産廃は4億トン。うち5000万トンが埋め立てに」石井亨氏 ~香川県豊島の産廃不法投棄事件の現実 2013.12.21

記事公開日:2013.12.21取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・関根/奥松)

 「豊島の島民には、昔からの相互扶助、自ら問題を解決する精神が強く残っていたのではないか。都市部では、自治体への依存と要求が当たり前になってしまっている」──。

 石井亨氏は、香川県豊島の産廃不法投棄事件の全貌、県の事業者寄りの姿勢、住民運動の成功までの道のりなどを、多くの写真資料を見せながら説明した上で、このように指摘した。

 2013年12月21日、愛媛県松山市の愛媛県男女共同参画センターで、講演会「どうする?松山市レッグ処分場 ~香川県豊島の産廃不法投棄事件の現実から、愛媛県内のごみ問題を考える~」が開かれ、1990年に摘発された、香川県豊島(てしま)の産業廃棄物不法投棄事件に詳しい、石井亨氏が講演を行った。松山市菅沢町にある産業廃棄物処分会社「レッグ」の最終処分場では、不適正な処分により、地下水路に重金属(鉛・ヒ素・水銀)を含む汚染水が流れ出し、2013年から県と市が行政代執行によって、70億円以上をかけて周囲を遮水する工事を行っている。

 冒頭、主催者の共同代表、谷口博徳氏が挨拶し、続けて、愛媛県議会議員の阿部悦子氏が、三瓶町(愛媛県西予市)の産廃焼却施設建設の住民反対活動の状況、県や警察との攻防、マスコミ報道が一切ない現状を報告した。

■全編動画

8分~ 谷口氏/12分~ 阿部氏/18分~ 石井氏/1時間43分~ 質疑応答
  • 主催あいさつ 谷口博徳氏(ごみを考えるネットワークえひめ 共同代表)/講師紹介 阿部悦子氏(環瀬戸内海会議 代表、愛媛県議会議員)
  • 講演 石井亨氏(元香川県議会議員、人類温暖化計画 代表取締役)
  • 質疑応答

最終処分場の3つの区分け──安定型、管理型、遮蔽型

 元香川県議会議員の石井亨氏が登壇し、「自分たちが出したゴミが、どうなっていくのかを、豊島(てしま)の産廃問題と絡めて考察する」と要旨を述べた。

 まず、石井氏は「ゴミ埋め立てが、法律で許可されている最終処分場は、有害物質の発生しない安定型5品目(廃プラスチック類・金属くず・ガラス陶磁器くず・ゴムくず・がれき類)を処分する安定型処理場と、やや毒性のある廃棄物を捨てるため、地下に遮蔽シートを設けた管理型処分場(レッグ処分場が該当)、もっとも毒性の強い廃棄物を処理する遮蔽型処理場、この3つのタイプがある」と述べた。

 続けて、「1994年、環境省が全国の安定型処分場82ヵ所を調べると、施設の38%から、発がん性物質、重金属が検出された。安定型の経費が安いこと、ゴミの分別の難しいことが原因と思われる」と述べ、今回、問題になっているレッグ処理場(管理型処分場)の構造、漏出の原因について説明した。

 「処理場の遮蔽シートは1.5ミリのゴムシート。その上に数万トンのゴミを埋め込むが、耐久性に問題があった。製造メーカーのブリヂストンは、シートは50年間耐えるというが、廃棄物の毒性は150年ほど経過しないと安定しない」。

 石井氏は「産廃受け入れ時は、売り上げがあるから、汚水処理のコストは賄える。しかし、処分場が満杯になると管理費だけが出ていく。そのために、積立金を作ることを法律で決めているが、積立金もなくなったら管理会社は倒産だ。また、遮断型はコンクリートのプールなので、地震に弱い」などと語った。

産廃91万6000トン。760億円かけて現状回復する豊島

 香川県豊島の話に移った。「わが国最大の、有害産業廃棄物の不法投棄事件。16年間、不法投棄が続いた末に、1990年、兵庫県警に摘発された。現在でも廃棄物を回収し、無害化作業が進行中。まさに、事業者と県による共同正犯だ」。

 「91万6000トンの産廃を、760億円かけて処理する、世界最大の現状回復事業である。豊島住民は、汚染地を自ら買収し、年間数百万円を払って事業を監視している。(産廃特措法の適用を受け、回復事業が始まって)今年で10年目。7割の固形物の処理が終わり、地下水汚染の回復には、あと15年かかる」と写真を見せながら経過を説明した。

 さらに、「7000回を超える直接行動(人件費6億円相当)、活動費用1億6000万円、農産物出荷拒否などをもたらした風評被害、ぜんそくなどの健康被害を蒙っていながら、豊島の住民らは、個々人への一切の損害賠償を放棄した」と、住民運動について報告した。

「事業者いじめ。豊島住民の心は灰色」と批判した香川県知事

 次に石井氏は、事業者の実態と、県が産廃処理の認可を出す前の1977年、当時の香川県知事が「法に基づいた事業なら、危険なはずがない。(反対運動は)事業者いじめで、住民の心は灰色」と演説をしたことに言及した。

 「それに激怒した豊島住民は、岡山県玉野市に吸収合併を試みた。結局、1977年、香川県は事業許可を出し、住民は差し止め民事訴訟で抵抗。県が、絶対しないと約束していた不法投棄も始まってしまった」。

 また、野焼きや産廃現場の写真を見せて、「健康被害が出はじめ、県に事業の中止を要請したが、まったく無視。公開質問状を出すと『金属回収業で合法だ』と、信じられない対応をした。そして、突然、兵庫県警がやって来て、事業は中止に。しかし、罰金50万円、執行猶予10ヵ月間だけだった」と述べた。

 「香川県は、業者に産廃の撤去処分を要求。3年間で1300トンを処理したところで、知事は安全宣言を出す。納得しない島民たちは、独自に調査をし、香川県の重大な瑕疵を見つけだし、公害調停を起こすに至った」と語り、県による悪質なデータ隠しの実体を明かした。

島民1000人による、県民100万人への説得運動

 次に、完全撤去に持ち込むための議論の進め方、県と住民の分断、県議会との敵対、たくさんのいやがらせなどの苦労話を披露。運動を成功に導いた「1000人の島民で、100万の県民を説得した運動」の様子を語った。

 「県民一人ひとりが自分の問題ととらえないと、知事も県議会も変わらない、と島民は考えた。いわば、国民主権実質化の運動だった。そして、やっと2000年6月、公害調停までたどりつく」と成功に至る道のりを振り返った。

 その上で、「現在でも、豊島を上回る不法投棄が、全国で続いている」とし、岐阜県岐阜市、青森県と岩手県の県境、福井県敦賀市、三重県四日市市の不法投棄現場の写真を見せて、懸念を表明した。

年間一般ゴミ5000万トン、産業廃棄物4億トンの日本

 さらに石井氏は、複雑化する公害、公害の定義、日本の公害史などに言及し、「規制が厳しくなると、業者は法規制のない国に移転するか、分離施設で公害物質を取り出して、産廃にした。つまり、公害は形を変えただけ」と指摘した。

 「日本では、今、年間一般ゴミ5000万トン、産業廃棄物4億トン。そして、5000万トンが最終埋め立て処分になっている。かつては、『ゴミ焼却幻想』があり、世界の大型焼却炉の3分の2が日本にあった。しかし、日本が世界で一番、ダイオキシンを排出する国だと世界中から非難を浴びて、やっと2000年になって、ダイオキシン規制に動く」。

 そして、「リプロダクティブヘルス(性と生殖の健康被害)、ダイオキシン被害、劣化ウラン弾や東海村JCO臨界事故の被爆者などの写真を映して危険性を訴え、講演を終えた。

住民の、自ら問題を解決する精神

 質疑応答に移って、石井氏は、豊島の住民運動が成功した理由の謎解きをした。「島民には、昔からの相互扶助、自ら問題を解決する精神が強く残っていたのではないか。都市部では、個人の問題以外は、すべて自治体に責任転嫁し、依存と要求が当たり前になってしまっている」と分析した。

 「また、住民運動に際しては、多数決にはよらず、正しいと思うことを説明し、理解と協力を求めるようにした。なぜなら、多数決は、楽な方へ、得する方へと傾くからだ」と見解を述べた。

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