「避難とは逃げることではない。勇気ある闘いだ」 〜絵本『さだ子と千羽づる』朗読と山口泉氏講演「東京電力・福島第1原発事故の現在」 2013.8.25

記事公開日:2013.8.25取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・荒瀬/奥松)

 2013年8月25日(日)15時より、大阪市難波のジュンク堂書店難波店で、絵本『さだ子と千羽づる』刊行20周年・山口泉『避難ママ』刊行記念「JUNKU難波トークセッション 広島・長崎・チェルノブイリ、そして福島 ―朗読と講演―」が行われた。

 山口泉氏は、広島の原爆投下から10年後に白血病に倒れた実在の少女「さだ子」と、福島第1原発事故後の子どもたちを重ね合わせ、「過去の話ではない。同じ運命が現在進行中だ」と警鐘を鳴らした。

■ハイライト

  • 講演・チェロ伴奏・対話 山口泉氏(作家)
  • 朗読・対話 長谷川千穂氏(医師)
  • 主催 ジュンク堂書店難波店

『さだ子と千羽づる』の朗読

 はじめに、長谷川千穂氏が『さだ子と千羽づる』を朗読し、それに合わせて山口泉氏がチェロを弾いた。この絵本の内容は、次のようなものである。

 走るのが大好きな小学6年生のさだ子は、ある日、風邪を引いて病院へ行くと「白血病」を発症していることがわかった。それは、まだ幼い2歳の頃に経験した「ピカ(原爆)」の影響によるものだった。10年の時を越えて、体を蝕んでいた「ピカ」の放射能。入院したさだ子は、「つるを千羽折ると、病気が治るんよ」と友人に教えられ、病床でつるを折り始める。さだ子の病状は次第に悪化し、治ることなく亡くなってしまう。しかし、その話が伝わると、全国から折りづるが広島へ届けられるようになった――。

さだ子と重なる、今の子どもたち

 朗読の後に、山口氏と長谷川氏が並び、講演と対話に移った。山口氏は「毎年8月6日に広島の平和公園で行われる『さだ子と千羽づる』の朗読会は、20年間続けられている」と述べ、「この絵本は実話をもとに、1994年にフェリス女学院の有志の学生らによって作られた。目にも見えず、感じ取ることもできない放射能の恐怖と、日本軍による侵略戦争について伝えている」と紹介した。続けて、「しかし、これは過去の話ではなく、現在進行中のことである。今、さだ子と同様の運命を、より多くの子どもたちが強いられている。日本は、広島・長崎の原爆を経験しながらも、戦後の原子力政策でアメリカとともに原発を増やしてきた。その責任は、まさに自民党が負うべきものであるが、安倍首相はさらに原発の再稼働、増設、国外輸出を進めようとしている」と、日本政府の政策を批判した。

 そして、新刊本『避難ママ』について、「原発事故のあと、東日本から沖縄に子どもを連れて避難した母親たちに取材をしたものだ。母親たちが共通して訴えていたのは、『この状況を政府もメディアも安全だという。日本はおかしい』『自分の頭で考えよう』ということだった」と述べた。また、山口氏自身にも体調悪化があり、今年の春に沖縄に移住したこと、さらに、この本の出版社も東京から沖縄に移転したことを話した。

原発の危機と日本の国家主義

 山口氏は「西日本では、福島第1原発事故は収束したと考えられているが、むしろ深刻化している」と述べ、「最近、メディアでは汚染水問題が取り上げられているが、4号機の使用済み燃料プールにある1500本以上の核燃料が露出し、放射能を放出するようなことがあれば、日本の核施設はドミノ式に破局を迎える。北半球全域を滅ぼす可能性すらある」と警告した。

 また、自民党の石破幹事長が「国防軍」や「徴兵制」に言及したことについて、山口氏は「日本が国家主義的な方向に進んでいる陰には、福島第1原発の事故の深刻さが根底にあり、さまざまな画策が行われていると考えている。事故の収束作業や除染など、危険な被曝労働をする作業員が法律の被曝限度を越えて、そのうち働ける人間がいなくなる。そこに徴兵制の動きが出ていることを、見逃してはならない。さらに、TPPへの参加や秘密保全法の拡大解釈により、インターネットを通じて事実を調べたり、知らせたりすることもできなくなる可能性がある」と危惧した。

長谷川氏自身の甲状腺手術

 名古屋市内で医師として働く長谷川氏は、今年の夏、自らが甲状腺の摘出手術を受けたことを明かした。「原発事故の前から、自分には甲状腺に小さな良性の結節があった。だが、最近の検査で別の大きな悪性の結節が見つかった。原発事故との因果関係を証明することはできないが、名古屋でも3.11の後に水道水からセシウムが検出されており、自身のガードが甘かったと考えている。皆さんも自分を大切にして、避難すべき時には、ためらわずに動いてほしい」と呼びかけた。

 「マスメディアも安全プロパガンダに加担している」と憤る山口氏は、「この2年間、インターネットで情報を得ていた人と、そうでない人とでは、同じ地域で暮らしていても、かなり被曝量が違うのではないか」と述べた。そして、「今、避難を語ることが一種のタブーになっている。それに手を付けると、現状の根本的な欺瞞が噴出するからだ。しかし、避難とは生き延びる道を探す大切な選択であり、今、もっとも勇気ある戦いだ」と力を込めた。

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