社会を正しく機能させるために、必要なこととは何か? ~安冨歩先生の授業 2013.7.18

記事公開日:2013.7.18取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・富山/奥松)

 2013年7月18日(木)16時30分から、東京都文京区にある東京大学本郷キャンパスにて、同大学東洋文化研究所の安冨歩教授による、インターネット公開授業の第5回目が開かれた。今回で、前期の授業は最終回となる。安冨教授は、「仁(じん)」と「不仁(ふじん)」という2つの考え方を中心に、人間同士のコミュニケーションによって形作られる組織や社会を、どのようにして正しく機能させるか、などについて講義を行った。

■全編動画(前編)

■全編動画(後編)

  • 出演 安冨歩氏(東京大学東洋文化研究所教授)
  • ゲスト 江口友子氏(平塚市議会議員)
  • 日時 2013年7月18日(木)16:30~
  • 場所 東京大学本郷キャンパス(東京都文京区)

▲授業を行う安冨歩教授

 はじめに、安冨教授は「経済学には、現象を理解するために必要な事象を積み上げていく考え方を放棄して、ある種の前提から、功利的に構成したものを正しいとする力が強く働いている」と指摘した。また、室町時代の京都で、体系的に物価調査が行われていた事例を紹介し、「原因は、漆(うるし)の価格上昇に伴い、貴族階級を示す漆塗りの烏帽子の値段も上がり、身分制度が揺らいで、社会的不安が高まったこと」と述べた。「つまり、経済現象を認識するためには、何らかの社会的動揺が発生し、実態調査が行われることで、初めて経済問題が認識される」とし、「経済問題とは、意識の内面化によるものである」と明言した。

 続けて、社会を人間のコミュニケーションの総体と捉える社会学の考え方、中国の春秋戦国時代に現れた学者・学派の概要を紹介した。安冨教授は、コミュニケーションによって、創造的な「仁」に近づく必要性を説き、一方で、創造性の麻痺した「不仁」な人々の増加によって、「社会のシステムにさまざまな不具合が生じている」と述べた。

 さらに、コミュニケーションを通して形成される社会には、情報が集まる結節点が発生し、必ず権力側からの搾取が始まる構造を解説。「人間社会は、非常に強い秩序形成能力を持っている。にもかかわらず、権力と秩序そのものが、不道徳を生み出す。経済問題も、結局は権力構造の問題に関与している。権力をどのように管理するのかが、人間社会の最大の難問である」と語った。そして、「生まれた結節点を、悪辣な形で作動させないためには、最終的には人々が『仁者』となり、創造的に問題を解決するしかない」と指摘した。

 また、「組織という形態には、人間を不仁にしてしまうシステムが組み込まれている」と語る安冨教授は、人間社会を豊かにする仁が危機にさらされていることを問題視し、「人間が器として、盲目的に活動する時、莫大な廃棄物を生み出し、資源を奪い、環境を破壊する。イギリスから始まった、現在までの経済活動を継続し続けていると、地球も人間社会も保てなくなる」と警告。「そこからシフトできるかどうかの瀬戸際にいるはずだが、日本の現政権は、原発の再稼働と輸出を進めている。日本がそのような方向に舵を切った場合、最後のチャンスが失われかねない」と危惧した。

 後半は、平塚市議会議員の江口友子氏と共に、「仁者になるためには、社会に何が必要であるか」を話し合った。一例として、「保育園の一部を職場に持ってくる」という提案をした安冨教授は、「大人は、仁者である子どもから学び、創造性を取り戻す必要がある。子どもの世界と大人の世界を分離することは危険である。社会全体の多様性を、どのように組み込むかが重要であり、大人とはまったく違うモードで作動している、子どもを中心に考えてみる。その方法を組み込んでみると、新しいコミュニケーションのパターンが生み出せるのではないか」と述べた。

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