IWJは、2010年に菅政権がTPPを突然持ち出した当初から、TPPにはらむ問題を追及し続けています。「TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会」に賛同されている大学教員の方々は、800名を超えます。しかし、「大学教員の会」の2度にわたる記者会見を、IWJが中継した以外は、日本農業新聞が報じたのみで、同会の活動および賛同者の主張について、他のメディアではほとんど取り上げられていないのが現状です。IWJは、こうした知識人の方々の声を、少しでも多くの人に伝えたいと考え、寄稿をお寄せいただけるようお願いしております。
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆◇TPPにもの申す◆◇
~渡部岳陽 秋田県立大学 生物資源科学部助教
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
TPPをめぐる議論において、『農業が日本経済発展の足を引っ張っている』、『行き過ぎた農業保護のために日本社会全体が苦しんでいる』という誤った主張が大手マスコミを中心に流布されてきた。こうした主張が秋田県及び全国の農業者の誇りを奪い、悩み苦しませているのではないだろうか。
TPPは、例外品目なく100%関税撤廃をめざし、参加国内でヒト、モノ、サービスなどの取引や移動を自由にすることを目的としている。アジア、ASEAN中心ではなく米国中心の枠組みでAPECレベルでの自由貿易圏へ発展させたい狙いがある。これまでのFTA(自由貿易協定)、EPA(経済連携協定)では相手国を選び品目毎に交渉できたが、TPPでは全ての関税障壁の撤廃が交渉の前提となる。
『平成の開国』、『(参加しないと)世界の孤児になる』といったフレーズをよく耳にするが、日本の非農産品関税率は2.5%と極めて低い水準にある。農産品に関してもごく一部の品目を除き無関税もしくは低関税である。またTPPは環太平洋と名が付くが、中国、韓国は参加していない。つまり日本は『開国済み』でありTPPに入らなくても世界の孤児にはならない。『国内GDP割合1.5%の第1次産業を守るため98.5%を犠牲にするな』という意見もあったが、GDPでたった1%の農業を米国は手厚く保護しており、農業所得に対する政府支払い比率は日本よりずっと高い。日本の農業は大して守られてないのである。そもそも農業が生み出すものは農産物だけではなく、1.5%を強調するのはおかしい。加工、流通などを含めた食品産業全体だとGDPの10%近くにもなる。
TPP参加国に日本を加えた経済規模を見ると日米で全GDPの81%を占める。アジア市場への輸出はほとんど見込めず、実質は『日米の自由貿易協定』である。一方、米国は高失業率を背景に輸出を増やそうとしており、日本から米国へ輸出を伸ばすことも困難である。TPP参加によって米国からの安い農産物の輸入が増え、ますます日本国内のデフレが進むことが見込まれる。
TPP参加により農林水産物生産額が3兆円減少すると国は試算しており、国内農業に壊滅的影響を与えることは明らかである。また、TPPでは農業を含めた24の分野での規制緩和が求められ、農業以外にも金融、労働、サービス、知的財産権など様々な領域の『国内ルール』の撤廃が目指される。米国主導の枠組みのもと『アメリカンスタンダード』が押しつけられる公算が大きく、国民生活への影響が深く懸念される。現状では、TPP参加の具体的メリットはなんら示されておらず、イメージだけが先行している。たとえ、参加によって一部の企業が儲かったとしても、大都市圏に富が集中する構造では、秋田をはじめとする地方圏にその恩恵は届かない。
自民党はTPP問題を煮詰めて「TPP参加6条件」遵守を公約として選挙を戦った。この条件については、安倍首相も日米首脳会談において「守る」と明言している。TPPの脅威を正確に国民に知らせ、TPP交渉不参加の世論を盛り上げ、その声をバックに政府が「強気」で交渉に臨まざるをえない政治的環境をつくることが、今何より求められる。
本寄稿は「IWJウィークリー第8号」でもご覧になれます。メールマガジン発行スタンド「まぐまぐ」にて、月額525円(税込)でご購読いただけます。(http://www.mag2.com/m/0001603776.html)
また、定額会員の皆さまには、会員特典として、サポート会員だけでなく一般会員の皆さまにも、無料でお届けしています。無料サポーターの皆さまは、この機会に、ぜひ、定額会員にご登録ください。(http://iwj.co.jp/join/)