「中国の狙いは、日本を孤立させることだ」――。米国の東アジア専門家であるアーロン・フリードバーグ氏は、尖閣諸島をめぐる中国の強硬姿勢の狙いを明らかにした。
2013年6月26日(水)17時より、東京・赤坂で笹川平和財団主催「アーロン・フリードバーグ プリンストン大学教授講演会」が行われた。
「アジアをめぐる米中対立の現状-最近の中国の動向を踏まえて」という講演テーマで、昨今の日中関係の悪化や中国の行動が、米中関係や日米同盟に与える影響について、議論が交わされた。講演会は、京都大学教授の中西寛氏がモデレーターとなり、防衛研究所の山口信治氏がコメンテーターとして同席した。
※フリードバーグ氏の講演部分は全編英語となっております。
フリードバーグ氏は著名な国際政治学者であり、ジョージ・W・ブッシュ政権でチェイニー副大統領の国家安全保障担当副補佐官や、共和党大統領候補だったミット・ロムニー氏のアジア太平洋政策作業チームの共同座長も務めた人物。古くから「アジアは米国率いる『海洋派』と中国率いる『大陸派』に分裂する」と指摘し、米国による「中国封じ込め政策」を主導してきた論客の一人である。
日本経済新聞編集委員の春原剛氏によると、フリードバーグ氏は知日派というよりは、むしろ「反中思想の裏返しとしての親日姿勢」を持つ存在とされている。そのフリードバーグ氏が、今回リチャード・アーミテージ氏やジョセフ・ナイ氏、マイケル・グリーン氏といった「ジャパンハンドラー」の面々と共に来日。先日東京で発足された「日米安保研究会」のメンバーに名を連ねている。
フリードバーグ氏はまず、中国の戦略について、3本の柱に要約できると解説した。すなわち、「米国などの主要国との対立を回避する」「経済だけでなく、財政、軍事、外交など総合的な国力を増強する」「アジアにおける地位を徐々に強化し、米国の地位を遠回しに弱める」という3つの戦略に基づいて、中国共産党は政治権力の独占と、東アジアにおける優位の確立を目指していると語った。
その上で、中国の狙いは「戦わずして勝つ」ことであり、軍備増強によって日米間の協力の意欲を失わせ、日米両国に「中国に抵抗することは無駄で、危険であると思わせる」ことであると説明した。
しかし、ここ2~3年、中国は徐々に国力を増強するという戦略を変更し、特に日本や南シナ海周辺諸国に対して、より強硬で攻撃的な態度を取るようになっていると指摘。その強硬さを説明するための「3つの代替モデル」を紹介した。
第1のモデルは、「中国の最近の強硬姿勢は、一過性の、もしくは一時的な出来事の結果である」というモデルである。つまり、習近平体制への移行に伴う一時的な強硬路線であり、今後は再び、より穏健な政策に立ち返るだろうという仮説である。
第2のモデルは、「強硬姿勢は、中国共産党の集団指導体制の弱体化が背景にある」と説明される。すなわち、党の弱体化という長期的な要因から、指導層がナショナリズムやポピュリズム、軍国主義を利用して、大衆の欲求不満を敵対国に向かわせようとする動きであるという仮説である。
第3のモデルは、「金融危機で米国の国力が急速に衰退したことで、中国が米国に変わって覇権を握るという目標に邁進する勢いを強める」というモデルである。中国は米国の情勢を見ながら、ある時には強硬路線を強化し、別の時には後退させながら、国力拡大を続けるであろうという仮説である。
以上3つのモデルを提示した上で、フリードバーグ氏は、自身の考えは第2と第3のモデルの中間であるとし、中国の強硬姿勢は今後も変わらないだろうと主張した。そして、中国は米国とは表面的な関係改善を望む一方、日本に対する圧力を維持するという「差別化政策」によって日米同盟を損なわせ、日本を孤立させること、そして日本に譲歩するよう圧力をかけたくなるような立場に米国を追いやることが狙いであると分析した。
この見解に立った場合、中国を思いとどまらせるためには、米国と同盟国は強力な共同戦線を維持することが必要であると主張し、一致団結した取り組みの必要性を強調した。その一方、中国の国内要因に干渉することは、事態を悪化させる可能性があり、過剰な反応を示すことは逆効果となると指摘。中国のメンツを潰しかねない安倍総理のこれまでの発言に釘を刺した格好だ。
講演に続く質疑応答では、尖閣諸島について、米国にとって尖閣諸島は相互安全保障条約の適用対象であり、中国による攻撃的な行動という不測の事態に対応した軍事演習を行っていると述べた。また、米国が日本を強力に支援することで、日本が無謀な行動に出ることにはならないだろうと主張。中国側の危険のほうが大きな懸念であると語った。
また、米国の国防費が大幅に削減されようとする中で、米国と日本が両国の資源を有効に活用するように協調することが最も重要になると力説し、日本の集団自衛参加や防衛費増加への意欲を歓迎する意向を見せた。
沖縄普天間の基地問題に関しては、「戦略的観点から言えば、二次的・三次的な問題である」と述べ、米国がアジア太平洋地域において軍事力を配備し、行使できるようにするためには、こうした基地が必要であると主張した。
最後に歴史問題について、国内で政治的支持を集めるためにこうした問題を利用することは、日本を孤立させることになり、韓国など利害の価値観を共有すべき国々との間で緊張を高めることになると主張。日本の国際的評価をおとしめ、米国との関係にも役立つものではないと強調した。
フリードバーグ氏による講演の主な内容を、以下に掲載する。なお、主催側の意向により、同時通訳音声の収録ができないため、IWJによって日本語に翻訳したものを掲載する。当日の同時通訳の内容と必ずしも一致しないことを、あらかじめご了承願いたい。