2013年5月1日(水)13時から、東京都港区の原子力規制委員会にて「第1回 東京電力福島第一原子力発電所における事故分析に係る検討会」が開かれた。会合には、規制委の更田豊志委員をはじめとして、規制庁職員や外部有識者、オブザーバーとして東京電力の担当者ら計22名が出席した。
(IWJテキストスタッフ・花山/奥松)
2013年5月1日(水)13時から、東京都港区の原子力規制委員会にて「第1回 東京電力福島第一原子力発電所における事故分析に係る検討会」が開かれた。会合には、規制委の更田豊志委員をはじめとして、規制庁職員や外部有識者、オブザーバーとして東京電力の担当者ら計22名が出席した。
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福島第一原発の事故については、これまで政府や国会、民間などの事故調査委員会で検証が行われ、報告書がまとめられている。その一方で、非常用交流電源喪失の原因や格納容器の破損箇所の特定など、技術的に確認すべき事項も多く残されている。
規制委の検討チームでは、現地調査も踏まえて技術的な論点を分析し、IAEAへの報告も行う予定となっている。この日の会合では、3.11の地震直後に発生したとされる、1号機の原子炉建屋内の出水箇所とその時間などについて、また、4号機建屋の爆発原因となる水素の発生源について、議論が行われた。今後は、それぞれの具体的な調査方法を検討する。
山形浩史氏は、検討会について、「国会事故調、政府事故調などにおいて、引き続き確認すべき技術的な論点、原子炉等の設備・機器が事故およびその後の対応によって受けた影響、今後の安全規制に反映するために技術的に解明すべき点の3点を検討対象としている」と説明した。具体的な当面の検討事項として、国会事故調、政府事故調における主要論点から、1号機原子炉建屋内での出水および4号機原子炉建屋爆発の水素発生源を挙げた。
久木田豊氏は「事故から2年以上たって、規制委員会、規制庁で新たにこういったことを始めるのは、一体どういう考えからか、確認したい。昨年の3月に、当時の保安院が事故の技術的知見をとりまとめた。この場では、基本的に、それを継承すると考えていいのか」と尋ねた。
山形氏は「事故の分析は、規制委員会、規制庁の重要な役割のひとつだと考えている。中長期にわたって続けていきたい」と述べた。続けて、更田氏が「保安院の技術的知見に関する意見聴取会を通じてまとめた報告書を、継承する考えは持っていない。もちろん、福島第一原子力発電所事故における反省を踏まえて、それを規制に反映させていくことが、規制委員会、規制庁の大きな責任である。十分に反省するためには、何が起きたのか、どのような対処がなされて、結果的にあのような事故に至ったのかを、きちんと踏まえる必要がある」と語った。
安井正也氏は「事故の分析を規制機関が行なう以上は、高い信頼性を持たせなくてはならない。情報と分析の質を高く保つことが必要。これまでの報告や分析に過度に依存するのではなく、むしろ必要な分析は規制庁で行い、現地調査もするなど、定量性を持った分析が必要である。これまでの報告書の中には、こういう仮説もあるのではないか、という類のものがよくある。それだけでは、複数の仮説の相互比較などの切り込みが足りない。現地で、どうしても調べられないこともあるので、100%完全にはならないとしても、少しでも不確定性を下げるアプローチを取ることが大事だ」と述べた。
また、渡邉憲夫氏は「今後、調査分析を進める上で、いろんなプラントの情報を見ることになる。特に類型機や同型機の話になった場合、こういう場で全部を公開できるのか。どうすれば、情報をうまく整理して議論できるかを考え、先に進まない事態に陥らないようにする必要がある。特に配置図、系統図、それから手順書は、すべて公開できるものではないことを念頭に置き、必要に応じて会合を非公開にするべきである」と要請した。
久木田氏は「この点は非常に重要で、これまで出てきた事故分析関係の資料は、模式図とか簡略されたフローチャートがほとんどで、実際の配置、構造まで見ることはできない。いわば、説明者側の説明のストーリーのために必要な情報だけが提供されている。いろいろな問題があることは理解できるので、すべてが出てくる必要はないが、詳細な図面まで含めて規制庁で検討しているのか、それとも、それも含めてこれから行なうのか」と尋ねた。
更田氏は「これはケースバイケース。規制庁の範囲でできるものであれば、そこで情報をクローズさせて検討し、その結果をここで報告して、公開の場で議論という方法も考えられる。セキュリティに関わる検討チーム会合は、適宜非公開という原則でやっているので、これはケースバイケースで判断していくことになる。この検討会の会合そのものを、非公開でやるケースがないとは言えない」と答えた。
検討課題に移り、1号機原子炉建屋内出水の議論では、橘高義典氏は「建屋内が水素爆発で壊れたのか、地震で壊れたのか、わからない。床の地震計のデータがあれば、どれくらい揺れたかわかる。そこがポイントなので、早く解明すべきである。これ以外にも、地震動による機器配管系の損傷の可能性、3号機のIC機能損失、いずれも地震によって機能を失ったかどうかがポイントになる。やはり、建屋の揺れがどれくらいであったかということを、まず明らかすることが重要である」と語った。
更田氏は「出水に対しての関心は、ICの配管の破断か否かがあるからである。まったく関係なけば、単に水が流れたという話。これがICの配管の破断によるものでなければ、それをもって、直ちにICに地震による破断がなかったとは結びつかない。しかし、水が流れてきたとの証言は、ICの配管の破断を予見させるものではない、ということは言える。 ICが地震影響によって破断したかどうかは、別の大きなテーマ。本件出水に関して、どこから水が出てきたのかを明らかにするために、スロッシング解析を進める」と述べた。
次の課題である、4号機水素爆発における水素発生源の議論では、更田氏が「5階で発生した水素が、4階に回り込んで爆発することは考えにくい。水素量の収支推定では、3号機の炉心にあった水素がSGTS配管を通って、そのうち4分の1が回り込んでくると仮定すると、100キロ程度入ることになるが、これで4号機の水素爆発が説明できるかどうか。4号機の損傷状況から、どの程度の爆発力か、おおよその推定はできる。そこから逆算して、水素量の収支が取れる」と話した。
荻野正男氏は、爆発力からの水素量に関して、「結論から言うと、3号機で1トン程度が爆発しないと、あれほどのデブリが300メートルくらい吹き上がって落ちてくるという規模にはならない。1号機では、約400キログラムの水素が上部に蓄積して爆発した。4号機については、規模的にはその中間と考えられている。3号機で400キログラムと書かれているが、炉内のジルコニウムとの反応で、全量酸化すると2トンくらいになる。爆発の観点から見ると、500ないし700キログラム位の量が、4号機で爆発したのではないか。今後、専門家が議論する過程で詳細がわかってくる」と説明した。
最後に久木田氏は「規制庁、規制委員会が、事故調査を始める。おそらく、規制現場はこれから先、審査基準やそれに基づく審査の妥当性の説明責任を求められる。一方で、事故調査はそういったものを前提とせず、予断を持たず行うものである。規制する側が事故調査をするのは、利益相反を伴う可能性がある。そのことは自覚すべき。そういうことが起こり得ないように、進める必要がある」と指摘した。
この指摘に対して、更田氏は「規制の正当性を守るための事故分析であれば、利益相反が起こると思うが、原子力利用に伴う規制と事故の分析は、安全性の向上、リスクを小さく抑えるという、同じ方向を向いた営みだ。その点から、規制委員会において利益相反はないとコミットしたい」と回答した。