フィンランド在住の倉光佳奈子氏より、同国における脱原発を求めた福島連帯行動について、ぜひ、IWJで取り上げて欲しいとの情報が寄せられた。
倉光氏は、IWJがこれまで、日本各地の連帯行動をはじめ、アムステルダムなどマスコミで取り上げられていない海外の行動も報じてきたことを知り、連絡をくださった。実は、現在EU加盟国で新たな原発を建設しているのはフランスとフィンランドだけである。
また、新設予定2基の受注競争に日本の原子炉メーカーも名乗りを上げており、フィンランドにおける脱原発運動の重要性が高まっている。このような経緯があることから、今回、記事を寄稿してくださった。この場を借りて、倉光氏に深く感謝申し上げたい。以下、倉光氏の記事を掲載する。
ムーミン、美しい自然、学力の高さ、汚職の少なさなど、肯定的でクリーンなイメージをもって語られることの多いフィンランド。実は原発推進国であり、福島原発事故後も原発に伴うリスク・コストを周知徹底した上での国民的議論が行われてきたとは言いがたい。
そして、日本企業も原発推進の片棒を担ごうとしている。日本国内での新規建設は当面難しいと判断した東芝・三菱重工・日立が、他の原子炉メーカーと激しい受注競争を繰り広げている最中だ。
しかし福島原発事故2周年にあたり、世界各地で連帯行動が開催される中、3月9日、フィンランドでも有志によってキャンドル集会が行われた。場所はオルキルオト原発から車で1時間半ほどの南西部の町、トゥルク。地元の人や観光客が行き交うトゥルク大聖堂前で、氷点下12度という手足がかじかむ寒さの中、35人が1時間にわたって脱原発を訴えた。
まず2011年9月に開催された「さようなら原発5万人集会」でのハイロアクション福島・武藤類子さんのスピーチの英訳とフィンランド語訳が読まれた後、参加者が持ち寄ったろうそくに火がともされ、脱原発を願うメッセージが書かれた布や紙を手に写真撮影が行われた。翌日のローカル紙トゥルン・サノマットでは「トゥルクにて福島の事故が記憶に刻まれた」という題でこの集会が報じられた。また、翌日首都ヘルシンキの中心街においても「Women for Peace in Finland」主催による連帯行動が行われたが、報道はされなかった。
▲ハイロアクション福島・武藤類子さんのスピーチのフィンランド語訳を読むヘリナ・キリナさん
▲参加者全員キャンドルを手に脱原発をアピール
▲氷点下12度の寒さに負けず、アピールする参加者たち
主催者の一人、フレヤ・ホグバックさんは「福島第一原発事故はフィンランドにとって他人事ではない」と語る。「フィンランドには地震や津波がないからといって、安全だと考えるのはおかしい。ウラン採掘から最終処分までの一連のプロセスに生じる膨大なリスクやコストを考えれば当然原発はやめるべき」だと訴えた。
フィンランドでは、現在原発4基が稼動中。建設中の1基(仏アレバ社)の稼働は予定されていた2009年から大幅に遅れ、2016年以降となることが確定しており、コストがかさむ一方だ。
加えて2010年に6・7基目の建設が議会で承認されている。その内北部ピュハヨキが予定地となっている1基の建設発表が2011年10月に行われ、福島原発事故以降世界初の「ゴーサイン」として波紋を広げた。ピュハヨキでは中型炉と大型炉のどちらか一方が建設されることになっており、東芝、アレバ、ロシア国営企業ロスアトムの3社が受注競争を繰り広げている。
今年1月、ピュハヨキ原発反対運動を地域・国・国際レベルで展開している住民組織「プロ・ハンヒキヴィ」の副会長ハンナ・ハルメンペーさんが来日し、講演、会見の場や金曜日の官邸前で「東芝の原発輸出を止めてほしい」と訴えた。また、東芝が面会を拒否したため、ハルメンペーさんらは浜松町の東芝本社付近で抗議行動を行った。
実は、同原発の事業者であるフェンノボイマ社は、計画に必要とされている土地と水域の一部を所有していないままプロジェクトを進めている。その土地利用計画に住民が不服を申し立てており、フィンランド最高裁判所が審議中だ。その上、昨年10月には、同社の株34%を保有しているエーオン社(独)が株を売却し撤退することを発表したことにより、他の株主数社も撤退を決定。つい先日の3月25日にも、株を保有しているクオピオ市の市議会が撤退を決めたというニュースが流れ、計画は暗礁に乗り上げている。とはいえ、原子炉供給者に選定された企業がエーオン社後任の株主になるという憶測もあり、予断を許さない状況だ。
また、フィンランドの原子力条例では「国内で生産された放射性廃棄物は国内で処分されなければならない」と定められており、映画『100,000年後の安全』でその名が知られるようになった世界初の高レベル放射性廃棄物最終処分場、オンカロが建設中だ。TBSの報道によると、このプロジェクトに関わる研究者の多くは、処分場の研究・建設を請け負っているポシヴァ社と安全性を審査する機関の両方で働いた経験があり、基本方針に反する声を上げるのは難しいという。
そして昨年11月、タルヴィヴァーラ社が経営する鉱山の貯水池からウランを含む汚水が近隣河川・湖に流出するという深刻な環境災害が起きており、現在ウラン採掘および原発に反対する市民により採掘許可撤回と鉱山閉鎖を求める「ストップ・タルヴィヴァーラ!」運動が展開されている。
ホグバックさんは今回の集会に込めた思いについて、「一番の目的は私たちの連帯の思いを日本の皆さんに届けることでしたが、同時にフィンランドの人々やメディアに改めて原発の是非を問う機会としたかった」と語った。
安倍首相が2月の施政方針演説で「安全が確認された原発は再稼働する」と明言していることもあり、こうしたフィンランドにおける原発事情、原子炉メーカーの猛攻は、日本にとっても決して他人事ではないだろう。
そして他方では、日本の脱原発を目指す市民の意図に反するかたちで、日本が原発技術を海外へ輸出することにより、海外で脱原発運動を展開する市民に苦戦を強いてしまっている現実がある。「限りなく横にひろがり、つながり続けていくことが私たちの力です」と、フィンランドにも届いた武藤類子さんの言葉のように、福島の教訓を生かすため、日本・フィンランドの両市民は、今後いかにつながり、力を合わせていくべきか。「原発輸出」阻止を含め、お互いの持ち場で取り組みを具体化させていくことがますます求められている。
▲「再稼働反対!」のスローガンも。右がフレヤ・ホグバックさん
▲参加者のロサ・ピリネンさん、手作りのスローガン付きランタンを手に
参照:
【特別寄稿】届け!原発推進国フィンランドから脱原発の叫び「福島は他人事ではない」 http://iwj.co.jp/wj/open/archives/70958 … @iwakamiyasumi
ムーミン、美しい自然、学力の高さ、クリーンなイメージの多いフィンランドだが、実は原発推進国だ。日本企業も関係している。
https://twitter.com/55kurosuke/status/528156663283339264