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2011年7月14日、TPPを考える国民会議主催のもと、オークランド大学ジェーン・ケルシー教授の東京講演会が憲政記念館で行われた。
TPPは実質、アメリカとその他8ヵ国の協定で、アメリカ議会の承認なしには成立しない。アメリカの圧倒的影響力のもと交渉が進められており、特に医療保険・予算・インターネットのオープンアクセス・投資利権・10年間で関税をゼロとする農業が、重要な争点になるであろうと語った。
また日本は、経済的観点ではなく、中国を仮想敵国とみなす安全保障の観点から交渉参加を推進していると語った。
- 日時 2011年7月14日(木)
- 場所 憲政記念館(東京都千代田区)
【TPPの成り立ち】
現在のTPP交渉参加国を見ると、オーストラリア、ブルネイ、チリ、マレーシア、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、ベトナム、アメリカの9カ国(いずれも、APEC加盟国)である。
ニュージーランド国立オークランド大学のジェーン・ケルシー教授は、交渉参加国の力関係について、9カ国の中でアメリカが圧倒的に大きな経済大国であり、政治的な影響力を持っていると述べた。
TPPは元々、2005年に、チリ、シンガポール、ニュージーランド、ブルネイ間で締結されたP4という協定が基礎になっている。この協定では、投資・金融サービスに関しての規定を盛り込むことは先送りされたという。
そして、2008年に投資・金融サービスに関しての交渉が開始され、アメリカのジョージ・ブッシュ大統領がP4に参加を表明。その後、オーストラリア、ペルー、ベトナム、少し遅れてマレーシアも参加を表明した。これがTPPの成り立ちである。
【TPPは21世紀型の協定】
ケルシー教授によると、TPPを推進している関係者が、TPPは21世紀型の協定だと主張しているという。その理由は、国境の枠組みを超えて、国内政策や規制より優先される条項が盛り込まれるからだという。
具体的には、参加国の規制を互いに似たものにすること。そして、既存のFTAにおいて、規制が競争の妨げになるような場合1)、投資家が国家に対して世界銀行傘下の国際投資紛争解決センター2)で提訴できる条項がある。TPPにおいても、この条項が盛り込まれる可能性が高いと述べた。
TPPの目的については、市場アクセスを拡大し、関税を引き下げる商業的な目的があると述べた。しかし、現在の交渉参加国においては、ほとんど関税がかけられていない3)ため、関税を引き下げることは主たる目的ではないと考察した。
つまり、TPPは投資分野が重要であり、「とりわけアメリカの投資家が他国に投資をし、権利を保障してもらうことを可能にするもの」と述べ、最終的にTPPを基準に、アジア太平洋地域を経済統合していく、アメリカにとって戦略的な目的があるとした。
また、アメリカとそれ以外の小さな国だけでは、あまり意味を持たないと指摘。日本が参加すると、「クレディビリティ(信憑性)を与える」、「他の国々が参加できるようなものになる」と述べた。
【TPPで考えられる、日本への要求】
TPPでは、政府調達に自由に外資企業が参加できるようにすることや、関税を10年間で撤廃することなどが要求されるという。
そして、アメリカ通商代表部(USTR)は、各国の貿易障壁に関する報告書を毎年出している。ケルシー教授は、その内容がTPPでも要求されるであろうと注目している。
その2011年の報告書では、アメリカは日本に対し、サービスと投資の分野と、知的財産権によるロイヤリティーを重要視しているという。農業分野では、米・豚肉・牛肉・小麦の関税緩和および撤廃と、検疫・安全性に関しての規制改革が求められており、医療分野では、医療機器や医薬品、診療報酬改定、血液製剤の規制緩和や私立病院への外資規制撤廃が求められていると述べた。
【なぜ日本政府は参加しようとするのか】
ケルシー教授は、様々な問題点や影響が考えられる状況で、なぜ日本政府が交渉参加をしようとするのか、4つの理由を自身の研究から考察した。
1、TPPを通して他国の市場にアクセスしたいから。しかし、アメリカも日本市場にアクセスできるようになるため、政治的に敏感な問題。
2、TPPを拡大し、APEC全体の合意につなげるため。しかし、日本はすでに、ASEAN+3、あるいはASEAN+6の中心的存在であり、なぜTPPに参加しなければならないか疑問。
3、経済的な理由ではなく、外交的な理由。日米関係がより接近し、アメリカが中国と対抗できるようにするため。
4、政治的に実現が難しいと思われる国内再編を、TPPを通して裏側からに推し進めるということ。
【太平洋地域のイニシアティブと日本】
青山学院大学の榊原英資教授は、ほとんどの先進国が関税や輸入規制において、「開放体制」をとっているとし、自由化か保護化かという、二極化された考えは変えるべきと述べた。それを前提とし、アメリカやオーストラリアがTPPをもってして、アメリカンスタンダードで東洋・太平洋のイニシアティブを取ろうとしていると考えた方が自然であると述べた。
そして、20年前であれば、アメリカの力に対抗できないかもしれないが、今は状況も変わっているため、良好な関係を維持しながら対応できるのではないかと、日本とアメリカの力関係に言及した。
また、日本の健康保険制度・医療制度は重要だとし、変更を求められる可能性があると述べた。しかし、様々な団体や制度を守る議論だけではなく、日本全体の国益について検討すべきだと提言した。
【TPPの行方】
本公演で、TPPは関税や制度改革の問題にとどまらず、アメリカの基準によって、太平洋地域で影響力を及ぼす戦略的な目的もあると話が出た。それでは、この協定は今後どのように進んでいくのであろうか。
ケルシー教授は、2012年にアメリカ大統領選挙があるため、2012年中の合意は難しく、「2013年までは何も起こらないだろう」と考えを述べた。
また、アメリカだけに有利な内容にならずにTPPが結ばれる可能性もあると示唆した。それは、各国の譲歩を引き出そうとする交渉が影響するからだという。しかし、アメリカは経済・政局が大変な時期を迎えている。議会の承認を得るためには、妥協できる状況ではなという。
いずれにせよ、アメリカに対し各国は、「譲歩しないというということを担保しない限り、意見は主張できないと思う」と、交渉でとるべき態度ついて言及した。
注一覧
(1)ケルシー教授は、米豪FTAが結ばれているオーストラリアの事例を挙げた。アメリカ企業がオーストラリア政府に対し、タバコのロゴを簡素化する規制が、タバコの販売の制限になるとし、提訴するという。
(2)ケルシー教授は、国際投資紛争解決センターの審議が、投資家と国家のみで秘密裏に行われると述べた。
(3)例えば、アメリカはペルー、オーストラリア、チリ、シンガポールと自由貿易協定を締結している。また、オーストラリアとニュージーランドは、ASEAN諸国と自由貿易協定を締結している。
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7月14日 東京公演
実況:IWJ 岩上安身