TPPの本質とは何なのか。現在、大手メディアはこぞって、その交渉参加の有無や判断時期ばかり報じている。各社が実施した世論調査では、「TPP参加に賛成」が、日経新聞の調査で47%(2月24日)、産経新聞とFNNの合同調査では53%(2月25日)と、国民の大半が「賛成」であるという印象を植え付けようと必死である。
しかし、TPPの「中身」については、国民のほとんどが「よくわからない」という意見だろう。政府やマスコミは意図的に情報を隠し、中身の議論は「密室」の中で行われている。IWJは、昨年4月4日、TPPについて数年前から精力的に取材・報道を行なってきた、日本農業新聞の緒方大造氏へインタビューを行った。インタビューでは、膨大な取材に基づき、TPPの歴史的経緯と、その本質に迫った。
今回はそのインタビューの模様に、詳細な注釈を加え昨年発行した、メルマガ第43・44・45号の合併号を、一般会員向けに公開したい。
第43号
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
岩上安身のIWJ特報
「いまだ知られざる壊国TPP〜日本農業新聞編集局長緒方大造氏インタビュー」
〜消費税増税、原発再稼動、そしてTPPへの参加へとひた走る野田政権の暴走。(前編)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
野田政権の本質が露わになった。前号(第42号)で 書いた通り、野田政権の暴挙3点セットである「原発再稼働」「消費税増税」「TPP」のうち、「原発再稼働」と「消費税増税」の二つが、ここ2週間ほどの間に、一挙に前進した。最後のひとつである「TPP」も、表向き、消費税政局のあおりをうけて、国内調整は後ろにずれ込んだとみられていたが、ここへきて、交渉参加へ向けて突き進み始めた。大手メディア各社が「政府が、8月中に参加を正式決定」と報じ始めたのだ。
報道が先行することで既成事実化してゆき、世論を誘導してゆく、いつもながらの「大本営発表」、姑息な手段である。
2012年7月6日、日経新聞が「野田佳彦首相が、いよいよTPP交渉への参加表明の時期を探り始めた」と大々的に報じた。小沢グループなどTPPに慎重・反対の姿勢を示していた議員の多くが、消費税増税に反対票を投じて、離党したことにより、TPPを進めやすい環境がととのってきたためであり、「原子力発電所を再稼働し、8月中下旬にも消費増税関連法案は成立する。次はTPPだ」と、首相周辺が野田首相に進言したという。
消費税増税同様、日本のTPP参加も米国政府の期待した「筋書き」通りである。
この2日後の7月8日、日本を訪れたヒラリー・クリントン米国務長官と玄葉光一郎外相が都内で会談し、クリントン長官は「日本のTPP参加への関心を歓迎している。日本の参加は大変重要だ」と述べ、日本の早期参加を促した。
7月9日、産經新聞は複数の政府関係者の話として、以下のように報じている。「政府は、8月中に参加を正式決定し、米国など関係9カ国に通告する方針を固めた。早ければ8月上旬に消費税増税を柱とする社会保障と税の一体改革法案の成立を待ち、今年12月にカナダ、メキシコと同時に交渉入りすることを目指す」
こうした水面下での推進の動きが活発化する中、民主党内、党外のTPP反対派も警戒を強めている。7月5日、民主党・経済連携プロジェクトチーム(PT)が1カ月ぶりに再開され、消費税増税に反対票を投じたが、民主党にとどまった(党員資格停止2カ月)山田正彦元農相や福島伸享氏、川内博史氏らが参加し、政府が事実上の事前交渉をしないようにくぎを刺すなど、議論は紛糾した。
また、7月11日に小沢一郎氏が旗揚げする新党の重点政策も、「5年以内のデフレ脱却(消費税増税の先行反対)」「脱原発(将来的な原発ゼロ)」と並び、「TPP反対」を打ち出している。
「原発再稼働」「消費税増税」と並び大きな議論を巻き起こしている、この「TPP」について、あらためて、その国民生活への影響や、問題点について考えたい。そこで今回は、2012年4月4日に行った日本農業新聞の編集局長である緒方大造氏へのインタビューの模様を紹介したい。日本農業新聞は、数年前からこのTPPについて精力的に取材を続けている日刊紙である。