憲法は決して不磨の大典ではない。未来永劫変えてはならない神聖不可侵の聖典ではないという見解に、私も同意する。しかしそれは、日本が独立した主権国家であり、主権者が国民であり、民主主義が十全に機能し、そのためにも基本的人権や思想・表現の自由が守られることが大前提となる。基本的人権に制約を課すような憲法では、それは近代的な立憲主義にもとづく憲法とは呼べなくなる。
国民の側から支配層に対して制約を課し、国民の権利を保障するのが近代立憲主義にもとづく憲法である。この点において、自民党の憲法改正案は、近代立憲主義にもとづく憲法の資格を欠いていると言わざるを得ない。憲法9条改正の真の狙いが、米国との集団的自衛権行使容認にあるならば、なおのことである。日米安保のくびきのもと、ただでさえ怪しい独立主権国家としての地位が、ますます怪しくなる。
立憲主義や天賦人権説を否定する議員も党内に抱えているのだから、自民党は「無知」ゆえにこのような改憲案を掲げているのではなく、「確信犯」として掲げているのであろう。しかし、こんな改憲案が通るようであれば、日本は近代民主主義国家の隊列から落伍することになる。自ら、自分たちは先進国ではない、と宣言するようなものである。
2012年12月12日、IWJは、自民党の憲法改正草案がはらむ問題点について、NPJ(http://www.news-pj.net/index.html)の澤藤統一郎弁護士と梓澤和幸弁護士にインタビューを行い、その模様をメルマガ第63号でお伝えした(当日、私は体調不良のため、IWJの若手スタッフ平山茂樹君が司会を務めた)。
インタビューでは、現行の日本国憲法と自民党改正案との根本的な考え方の違いや、新たに自民党案に加えられた国防軍や緊急事態宣言などについての話をうかがった。
ところがそのインタビューの4日後、12月16日に投開票が行われた衆院選では、自民党が294議席、日本維新の会が54議席を獲得。憲法改正を求めているこの2政党だけで、改憲発議に必要な衆議院3分の2となる320議席を楽々超える結果となった。
こうした現状に対して、海外からは、日本の右傾化に強い懸念を示す声が上がっている。2012年12月17日号の「TIME」(アジア版)は、表紙に「Japan Moves Right(日本の右傾化)」という見出しを付け、日本維新の会や自民党が求めている国防軍などについて論及している。また、12月17日付の「中央日報」も、「過去に戻る日本」と題する記事を掲載し、「憲法改正」を掲げる安倍政権に対して強い警戒心を示した。
今年1月11日付のロサンゼルス・タイムス紙は、「軍事国家日本」と題し、自民党の新憲法案を条ごとに詳細に分析しながら、「自民党は全体主義的、軍事主義的な日本を作ろうとしている」と断じている。そして、「1つだけはっきりしていることがある。世界中の人権団体は、自民党の憲法改正に反対する世論を形成するために動くべきである」とまで言いきっているのだ。
年明け以降の安倍政権は、改憲の真の目的である集団的自衛権行使容認の下地作りに忙しい。安倍総理は、1月16日から18日にかけての東南アジアへの外遊中、第1次安倍内閣で設置した集団的自衛権行使の4類型について、再検討の意向を示した。近く、当時の有識者を再び集めて、意見聴取会が開かれる予定であるという。
こうした中、1月21日付の産経新聞は、「早急に集団的自衛権の行使容認を求める」と主張し、22日付の読売新聞も「集団的自衛権の行使を可能にすることが急務」などと述べている。何度もお伝えしてきた通り、米国との間での集団的自衛権の行使容認とは、自衛隊を米国に従属させ、下請け化させることにほかならず、国家の主権の段階的放棄がさらに進むことになる。言うまでもなく、日本政府のこうした動きの背景には、米国からの強い要求がある。
2012年12月28日、私は、澤藤弁護士と梓澤弁護士へ再度インタビューを行った。このインタビューでは、自民党の憲法改正草案について、憲法前文から第20条までを取り上げ、逐条で詳しい解説を行い、ゼミナールのようなかたちで議論を進めた。今回のメルマガでは、この模様をお伝えする。
(続く)
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”国”に歯止めを利かせるための憲法が、いま自民党政権によって改悪されようとしている。改憲することで、安倍政権は何を望んでいるのか。岩上安身氏とふたりの弁護士によってあぶり出される日本の未来像は、アメリカの属国としての日本、米軍の下部組織としての”国防軍”、平和生存権の剥奪…。しかもこれは、改憲の第一歩なのではないかという指摘も。この国に住む者として読んでおきたい、わかりやすい憲法ガイダンス。
岩上安身氏が弁護士ふたりとともに、自民党の掲げる改憲案をひとつひとつ丁寧にひもとき、その奥に隠された安倍政権の意図を引きずり出して明らかにするシリーズの、前編。
…これは、面白い。
面白い、などと言うのは不謹慎かもしれないが、たとえば2年前までは「憲法九条を守る会」なんていう旗を見かけても、「あ、また怖そうなオジサンたちが何かやってるんだ…」としか思わなかった自分を猛省し、いまこそ憲法を一から読み直し理解したいと思い始めている方にとっては、これは強い刺激であり、素晴らしいガイドとなる(…つまり自分のことですw)。
現行憲法がまずあげられ、自民党の改憲案とじっくりと読み比べる。現行憲法の優れていることが際立って理解できる。そして安倍政権の考える「日本の未来」が、いかに「アメリカの属国としての日本」であるかが、ゾッとするほどよくわかる。
前文ひとつとっても、「『人権を大切にするということ』、『個人を大切にするということ』という人類普遍の権利が強調」されている現行憲法から、「『普遍的なものを顧みない』という宣言がされているような」ものへ変えたい自民党の意図には、かつての国体思想、国家主義への回帰願望が透かし見える。それは第一条で、天皇を象徴ではなく元首に変えようとしていることとも符号する。多くの人に受け入れられやすい「国歌、国旗を『尊重する』」は、現場に出ると「尊重しなければならない」という強制になるという澤藤弁護士の指摘も興味深い。そして、「国防軍は」が連呼される、自民党案憲法第9条。何より恐ろしいのは、安倍政権が改憲して実現したいと望む自衛隊の国防軍化は、独立した国家としての軍ではなく、米軍の下部組織になるためのものであるということ…。
梓澤弁護士の、「『平和のうちに生存する権利を有することを確認する』―貴重な権利根拠規定が、今回の自民党改正案では全くなくなってしまうのです」が、重く、響く。