「大阪市廃止・特別区設置住民投票」、いわゆる「大阪都構想」の賛否を問う2度目の住民投票が、2020年11月1日投開票日を迎えた。
住民投票で賛成が1票でも反対を上まわれば、2025年に大阪市を廃止し、北区、淀川区、中央区、天王寺区の4つの特別区に再編するという「大阪都構想」名目の「大阪市解体構想」は、「二重行政を解消する」と訴える大阪維新の会の看板政策。それだけに維新はなりふり構わず総力を上げて住民投票にのぞんできた。
大阪が東京と並んで「都」を名乗るためには、住民投票で大阪市の廃止と4つの特別区の再編が可決された後に、さらに国会での法改正が必要だが、維新が「都構想」と呼ぶ大阪市廃止の是非を問う住民投票のその当日である11月1日、大阪府の新型コロナの新規感染者数が人口規模で上回る東京都の新規感染者数を抜いてしまった。「都構想の住民投票などやっている場合か」という声が早くもSNS上ではあがっている。
- 大阪で123人感染(共同通信、2020年11月1日)
他方、毎日新聞が10月26日、「大阪市4分割ならコスト218億円増 都構想実現で特別区の収支悪化も 市試算」と、スクープを報じた。
大阪市財政局が毎日新聞の取材に応じて試算したところ、大阪市を4分割すると、標準的な行政サービスを実施するために毎年必要なコスト「基準財政需要額」の合計が、現在よりも約218億円増えることが明らかになった、という内容だ。
この記事ついて、日本維新の会の馬場伸幸幹事長が10月29日の衆院本会議での代表質問で「重大な誤情報を1面トップに掲載した。あってはならない事態だ」と報道に圧力をかける批判。「大誤報だ」と繰り返し訴えた。
- 国務大臣の演説に対する質疑(代表質問)馬場伸幸(日本維新の会・無所属の会)(衆議院インターネット審議中継、2020年10月29日)
また、大阪市の松井一郎市長(大阪維新の会代表)は同じ29日の記者会見で「財政局は虚偽のものを出した」と主張。松井氏によると、「基準財政需要額」は、本来様々な要素を加味して算出すべきところ、市財政局は人口のみで試算した。これは政令市を廃止して特別区へ移行するのが初めてのため、試算に使える計算式が存在しないためだが、松井市長は「ありえない数字」「虚偽」と決めつけ、非難した。
この松井市長の会見を受けて、同じ10月29日午後、大阪市財政局の東山潔局長が記者会見を行い、松井市長から「交付税の実態としてありえない」「世の中にない数字を提供することは、捏造」と、厳重注意を受けたことを明らかにした上で、試算を撤回した。
▲松井一郎大阪市長(大阪維新の会代表)(横田一氏提供)
しかし、大阪市財政局は27日の時点では、毎日の報道について「取材内容をきちっと書いてある」と、肯定的な発言をしていた。松井氏に「捏造」と言われて認めた経緯からすると、市長としての松井氏からの政治的圧力に屈して発言内容を変えたようにしか見えない。
毎日新聞は30日朝刊で「当該記事は大阪市への適切な取材に基づいたものです。代表質問後に市が一転して説明を変えたもの」だと反論し、馬場氏が国会で「重大な誤報」「大誤報」と発言したことは「極めて遺憾だ」と発表している。
「大阪都構想」の提唱者、元維新代表の橋下徹が「都構想が否決されれば住民投票は無効」とツイート! 否決された場合は毎日新聞に責任転嫁!?
そもそも2010年に当時の橋下徹大阪府知事によって提唱された「大阪都構想」と称する「大阪市解体構想」は、2011年の橋下氏と松井氏のダブル選挙での勝利を経て、その賛否を問う住民投票が行われたが、2015年5月の住民投票で否決されたシロモノである。「決着」はすでについているのである。再度の住民投票を「勝つまでジャンケン」と批判する向きがあるのは当然といわなければならない。
▲松井一郎大阪市長(左)と橋下徹氏(右)(2015年、横田一氏提供)
元大阪府知事、元大阪市長で、元大阪維新の会代表の橋下氏は10月28日、「住民投票直前に、最大の争点について、大阪都構想に不利な形で在阪メディアが大誤報をしでかした。都構想が可決されればそれでいいが、否決されれば住民投票は無効だろう」とツイートした。
さらに続けて「住民が賛成票を投じる判断を歪めたのだから。これはラグビーでいうところのアドバンテージと同じ。日本には今回のメディアの大誤報と住民投票の効果との関係についてきちんと論じることのできる学者はいないのか。ほんま後味の悪い最悪の住民投票となった。大阪市の選管はしっかり判断すべき」とツイートした。
「都構想」に反対する府議会自民党は、法定協議会に独自試算を公表! コスト増は毎日のスクープに近い年200億円!
大阪市を廃止して4つの特別区に分割した場合、財政状況がどうなるかについては、過去に大阪府・大阪市特別区設置協議会(法定協議会)の場で、自民党が独自試算により約200億円コストが増えると主張していた。
自民党大阪府連は28日、毎日の記事を紹介する形で「わが党が住民サービス低下になる根拠としている基準財政需要額が年間約200億円増えることについて、大阪市財政局を毎日新聞が取材、218億円増加することが明らかになりました」と、ツイートした。
- 自民党大阪府連のツイート(2020年10月28日)
このツイートに対して、橋下氏が「在阪メディアが訂正に走った毎日新聞の誤報道が、このように反対派に使われている。毎日新聞が報じた数字は大阪都構想のものではなく、全く別物の分市案の数字(この点は毎日新聞も認めている)なのに、反対派は都合よく都構想のものとして利用。最悪の住民投票となった」とツイート。
さらに続けて「毎日新聞の誤報道が、今回の住民投票をぶち壊した。前回の住民投票は、賛成派も否決の結果を受け入れた。しかし今回はどうなることやら。いまだ間違いを認めず訂正もしない毎日新聞は、今後、他者に間違いの訂正を求め、説明を求めることはできなくなるだろう」とツイートした。
これに対して政治社会学者の木下ちがや氏(ツイッターアカウント名:こたつぬこ)が28日、「橋下徹『賛成派も否決の結果を受け入れた』嘘つけ、前回否決されたの賛成派が受け入れなかったからいま投票やってんじゃないのさ。そんで否決されたら無効とか見苦しいぞ橋下徹」と反論ツイートしている。
松井一郎維新代表は投票結果を受け入れると明言! 訴訟、無効申し立ても否定!
毎日のスクープ報道をめぐるこの一連の騒動について、10月31日、松井市長の囲み会見では、各社の記者と松井氏の間で、以下のようなやりとりが行われた。
ABC放送記者「明日の結果がどちらになってもきちんと受け入れられますでしょうか?」
松井市長「もちろんですよ」
ABC記者「橋下さんが、毎日の件もあるし無効だとかおっしゃってますが、そのようなことは?」
松井市長「無効になるはずがありません。法的な拘束力もあるし、何度も言うように、僕はきちっと受けとめます」
ABC記者「訴訟を起こしたり、無効申し立てとかは?」
松井市長「考えていません」
共同通信記者「否決されたら政界引退は言われてますが、市長は任期満了までということだが、日本維新の会の代表についてはいつまで続けるか?」
松井市長「今それ、仮の話とはいえ、今それ聞くの? 不思議やなと思う。規約通りにやりますよ」
フリージャーナリスト横田一氏が松井氏を追及!「財政局長の発言が一転したのは松井氏の圧力ではないのか?」
松井市長はこの前日、10月29日の囲み取材で、フリージャーナリストの横田一氏の質問に「財政局長から『(根拠のない数字を出したことについて)毎日新聞の記者の方からの熱心な取材で、圧力的なものを感じた』『(記者から)プレッシャーを感じて毎日新聞側の主旨に沿って出しました』と聞いている」と答えた。
しかし、横田氏によると、実は市財務局への取材をしていたのは毎日だけではなく合計3社で、「記者から圧力や誘導を受けた」と財政局長が29日の会見で話したのは、日本経済新聞社だったとのこと。
この点について、31日の囲み会見で横田氏が松井氏を追及した。
横田一氏「馬場幹事長が大誤報といった毎日新聞の試算報道について、財政局長が日経の記者の圧力誘導で間違ってそれを出したというふうに会見で説明していたが、維新としては毎日の圧力によって誤報をきたしたという言い方もしているんですが、これは明らかな間違いだったのか?
会見で勘違いしたと松井さんも認められていましたが、誤った発言だったという理解でよろしいんですか?」
松井一市長「現場にいた局長が、日経と、僕は記者と聞いた、記者数名と。現場にいた内容を全部知っている局長が、日経というならそうでしょうけど、日経のみなさんも……。横田さん、日経に取材した方がいいんじゃないですか?」
横田氏「日経が報道しなかったんで、報道した毎日に集中砲火浴びせたと? しかも、圧力とか…」
松井市長「違う違う。集中砲火って、毎日はいまだに記事はそのままだし、あれは局長も認めているように、ない数字も出したんだから、計算式。そのまま訂正もしてないから。
職員に圧力というか誘導的な質問をしたのは、日経かもしれないけれども、毎日も質問しているんだからね。
毎日の今の、報道機関としての態度はおかしいという批判している」
横田氏「2日前は、財政局長はなんら問題ないと、毎日はよく書いてくれたと言っていたのに、一転して変わったのは…」
松井市長「誰が?」
横田氏「いや、財政局長の発言内容がですね、27日の時点では、問題ないと、よく書いてくれたと、むしろ肯定的に話していたのが、2日後に急に変わったのは、松井代表、市長が圧力をかけて、ねじ曲げたというふうにも見えるんですけど」
松井市長「あのね、これまたネットでもそんな風に言っている人がいるけど。
僕はあの記事が出た瞬間から、局長に直接連絡してない。そういうことを言われるのが嫌だったから。局長と二人で電話でしゃべってない。しゃべったりしたらそういうことを言われるのが嫌だから。
局長と会ったのは木曜日です、木曜日。そのときも副市長が3人入って、局長と話しています。
その前に副市長に、どういう経緯があったのかまとめといてねと、副市長にはお願いしました。もちろん、役所のプロパー出身の副市長です3人とも。
で僕が木曜日に行って、初めて局長と会ったわけです。
局長に僕が聞いたのは、こういう計算式っていうのは、日本のルールに定められていますか? ということを聞いた。そしたら『定められてない』。
それは、『局長はこのルールがないことは知っていたの?』『知ってました』。『このことを出すことも知ってたんやね?』『わかってました』。
『そしたら局長、ルールにないものを今まで大阪市として、財政当局は、計算式のルールにないものを今まで発表したこと、ありますか?』『ありません』というから、『これ、捏造やね』、と言うたわけです。
僕が局長と話したのは木曜日が初めてです。圧力をかけたということは一切ありません」
横田氏「今の記録は、文書として、議事録に残っているのか?」
松井市長「公開請求してくれたら良いんじゃない?」
横田氏「すぐに出さなかったのはなぜか?」
松井市長「今日、土曜日。明日、日曜日。役所は休みです。
だからそれは、情報公開請求すればいいじゃない」
横田氏「すぐに出さなかった理由はなんですか? こうこうこういう理由で、二日間で発言内容ががらっと変わったと、こういういきさつがあったからだと今お話になった内容を文書で出せばいいんじゃないですか?」
松井市長「何でそれを、僕が出さないといけないのか。局長が言っていることを信じているし、局長も捏造だったという瑕疵は認めたわけだから。
何で僕がそれ、わざわざ文書で出さないといけないの」
横田氏「わかりにくい複雑な話なんで、文書があったほうがより理解できるんじゃないか?」
松井市長「横田さん、複雑な話しでわかりにくいと言うてるのは、横田さんだけで、僕はその場にいるんだから。
職員も信じるし、そのときの状況というのは、いたって冷静にみんなで話しているんだから。
『実は』って、それ、わざわざ見せる必要がないじゃない」
11月1日に行われる住民投票は即日開票され、結果は2日未明に明らかになる。