2020年6月23日、千代田区の参議院議員会館で、資源エネルギー庁・多核種除去設備等処理水の取り扱いに関する小委員会、元委員の森田貴己氏を講師に招き「水産関係者とALPS処理水の関係」をテーマにした院内集会が開催された。
講師の森田貴己氏は、元水産庁・中央水産研究所に入庁以来、鳥島での米国の劣化ウラン弾誤射影響調査、東海村JOC臨界事故対応などを経て、2011年3月より東電福島第一原発の事故対応を担当。同研究所、海洋・生態系研究センター放射能調査グループ長として現在に至っている。
そもそも「ALPS処理水」とは何か。説明が必要であろう。
「ALPS処理水」とは、福島第一原発が全電源を喪失して炉心溶融(メルトダウン)を起こした際、燃料を冷却するため外部から水を注入したことにより、燃料に直接触れた冷却水が、高濃度の汚染水として、大量に発生。これらをALPS(多核種除去装置)でろ過して、一定の放射能濃度に軽減して敷地内のタンクに保管したものをさしている。
東京電力では、これらの水が発生するたびにタンクを増設してきたが、敷地内に設置できるタンクに限界があり、2020年夏頃には限界に達するとしている。まさに今その「限界の夏」が迫りつつある東京電力と国は、トリチウムを除いて他の放射性物質は取り除いてあり、他の稼働中の原発から毎日大量に海洋放出されている物だから、安全であるとの姿勢だ。
先ごろ閉会した、国の「多核種除去設備等処理水の取り扱いに関する小委員会」ではこれら「ALPS処理水」は海洋放出が現実的であるとの見解をまとめたが、現地福島の漁民らがこれに異議を唱えている。
森田氏は、現在の国・東電と漁業関係者との状況を、「国や東電は『トリチウムは法令基準を守れば放出しても安全』と主張しているが、漁業者は『安全はわかったが、風評被害が心配』」と反論。「これに対して、国・東電は「『科学的に説明すれば、風評被害は心配ない。リスクコミュニケーションも行う』とするが、漁業関係者は『では、現在の風評被害をまず解決して』と返すと、そこで国や東電は黙ってしまい、その議論の繰り返しをしているのが現状だ」と説明した。
先の小委員会では、タンクによる陸上保管案や、コンクリート固化による地下埋設案なども提案されたが、国も東電も、また規制当局もが海洋放出ありきの対応をみせており、先が見通せない状況が続いている。
小委員会終了後の記者とのやり取りの中で、経産省の奥田修司・福島第一原発事故廃炉・汚染水対策官は「関係者の話は聞くが、議論はしない」と言い放ち、先に結論ありきの態度を鮮明にした。
森田氏は、「漁業者の最大の関心は水産業の復興と生活基盤の確立だ」「国や東電は、風評被害対策はこれまで行ってきた対策を強化すると言っているが、これまでの対策の検証はしない」とのべ、結論として「地元の理解が得らえなければタンク保管を継続するしかない」「地元の理解を得るためには現状の風評被害を、まず解決すべきだ」と結んだ。