2020年6月4日、東京千代田区のスペースたんぽぽで、『ジャーナリズムと日本の危機 ワセダクロニクルの挑戦』と題して、調査報道専門の独立メディア「ワセダクロニクル」代表の渡辺周氏による講演会が開催された。
「ワセダクロニクル」は2017年2月、早稲田大学ジャーナリズム研究所のプロジェクトとして発足。製薬会社のカネが電通を通じて共同通信の記事に支払われていたことを報じた「買われた記事」をシリーズでリリースし、注目を浴びた。その後、2018年2月に特定非営利活動法人として認可され今日に至っている。
渡辺氏は「脈々と続く『大本営』」と題して、新聞社の現状について講演を行った。
渡辺氏は今問題となっている、黒川弘務・前東京高検検事長と産経新聞記者、朝日新聞元記者とのかけマージャン事件に触れ、記者が「半径10メートルの評価が気になるサラリーマン」となって、当局からのリークを待つ姿勢が常態化していると批判。「メディア自体がメディア・政治家・官僚・大企業による『ムラ』の中にいる」「それを『大本営』と呼んでいる」と述べ、「戦前、メディアが積極的に戦争を煽って部数を伸ばしてきた伝統が現在も脈々と流れている」と語った。
さらに渡辺氏は、当局と記者との関係について「リーク」と「告発」の違いを次のように説明した。
「リークは当局者が、明日わかることを今日漏らして記事を大きく扱わせ、自分たちのペースで事を運ぶために行う。告発は、当局や権力者にとって不都合なこと、おかしいと思われることを、内部の当事者からジャーナリストに接触する、またはその逆におかしい事が行われていると思っている人に記者が接触を試みる事」
渡辺氏によると、誰のために取材をしているのかが異なるというのである。
また、新聞が政権に逆らえない理由として渡辺氏は、「消費税増税時に新聞は軽減税率の適応を受けた。これは安部首相が財務省に働きかけたもの」と説明した。
渡辺氏によると、それに加えて発行部数の捏造である「フェイク部数」があるとのこと。これは、公称部数に対して実際には配達されない部数が相当あって、当局はこれを容認している。渡辺氏は「そのために新聞は当局に完全に握られていて、本当の真剣勝負は無理だ」と述べた。
渡辺氏は、ワセダクロニクルは読者に対して、①「旬のニュースを消費せず、事態が変わるまで報道する」➁「手間暇かける」③「最高水準の技術で臨む」④「顔色をうかがわない」④「支援者は同志」として支援者以外でも記事は見ることができる、と「5つの約束」をあげた。
最後に渡辺氏は、今後のワセダクロニクルについて「『調査報道』から踏み込み、単にリサーチして情報を集めるのではなく、もっと深堀して捜査のような『探査報道』を目指す」と結んだ。