「鈴木直道・夕張市長は自公推薦候補というより公明党公認候補のようです。今回の官邸主導の候補者選考では、蜜月関係の菅義偉官房長官と佐藤浩・創価学会副会長コンビが連携したとしか考えられません」
こんな見立てを披露したのは、「鈴木直道氏が当選したら、高橋はるみ北海道知事以上に『官邸言いなり知事』になるに違いない」という警告を発した道政ウォッチャー。そして2月9日から11日の三連休と翌17日の鈴木市長同伴の公明党時局講演会の日程を差し出した。
4日間の公明党時局講演会は、合計で9ケ所。夕張市・岩見沢市・札幌市2ケ所・旭川市・函館市・苫小牧市・釧路市・深川市の道内を鈴木市長が駆け回って、各地区の公明党道議と一緒に講演する形である。知事選序盤から公明党はフル稼働状態に入っていたのだ。先の道政ウォッチャーは「菅官房長官一押しの鈴木市長が与党系候補選考レースを制したのは、『公明党カード』が切られことが大きい」と振り返る。
「自民党道連の大半の国会議員や道議は地元経済界や市町村長らと共に和泉晶裕・北海道局長(国交官僚)の擁立を目指し、『鈴木市長ありき』の官邸忖度志向の吉川貴盛・道連会長(農水大臣)への一任を認めず、公平に議論をして決めようとしている最中の2月1日、鈴木市長が『フライング出馬会見』をして、その当日に公明党本部が推薦を決定した。
保守分裂回避(与党系候補一本化)を条件にしていた和泉氏を不出馬に追い込んだ。納得がいかない和泉擁立派は橋下聖子参院議員にも出馬要請をしたが、即断即決で推薦を出した公明党との関係悪化への懸念から立候補を断念した」
こうしたゴタゴタを経て自民党が推薦を決めたのは、公明党推薦から8日後の9日。もし橋本氏が出馬を決断していたら、「自民党は橋本氏推薦、公明党は鈴木氏推薦」という前代未聞の保守分裂ねじれ選挙となっていた可能性もあった。道政ウォッチャーは、次のように推定していた。
「そんなリスクのある決断を公明党北海道本部だけでできるはずがない。菅官房長官と佐藤浩・創価学会副会長コンビが動いて公明党本部と調整をしていたのは確実でしょう。『「公明党カード」を素早く切ることで道連の候補者決定権を奪い取り、官邸お気に入りの鈴木市長を自公推薦候補とする』というシナリオ通りの展開になったように見えるのです」
菅官房長官と同じ法政大学卒で苦学生という共通点もある鈴木市長は、原発再稼働とカジノ誘致とJR廃線問題で、安倍政権と足並みをそろえる国策追随型候補である。その一方で、「夕張を財政再建させた若くて爽やかな市長」というイメージもあわせ持つ。「夕張ではジャニーズ並の人気」(夕張市議)で、このことも公明党が鈴木市長擁立を後押しした要因に違いなかったのだ。
「ジャニーズ並の人気」を誇る鈴木市長が800人の公明党支持者(創価学会員)を「感動」させた波乱万丈の人生遍歴講演! 弁舌の巧みさは小泉進次郎以上!?
2月11日、苫小牧市。鈴木直道・夕張市長を招いた公明党時局講演会の会場は、北海道知事選と道議選に向けた勝どきコール後も熱気に包まれていた。出口近くには長蛇の列ができ、鈴木市長と安藤くにお道議が一人一人と握手を交わしていくと、興奮冷めやらぬ参加者が「感動しました!」「応援をします!」などと声をかけていった。隣にいた主催者の創価学会太平洋総県の中村守・総県長が「道議選の風になる」と言いながら、その光景を満足げそうに見つめていた。
――(横田)「(菅義偉官房長官と懇意の)佐藤浩・創価学会副会長ももう、だいぶ気合を入れているのですか」
中村氏「気合を入れています。そうですね。よくご存知なのですね」
――「素早く公明党推薦が決まったのも佐藤副会長の後押しがあったのだろうと」
中村氏「そうでしょうね。まあ、公明党本部の様々な(世論)調査の中で答が出たのでしょう」
――「佐藤副会長と菅官房長官の太いパイプがまた働いたのかなと」
中村氏「そうでしょうね」
――「(和泉晶裕さんを推していた)自民党道議らは反対したのに、菅官房長官がゴリ押ししたという話を聞きました」
中村氏「菅官房長官ではなく、公明党のジャッジだと思う」
――「公明党として後押ししたと?」
中村氏「公明党道議の選挙のためにもなるし、(北海道知事選で)鈴木市長推薦をした方が風になる」
鈴木市長の出馬会見当日に、いち早く推薦を出した公明党の狙いが透けて見えてくる。「地元ではジャニーズ並みの人気」(夕張市議)を誇る鈴木市長が公明党道議の各選挙区を回って講演し、「鈴木市長旋風」を道内全体に広げて道議選と知事選を勝利するというものだ。
たしかに鈴木市長の講演は、苦労の絶えない波乱万丈の人生遍歴を情感たっぷりに語っていくもので、政策を競い合う北海道知事選での評価予測はさておき、「苦労話コンテストなら優勝確実」と太鼓判を押したくなる内容だった。弁舌で大衆の気持ちをつかむという点では、小泉進次郎氏に匹敵するか、あるいは上回るかもしれない。約800人(主催者発表)の聴衆からは何度も大きな拍手や歓声がわき起こり、参加者の満足げな表情が感動を呼び起こしたことを物語っていた。
苫小牧でも人気抜群の鈴木市長を握手タイムが終わったところで直撃し、「今日、原発とかカジノとかJR廃線問題とかの政策に触れられなかったのは、理由があるのですか」と聞くと、「理由は特段ないですが、政策の議論はこれからしっかりやっていきますので」と答えた。
約1時間の公明党時局講演会のうち鈴木市長の講演時間は約32分。高校時代から夕張市長を経て北海道知事選出馬に至るまでの人生遍歴の部分が約6割で、道政全般の課題や政策について語ったのは最後の約4分間(全体の約12%)にすぎなかった。以下の記事目次の通りの時間配分になっていた鈴木市長の講演を、途中で夕張に詳しい地元記者の解説を盛り込みながらたどっていき、最後に総括する。
なお、自民党・公明党の推薦を受けた高橋はるみ氏が、史上初の4選を果たすこととなった2015年4月の北海道知事選については、以下の記事をご覧いただきたい。