【特別寄稿】「試合に勝って勝負に負けた」!? 必見! 衝撃の結末を迎えたキックボクシング・那須川天心選手対ロッタン・ジットムアンノン選手「観戦記」(IWJサポート会員・首都大学東京教授・石川求) 2018.6.23

記事公開日:2018.6.23 テキスト
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 千葉県の幕張メッセで2018年6月17日、キックボクシングのRISE世界フェザー級(-57.15kg)王座をかけて、那須川天心選手とロッタン・ジットムアンノン選手(タイ)の試合がおこなわれた。

▲那須川天心選手(オフィシャルブログより)

 那須川選手は16歳でデビュー以来、キックでは負けなしの24連勝中(MMAを入れると30連勝中)で、そのうち19試合はKO勝ちという驚異の強さを誇る。しかもまだ19歳という若さ!キックボクシングファンの誰もが注目する圧倒的王者だ。那須川選手は今回の試合でバンタム級からフェザー級へと階級を上げ、さらなる高みを目指す。

 格闘技において階級を上げて勝利することは、どんなに強い選手でも一筋縄ではいかない。それでも、「神童」と呼ばれる那須川選手であれば、無敗の王者であり続けるのではないか、ファンからはそんな期待が強かったことだろう。

 対するロッタン選手は、ルンピニースタジアム認定スーパーフェザー級でも、タイ国プロムエタイ協会フェザー級でも1位に君臨する、ムエタイ界のスーパースターだ。戦績は108勝40敗6分。まさしく百戦錬磨の選手と呼ぶにふさわしい。しかも、那須川選手が2018年2月の試合で苦戦を強いられることになった元ルンピニー王者・スアキム・シットソートーテーウ選手(タイ)からダウンを奪い、完勝している。間違いなく過去最強の相手である。

▲ロッタン・ジットムアンノン選手(RISEホームページより)

 IWJ代表・岩上安身は、周知の通りキックボクシング(と格闘技全般)の大ファンで、このキックボクシング史上初と言っても過言ではない好カードを、当然ながら見逃すはずがない。その岩上さんも、「今度ばかりは那須川天心といえども危ないのではないか」と、試合が近づくにつれ、そわそわと気をもんでいたくらいである。この日の歴史的一戦を幕張メッセの会場で、岩上さんは、IWJキックボクシング部の面々と、IWJの活動を支えてくださるサポート会員の方とともに観戦した。

 岩上さんとともに観戦したサポート会員の方は、首都大学東京でドイツ近現代哲学を教えている石川求教授。今回、石川教授には、那須川選手対ロッタン選手の「観戦記」を寄稿していただいた。

 勝利の女神が微笑んだのは、那須川選手か、それともロッタン選手か。衝撃の結末を迎えることとなった一戦について、ぜひ、以下の石川教授の「観戦記」をご覧になって、その興奮と感動を共有していただきたい。

「神童」は今度こそ負けるかもしれない!? 那須川選手対ロッタン選手の衝撃の結末に会場が湧いた! IWJサポート会員・石川求教授による「観戦記」

 小学生のときに大相撲の地方巡業をかぶりつきで見たことはある。しかし相撲となるとまた別の話だろう。

 ともかく格闘技の試合を生で見るのは生まれて初めての体験である。キックボクシングはむかし沢村忠(※)のそれをテレビで見ていたといったら、古すぎると岩上さんに一笑された。

(※)沢村忠は、1943年生まれで満州出身のキックボクサー。「キックの鬼」と呼ばれた沢村の最終戦績は232勝5敗4分け、うち228試合がKO勝ちだった。

 なるほど、ビギナーズ・ラックとはこれをいうのか!そう盲信したくなるほどのラスト2試合だった。セミ・ファイナルも凄かった。クレイジー・ラビットこと工藤政英と森本“狂犬”義久との息を呑む死闘。これだけでも、ヒマラヤの絶頂をいきなり見せつけられた満足感に襲われた。しかし、最後の最後に、もう一つの忘れられない絶頂が私を待っていた。

 まるで観客を睥睨するかのような那須川天心の入場。いったい誰が、わずか30分後にはまったく別人と化した彼がリングに立っていることを想像できただろう。岩上さんは予想していた。「神童」は今度こそ負けるかもしれない、ロッタンはそれほど手強いと。24戦対150戦。ほとんど年齢は変わらないのに、過去の試合数はこんなにも違う。

 そのとおり、ロッタンは那須川を睥睨し続けた。終始、那須川は気圧されていた。打っても蹴ってもロッタンは平然としている。もっとかかってこいと、彼はいくど両手で那須川を挑発したことか。

 観ているこちらも疲れ果てて、あっという間に5Rは終了。那須川の判定負けを周囲のみなが覚悟した。ところが、3人のジャッジの内ふたりがドロー。那須川は九死に一生を得て、延長戦による凄絶な打ち合いで辛くも判定勝ち。「まさにホームタウン・デシジョン(身びいきの判定)!」と皮肉ったのは、左隣にいたIWJスタッフの中村さんである。そういえば、ジャッジがみな日本人の姓だったことも気になるところだ。

 しかしながら、私にとっての「絶頂」というのは、その次に起こったことである。勝者のコメントを求められた那須川は、マイクを手に泣いていた。そして言ったのだ。「試合に勝って勝負に負けました」と。リングの上には、相手の強さを潔く認める独りの若者がいた。那須川の内面にも、フェアプレーの村田諒太がきちんと存在する。それが何よりも眩しかった。

▲試合後の那須川天心選手(那須川天心選手ツイッターより)

 リングを後にするロッタンも泣いていた。だが、那須川を応援していたであろう観客たちがわれ先と彼に群がり見送った。湧き上がった満場の拍手はロッタンへのものだった。

 天心とロッタン。今や宿敵となった二人はどこかでまた相まみえるだろう。いや、そうならなければ誰も納得しまい。

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