捏造「指示」の証拠を出せ!? 裁量労働制「不適切データ問題」で自民・橋本岳議員が論点をすりかえる圧力! 国会での本格審議を前に論戦を牽制か!? ~上西充子法政大学教授と労働弁護団有志が緊急記者会見で反論!「実務家として震撼」 2018.5.11

記事公開日:2018.5.11取材地: 動画
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(取材:上杉英世 文:松本聰 文責:岩上安身)

緊急特集 高度プロフェッショナル制度の異次元の危険性!
※2018年5月22日、テキストを追加しました。

 政府が今国会の最重要法案のひとつと位置づけている「働き方改革関連法案」で、「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」「同一賃金同一労働の導入」「時間外労働の罰則付きの上限規制」と並ぶ4本柱だった「裁量労働制の対象拡大」は、調査結果に「異常値」が多数含まれていたことと、不適切な「比較データ」が使用されたことが明らかとなり、2018年3月1日、法案から全面削除された。

 法政大学キャリアデザイン学部の上西充子教授は、メディアや集会、シンポジウム、野党合同ヒアリングなど様々な場で、「働き方改革関連法案」を批判的に論じ、特に「裁量労働制の対象拡大」の「比較データ」問題ではいち早く問題点を指摘・追及。法案から削除させた「最大の功労者」(日本労働弁護団・嶋崎量弁護士)と称揚されている。

▲上西充子・法政大学キャリアデザイン学部教授

 IWJでも、裁量労働制を違法適用し、東京労働局から指導を受けていた野村不動産で、50代の男性社員が過労自殺し、労災認定されていたことが報じられた3月5日直後の3月7日、岩上安身が上西充子教授にインタビューしている。

 上西教授は2018年5月4日から「Yahoo!ニュース 個人」で、全7回の予定で裁量労働制の捏造された「比較データ」の隠蔽プロセスについて、徹底検証している。

 これに対し、2015年3月26日、不適切な「比較データ」が民主党の厚労部会に提出された際の厚労政務官であり、現在は自民党の厚労部会長である橋本岳衆院議員が2018年5月7日、自身のフェイスブックに上西教授に対する恫喝ともとれる投稿をした。

 「働き方改革関連法案」成立を主導する立場にある与党議員が、法案に批判的な市井の一研究者にこうした圧力をかけることは、嶋崎弁護士によれば、日本国憲法で保障された学問の自由(第23条)や表現の自由(第21条)に「違反する」という。

<会員向け動画 特別公開中>

■ハイライト

■全編動画

  • 会見者 上西充子氏(法政大学教授)/嶋崎量氏(日本労働弁護団前事務局長)/中村優介氏(日本労働弁護団事務局次長)/竹村和也氏(日本労働弁護団事務局次長)
  • タイトル 裁量労働制「比較データ問題」の検証記事についての橋本岳議員の見解に関する記者会見
  • 日時 2018年5月11日(金)14:00〜
  • 場所 厚生労働省記者クラブ(東京都千代田区

上西教授の裁量労働制に関する緻密な連載記事に、法案を推進する立場の政治家が不当な圧力!

 法政大学キャリアデザイン学部の上西充子教授は2018年5月11日午後2時から厚生労働省記者クラブで、上西教授と日本労働弁護団有志との共催による、「働き方改革関連法案」を推進する自民党厚労部会長・橋本岳衆院議員の「恫喝」問題について、緊急記者会見に臨んだ。

 同席したのは、日本労働弁護団の前事務局長・嶋崎量(ちから)弁護士、いずれも事務局次長の中村優介弁護士、竹村和也弁護士。無用なトラブルを避けるため、事前告知なしという異例の会見だった。

▲2018年5月11日の緊急記者会見。写真奥から中村優介弁護士、上西教授、嶋崎量弁護士、竹村和也弁護士

 上西教授は「Yahoo!ニュース 個人」の連載「裁量労働制のねつ造された比較データ、バレないための隠蔽プロセスを検証」の第1回でこう書いている。

 「本稿では改めて、5回(現在は7回の予定)の連載で、裁量労働制の比較データ問題を取り上げたい。なぜなら、比較データの『ねつ造』問題は、答弁の撤回や法案からの裁量労働制の拡大の削除でなんとなく収束したような体裁が取られているが、実のところは何も究明されておらず、誰も責任を取っていないからだ」

 上西教授の連載が第4回を迎えた5月7日になって、橋本議員が自身のフェイスブックに連載記事に対する嘲笑と皮肉めいた評価が入り混じった投稿をした。

 「その上、いきなり国会で答弁せず、野党に示した理由は『認識の刷り込み』を狙ったのだなどという説明は、後付けで噴飯ものもいいところの理屈です」(現在は修正)。「上西教授の、今回の裁量労働制関係データ問題を巡る一連の検証には、心から敬意を表します」

 これに対し、上西教授は「本当に、心から敬意を表します、というのなら、『噴飯物』という言い方はしないですよね」と自身のツイッターで反論。橋本議員は「深く反省」し、フェイスブックの記述を修正し、上西教授ではなく「ご覧になった皆様」に謝罪した。

橋本議員が「引用」という条件を削除しようとしないのは、安倍総理の答弁を意識している!?

 しかし、橋本議員が自身のフェイスブックで一貫して修正に応じていない箇所がある。それが以下の部分だ。

 「このシリーズ(上西教授の連載記事)は未完ですから、ここまで『意図した捏造』と指摘するからには、『捏造を指示した連絡』などがそのうちきっと証拠として示されるものと期待しています。これがあれば、決定的になりますから」

▲橋本岳衆院議員(公式ホームページより)

 上西教授は連載記事で「捏造」の検証をおこなうことは繰り返し主張しているが、「誰かから指示があった」などという指摘はしていない。

 そもそも厚労省内部に通じていない上西教授が、「指示した」証拠など示せるわけもない。上西教授がおこなっていることは各種資料や国会答弁などにもとづき、厚労省が「比較データ」に「意図的改変はない」としていることに対して、反証を上げていくことだ。

 この「捏造の指示」という部分は、橋本議員が勝手にでっち上げたものであることを、上西教授は記者会見で何度も強調していた。

 上西教授が再度ツイッターで抗議すると、橋本議員は「上西教授の文章からの引用では」なく、「私が上西教授の文章を読んで認識していたことを記した」との記述を5月10日付で加筆したが、あくまで捏造の論拠となる「指示」という条件を排除していない。

 これでは、上西教授は「指示」の証拠を示さなければ「捏造」とは言えないという批判を受ける可能性が出てくる。それにしても、なぜ橋本議員はこれほどまでに「指示」にこだわるのだろうか。

 上西教授は「指示」という条件は、安倍晋三総理がある答弁で付け加えた条件と同じだと指摘する。

<ここから特別公開中>

 2018年2月20日の衆院予算委員会で、立憲民主党の長妻昭議員が安倍総理に「(不適切な『比較データ』問題には)首相サイドからの『つぶやき』や(厚労省職員の)『忖度』があったのではないか」と質した際、安倍総理は「つぶやき」「忖度」などを都合よく無視した上で、一方的に「指示」に限定し、「私や私のスタッフからの指示はなかった」と答弁した。

 上西教授は、こうした追及をかわす手法を「朝ごはん」にたとえ、「ご飯論法」と名づけた。

加藤勝信厚労相が乱用する「ご飯論法」~ 論点をすり替え、はぐらかし、個別の事案に答えず、話を勝手に大きくして答弁拒否、そして事実の書き換え!

 このような答弁は、野党の追及をかわす際の加藤勝信厚労相の答弁でも多用されている。実際にどのような手法が用いられているのか、非常に興味深いので少し長めに引用する。

Q「朝ごはんは食べなかったんですか?」
A「ご飯は食べませんでした(パンは食べましたが、それは黙っておきます)」

Q「何も食べなかったんですね?」
A「何も、と聞かれましても、どこまでを食事の範囲に入れるかは、必ずしも明確ではありませんので・・」

Q「では、何か食べたんですか?」
A「お尋ねの趣旨が必ずしもわかりませんが、一般論で申し上げますと、朝食を摂る、というのは健康のために大切であります」
Q「いや、一般論を伺っているんじゃないんです。あなたが昨日、朝ごはんを食べたかどうかが、問題なんですよ」
A「ですから・・」

Q「じゃあ、聞き方を変えましょう。ご飯、白米ですね、それは食べましたか」
A「そのように一つ一つのお尋ねにこたえていくことになりますと、私の食生活をすべて開示しなければならないことになりますので、それはさすがに、そこまでお答えすることは、大臣としての業務に支障をきたしますので」

 上西教授は、加藤厚労相に顕著な「ご飯論法」を5類型に分類している。ここでは一例を挙げておく。

Q「朝ごはんは食べなかったんですか?」
A「ご飯は食べませんでした(パンは食べましたが、それは黙っておきます)」

 この追及かわしの手法は「論点のすり替え」。「朝ごはん」を食べたか問われた際に「食べた」と答えたくない場合、「ご飯」を食べたか否かに論点をすり替え、「ご飯は食べませんでした」と回答する。

「『働き方改革』の法案審議は、人を騙すことを得意とする人に、委ねるべきものではない」

 安倍総理や加藤厚労相が裁量労働制の違法適用を取り締まった具体例として示していた、2017年12月25日の野村不動産への特別指導について、2018年3月4日、実際には過労自殺の労災申請が端緒だったことを朝日新聞がスクープした。

 立憲民主党の石橋通宏議員は翌3月5日の参院予算委員会で、安倍総理や加藤厚労相が答弁の前に、この過労死や労災申請の事実を知っていたのではないかと質した。

安倍総理「これは、特別指導についてですか。特別指導について報告を受けたということですか。特別指導については報告を受けておりましたが、今の御指摘については報告は受けておりません」

加藤厚労相「それぞれ労災で亡くなった方の状況について逐一私のところに報告が上がってくるわけではございませんので、一つ一つについてそのタイミングで知っていたのかと言われれば、承知をしておりません」

▲加藤勝信厚労相

 上西教授はここで「さて、ここで加藤大臣は何を答えただろうか?」と問う。「承知をしておりません」と答えたのだから、石橋議員も、翌日の報道を見ても、加藤厚労相は過労死や労災申請の事実を「知らなかった」と認識したことがわかる。

 しかし、加藤厚労相は(野村不動産の件に限らず)「一つ一つの」労災の状況について(と論点をすり替え)「そのタイミングで」知っていたのかと言われれば、「承知をしておりません」と答えているわけで、一般論を述べているに過ぎない。

 上西教授は過去の自身の記事を引用する形で、この記事をこう締めくくっている。

 「『働き方改革』の法案審議は、正しい事実に基づいて、真剣に議論すべきものだ。人を騙すことを得意とする人に、委ねるべきものではない」

▲岩上安身のインタビューに答える上西教授(IWJ撮影)

裁量労働制やこの「働き方改革法案」にある高プロの影響を受けるすべての労働者を攻撃するものだ!

 記者会見に同席した日本労働弁護団常任幹事の島崎量弁護士は、「裁量労働制の対象拡大は見送られたが、高プロのほうはまだ残っていて、まさに今国会で審議され、5月中にも成立するのではないかと言われている中で、これが研究者に対する威嚇であることが問題だ。

 これは上西教授だけの問題ではなくて、裁量労働制やこの『働き方改革法案』にある高プロの影響を受けるすべての労働者を攻撃するものだ、命に関わる問題だと私は受けとめていますし、労働者のために寄り添って活動している労働弁護士の立場でも、許せないという思いで会見に臨んでいます」と強調した。

 また、竹村和也弁護士は「日本労働弁護団は当然、裁量労働制には反対しています。仕事の量についてはまったく裁量がないわけですので、危険性についても訴えてきましたし、むしろ厳格に適用されるべき裁量労働制が、違法に適用されている例が数多くあるということで、厳格に指導しろという立場でもあります。

 対象を拡大するなどということはもってのほかという立場なのですが、拡大しようとしている政府の側が立法事実というものを示すべきです。今回のケースはそもそも立法事実を示すはずの統計調査、あるいはそれにもとづく資料が、相当ずさんなものが示されていた。我々実務家として、震撼しています」と危機感を示した。

 政治家が、自分の気に食わない発言をする人物に、直接「だまれ!」ということなどまずない。橋本議員のフェイスブックの投稿が、いわゆる「ネトウヨ」界隈に広がり、それを政権寄りのメディアが報じて、いつしか事実が何なのかうやむやになってしまう。こうした流れに陥ることが最も恐ろしい。「だから、早い時期にこうした場を設けた」と島崎弁護士は述べた。

 同時に、国会議員はこうした事態を招きうる権力を持っていることに自覚的であるべきであり、その権力を一研究者に向けることなど許されない。

 会見の事前告知がなかったことから、この日、会見に臨んだのは記者クラブメディアとIWJだけだった。裁量労働制をめぐる事実を、多くの日本人は知らない。だからこそ、嶋崎弁護士は「マスメディアに発信してほしい」との思いから記者会見に臨んだ。

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