そもそも痴漢が多すぎる! その背景にあるのは女性蔑視? 女性専用車両騒動から浮かび上がる日本社会のいびつな現実 2018.4.15

記事公開日:2018.4.15 テキスト
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(文:奥松由利子 文責:岩上安身)

 日本では4月1日から新年度が始まる。この春も、たくさんの若者が進学や就職で新しい生活をスタートするだろう。初めて電車で通勤通学する人たちは、ラッシュ時の混雑に驚愕するかもしれない。そんな中で見知らぬ他人が身体を触ってきて、声を上げても周りの乗客が無関心だったら、どれほどショックだろうか。

 残念ながら、日本の大都市圏の通勤時間帯には痴漢が多発している。これは海外でもよく知られていて、イギリス政府は日本への渡航者向けの安全情報の中で、「通勤列車での『chikan』は頻繁にある」と注意喚起を行い、カナダ政府も同様に、日本に旅行する女性向けに「通勤時間帯の混み合う電車で不適切な接触が発生することがある」と警告している。

 このような状況を改善するために、多くの鉄道会社はラッシュ時に女性専用車両を設置している。しかし、数年前から、「女性専用車両は男性差別」と主張する団体の男性たちが強引に乗り込んでトラブルになっている。2018年2月16日には、東京メトロの国会議事堂前駅で女性客や駅員と口論となり、その影響で千代田線は最大15分遅延することになった。

 IWJは、この団体が2月24日に渋谷で「女性専用車両反対」の街頭演説を行った際、彼らの活動を問題視する人々がカウンター活動を展開したことを伝えた。

▲カウンターに街宣を阻止される参加者(読者提供)

 団体のリーダー格の男性は、「女性専用車両反対デモのカウンターは在日朝鮮人だった」というコメントと共に、その時の動画をツイッターに投稿しており、これに対して、「なんだ、(女性専用車両反対派デモのグループは)レイシストだったのか」「男女差別は許せないけど人種差別はウェルカムって無茶苦茶だな」などのリプライが寄せられている。

 そもそも、なぜ避難場所(女性専用車両)を作らなければならないほど、電車内で痴漢行為が多発するのだろう。そこに日本ならではの特殊性があるのだろうか。ストレス社会、男尊女卑、弱者に対する不寛容や無関心、セクハラや性犯罪を終わらせようという「#MeToo」ムーブメントへの反応の鈍さなど、女性専用車両のトラブルから見えてきた、さまざまな問題や疑問を続報としてお伝えしたい。

記事目次

「女性専用車両は私たちの避難場所」~ ワイドショーで女性出演者たちが口にした切実なコメント

 東京メトロは女性専用車両を導入した目的を、「(通勤通学ラッシュの時間帯に)痴漢をはじめとする迷惑行為の抑止を図り、女性のお客様のほか、小学生以下のお客様、おからだの不自由なお客様とその介護者の方に安心してご利用いただくこと」としている。首都圏では、JR東日本や私鉄各社も同様に女性専用車両を設置している。

 女性専用車両には「女性専用車・Women Only」というステッカーが貼られているが法的な拘束力はなく、男性客の任意の協力のもとで運用されている。つまり、女性、子ども、障害を持つ人たちのために、鉄道会社が「ラッシュの時間帯に、この1車両だけ、一般男性はご遠慮を願えませんか」と協力を要請し、男性客が「いいですよ」と応じて成立しているものだ。それゆえ、「自分は協力しない!」と強引に乗車する男性がいても強制的に排除することはできない。だが、そういった行為が他の利用者との軋轢を生み、現実に列車の遅延まで引き起こしていることも事実である。

▲JRの女性専用車両を示すステッカー(Wikimedia Commonsより)。これでは女性以外の弱者、子どもや障害をもつ人が利用可能であるとはわかりにくい。

 2月16日の女性専用車両でのトラブルは、テレビのワイドショーなどでも大きく取り上げられた。どの番組でも、女性出演者たちは自分の身近な問題として痴漢の多さに言及し、「女性専用車両は避難場所」と訴えている。

 2月27日の『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日系)では、女性専用車両を学生時代に利用していた宇賀なつみアナウンサーが、「私の周りで首都圏でこの時間帯に(電車に)乗っていて、一度も痴漢に遭ったことがない人は10人に1人ぐらい。ほとんどの人は一度は遭っている」と発言。そういう人たちにとって、女性専用車両は安心できる空間なのだと語った。

 翌2月28日に放送された『直撃LIVE グッディ!』(フジテレビ系で)では、三田友梨佳アナウンサーが、「痴漢に遭ったことのある人じゃないと、どれだけの恐怖かわからないと思う。その後もトラウマになる。避難場所として女性専用車両があることの、何が男性差別になるのだろう」と、千代田線を遅延させた団体の行動に疑問を投げかけた。

 3月1日にはTBS系の『ビビット』の中で、タレントの和田明日香さんが痴漢被害の経験を語った。被害を受けた後、同じ加害者に狙われないように乗車の時間帯を変えたと話し、「(痴漢被害の)影響は続く。なぜ、嫌な目に遭った方が気を使わなきゃいけないんだろうって、悔しい思いをしてきた。女性専用車両はすごくありがたい」と強調した。

 同番組の堀尾正明キャスターは、電車内で「痴漢冤罪」におびえている男性も多いことに言及。女性専用車両は「痴漢対策だけど、痴漢冤罪対策でもある」とし、(痴漢に間違えられたくない男性客のために)男性専用車両があってもいいとの考えを示した。

 さらに、3月4日放送の『サンデージャポン』(TBS系)では、タレントの壇蜜さんが女性専用車両ができた経緯に触れて、「本来、こういう(女性専用車両に反対する)方々が矛先を向けるのは、痴漢だったり、威圧的なことをする人たち(であるはず)」と指摘。問題の原因(痴漢)ではなく、対策(女性専用車両)に敵意を向けることに疑問を呈した。

弱者のための仕組みが、別の弱者を排除する。不寛容が連鎖する息苦しい社会

 内部障害を持つある男性の方から、IWJあてに女性専用車両をめぐる別角度からの問題の指摘をメールでご教示いただいた。この男性は外見は健常者と変わらないが、内部障害があるためヘルプマーク(*)を付けた上で女性専用車両に座って通勤しているという。

▲ヘルプマーク(Wikimedia Commonsより)

*ヘルプマーク
義足や人工関節、内部障害、難病など、外から見てわかりにくい病気や障害を抱えた人たちが、周囲に自分の状態を知らせて援助を得やすくするためのマーク。赤い長方形の中に白十字とハートの形が配置されたデザインで、2012年に東京都が作成。2018年2月現在、20都道府県で導入されている。

 2020年の東京オリンピックとパラリンピックに向けて、ヘルプマークはJIS(日本工業規格)に定められ、全国的な普及が期待されているが、一般的な認識はまだ低い。IWJにメールを送ってきた男性は、ヘルプマークを付けて女性専用車両を利用することを鉄道会社に伝え、問題がないことを確認しているにもかかわらず、乗車中に女性客から罵倒されたり、降ろされそうになった経験があるという。

 冒頭でも触れたが、女性専用車両が想定している利用者は女性のほか、小学生以下の子どもと保護者、障害を持つ人と介護者で、これらの人々は男女問わず利用が可能だ。「女性専用」という言葉が「男性立ち入り禁止」だと誤解され、弱者保護のために別の弱者を排除する結果になってしまうのは、とても残念なことだ。女性だけでなく、子どもや障害のある男性も女性専用車両を利用できることを周知していく必要がある。

 同様の事例は、一般車両の優先席でも見られる。お腹が目立たない妊娠初期の女性や、外からはわからない怪我をした若者が、優先席に座って注意されているのを見聞きしたことはないだろうか。優先席にいる「健康そうに見える人」に眉をひそめたくなる気持ちもわかるが、ヘルプマークやマタニティマークを確認することもなく「マナーが悪い」と決めつけることは、援助が必要な人を萎縮させてしまう。そして、他人から冷たく扱われた人は、別の機会に他人に冷淡になるだろう。近年、こうした不寛容の連鎖が、あちこちで現れているように感じる。

「たかが痴漢」なのか? 声を上げる女性に向けられる「#MeTooバッシング」と第三者が性犯罪を黙殺する心理

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「そもそも痴漢が多すぎる! その背景にあるのは女性蔑視? 女性専用車両騒動から浮かび上がる日本社会のいびつな現実」への1件のフィードバック

  1. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見) より:

    ストレス社会、男尊女卑、弱者に対する不寛容や無関心、セクハラや性犯罪を終わらせようという「#MeToo」ムーブメントへの反応の鈍さなど、女性専用車両のトラブルから見えてきた、さまざまな問題や疑問を続報としてお伝えしたい。
    https://iwj.co.jp/wj/open/archives/418336 … @iwakamiyasumiさんから
    https://twitter.com/55kurosuke/status/986196905242722304

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