安倍総理の「腹心の友」こと加計孝太郎氏が理事長を務める学校法人・加計学園。加計学園による獣医学部新設経緯を巡って、疑惑が噴出している。
加計学園が利用した国家戦略特区制度による獣医学部新設は「総理のご意向だと聞いている」などと書かれた文書が文部科学省から流出し、5月17日、朝日新聞が報道した。同日、民進党は独自の「加計学園疑惑調査チーム」を設置し、疑惑の究明に向けた活動をおこなっている。
そして5月25日、文部科学省の前川喜平前事務次官が会見を開き、流出した「総理のご意向」文書について、「確実に存在していました」と断言した。
前川氏の会見に先立つ5月19日、民進党の「加計学園疑惑調査チーム」は愛媛県今治市の加計学園獣医学部建設現場を訪れ、関係者からヒアリングをおこなった。以下、現地調査の模様を取材したジャーナリストの横田一氏による寄稿レポートを掲載する。
なお、IWJは民進党「加計学園疑惑調査チーム」のヒアリングや、前川前事務次官の会見の模様を取材している。あわせてご確認いただきたい。(IWJ編集部)
民進党「加計学園疑惑調査チーム」が加計学園獣医学部の建設現場を訪問!しかし加計学園の担当者は現れず…市民団体が地元の内部事情を暴露!
民進党の「加計学園疑惑調査チーム」(共同座長は今井雅人衆院議員と桜井充参院議員)が5月19日17時、国家戦略特区に指定され、現在加計学園の獣医学部が建設されている現場(愛媛県今治市いこいの丘)を訪ねた。参加したのは、共同座長ら衆参議員の6名。しかし敷地内への立入りは認められず、説明役の加計学園関係者も現れなかった。
▲加計学園・岡山理科大学獣医学部の工事現場
森友学園の工事現場を参院予算委員会メンバーが訪ねた時には、籠池泰典理事長(当時)が説明し、安倍総理からの100万円寄附を暴露したが、ここで説明役を買って出たのは、市民団体「今治加計獣医学部を考える会」の黒川敦彦・共同代表だった。
「だまし討ちを受けた気持ち」と切出し、「(今治市が出す)96億円を地場産業振興に使う選択肢もあったはず」という地元の声も紹介。そして黒川氏は、「国家的詐欺事業」と呼びたくなる実態をまとめた文書を調査チームに手渡し、次のような説明をしていったのだ。
地方を食いつぶす加計学園――大学のために今治市が払うのは最大96億円・土地は無償譲渡・税収増は年間3千万円――回収には320年!
▲黒川氏が手渡した文書
◆財政問題(市から96億円拠出)
「市民の半数以上が『国が大学を作ってくれるから嬉しい。国が大半のお金を出してくれる』と思っていますが、『今治市が最大で96億円(市の歳出の12%)払わないといけない。市有地を加計学園に無償譲渡する』ということを知っている人はほとんどいない。しかも市民への説明会は、工事が始まった後でした」
黒川氏が手渡した文書には「大学開設の税収増は年間3千万円程度で、回収には320年もかかる」との指摘がなされている。まさしく「だまし討ち」である。
◆バイオハザードレベルの改竄
「(加計学園の)獣医学部にはBSL3(バイオハザードレベル3)の施設を設置する計画ですが、市からは『(リスクが一段低い)BSL2程度の研究しかやらない。だから大丈夫です』という説明を聞いています。でも新設させる獣医学部に就任予定の教授は『世界最先端のウィルス研究をやります』とプレゼンで意気込み、そのウィルス研究の中にはBSL3のウィルスの名前も入っている。どうみてもヤル気になっているとしか見えない」
◆国(内閣府)主導の早期開学計画
「市役所のどの担当課に聞いても『急げ急げと言われて来ている』『平成30年4月開学をしないといけないから、このスケジュールなのです』と言われます。急がせている主体は内閣府しか考えられない」
◆市有地譲渡前にボーリング調査
「市有地が無償譲渡される前にボーリング調査が行われました。加計学園の加計孝太郎氏からボーリング調査の申入れ書が市役所にメールで送られてきたのですが、同じ日付で承諾書を出している。その後、郵送で申入れ書が届いて決済しています。一日、二日すら待てないほど急いでいたのです」
民進党の問い合わせに対し、愛媛県庁や今治市庁も対応せず!官邸から圧力がかかった可能性も!?
地元の内部事情を次々と暴露した市民団体の説明により、疑惑調査チームの視察目的はほぼ達成されたといえる。朝日新聞が安倍首相の指示を示唆する内部文書を報じた翌17日に発足した疑惑調査チームが、活動開始3日目に現場視察をしたのは、「内閣府主導か否か」を確かめるためだった。最初に訪ねた愛媛県庁で、桜井氏は記者団にこう語っていた。
「一番大きいのは、(愛媛県の中村時広)知事の発言。『国家戦略特区を使ったらどうか』というアドバイスがあって、それからトントン拍子で進んでいきましたという知事の発言がありました。ところが、昨日(18日)に私が農水委員会で(内閣府で国家戦略特区を担当する)藤原豊審議官に質問をした時には『内閣府からそういう働きかけをしたことはない』と答弁。知事発言と食い違っていたので、確認をさせていただきに来ました」
たしかに中村知事は4月12日の会見で次のように明言していた。
「(加計学園の建設予定地は)今治が古くから教育機関の誘致を図って、幾度となく挫折をし、私も就任以降、構造改革特区で提出をし続けて、ことごとくだめで、途中で『これはもう無理じゃないか』と感じた」「途中で内閣府から助言があって、『国家戦略特区で出したらどうか』ということだったので、出したら許可が下りたということです」
先の「今治加計獣医学部を考える会」の賛同者でもある福田剛・愛媛県議(民進党)も、県庁に問い合わせて「内閣府の方から県地域政策課の担当者に説明があった」と確認し、桜井氏に伝えていた。そこで調査チームは、県知事や地域振興課の担当者と面談し、国会答弁との食い違いについての事実確認をしようとしたのだが、知事も担当者も不在で話を聞くことはできなかった(後日、文書で質問状を送って回答を得ることになった)。続いて調査チームは今治市役所を訪問したが、市長や担当者から話が聞けず、同じ対応となった。
「官邸から県や市に圧力がかかったのだろう」(桜井氏)との見方もあったが、最後に市民団体から話を聞くことで、「国(内閣府)が地方自治体(今治市)を急き立て、市民への十分な説明なしで『国家的詐欺的事業』をゴリ押ししている」という実態を知ることができたのだ。
加計学園による獣医学部設立は、官僚の忖度ではなく安倍総理・官邸が直接官僚に指示した可能性も!官製談合事件か!?
視察後の囲み取材では、調査チームのメンバーから「『安倍友学園』こと加計学園疑惑」の全体像をより鮮明にする発言が相次いだ。韓国の朴前大統領に匹敵する犯罪的行為の可能性を示唆するもので、その構図は「国家戦略会議のトップ(座長)である安倍首相が天の声を発し、本命の加計学園が選ばれるような選考条件を加えることで競合相手を排除した」という「官製談合事件」とぴったりと重なり合うのだ。
公共事業に例えれば、「安倍首相は官製談合の仕切り屋として『天の声』を発し、お友達の加計学園だけが選ばれるようにした(競争入札の形骸化による実質的な随意契約(=発注者意向による恣意的な一社指名)」ということになる。
▲黒川氏から説明を受ける民進党・加計学園疑惑調査チーム
加計学園疑惑の本質を浮彫りにする国会議員の発言は次の通りだ。
斎藤嘉隆参院議員「今治市のように自治体が土地を無償で学校法人に供与するのは、ここ10年間では1度もない。極めて稀なケースなので、市民の皆様に今一度考え直していただくことが必要ではないか。現場で工事が進んでいるが、まだ大学設置について審議会で議論中。これから文科大臣が認可するわけで、来年4月開校は無理がある」
木内孝胤衆院議員「京都産業大学が手をあげていたのに排除された経過が不可解。もともと『(獣医学部)空白区』という条件はなかったのに、11月9日に突然『空白区』が条件になった。世界的な権威の研究者がいて提案内容もしっかりしていた京都産業大学ではなく、『今から頑張ります』という加計学園が選定されたのは、公平中立な決定とは言えないと思います」
●桜井氏(共同座長)「官僚から内部告発があって、『一校に絞ったのはいつどこで、誰がやったのか』ということを問うてくれ、と言われて国会で質問をした。そもそも『一地域に一獣医学部』という空白区の条件を追加して京都産業大学が脱落、『四国にないから』という理由で加計学園が選ばれた。国家戦略特区の議長(トップ)は安倍総理ですから、安倍総理が決断すれば、何でもできる。恐らく総理から直接指示があったのでしょう。
『四国にないから』を条件にするのなら、地域活性化が目的の『構造改革特区』でやるべきです。しかし構造改革特区の場合は、各省庁と話し合いをして決めるから認可が下りなかった。実際、知事が言うように何回提案してもうまくいかなかった。だから内閣府は愛媛県に国家戦略特区を提案したのでしょう。その時は、加計学園に決まっていた『出来レース』だったと思います。
実は、加計学園の関係者から『教師の質があまりにひどすぎる』という内部告発も受けています。65歳以上の教師や大学院を卒業したばかりの人たちがいて、『こういう教授陣で大丈夫なのですか』と心配する内容だった。そうした方々とも意見交換をしていきたい。
●今井氏(共同座長)「『官邸の主導で進んでいる』という疑念がある。森友学園の場合は回り(官僚)の忖度があったのかも知れないが、加計学園疑惑の場合は、安倍首相あるいは官邸が直接指示をしたのではないかという疑念をもっています。これが事実であれば、森友学園以上に悪質な可能性がある」
安倍首相が天の声を発した「官製談合事件」の様相も呈してきた加計学園疑惑は、田中角栄元首相が逮捕されたロッキード事件と同様、総理大臣の犯罪的行為の真偽を問うものだ。田中元首相は5億円のワイロを受取ってロッキード社製航空機購入を働きかけたとして逮捕された。
同じように安倍首相も、加計孝太郎氏との長年の交友関係を通して巨額の接待(ワイロの一種)を受けた見返りに、加計学園の獣医学部開学に尽力、96億円の血税投入などの利益供与をはかったのではないかと疑われているのだ。「収賄罪」「談合罪」「国会議員地位利用利得罪」などが当てはまる可能性があるようにみえるが、国会などの中央と地方の両方から加計学園疑惑の犯罪性――安倍首相の「天の声」で加計学園が本命になったのか――を明らかにすることが期待される。