「世界のレイプの中心地」「女性や少女にとって世界最悪の場所」と呼ばれるコンゴ民主共和国東部。その地で4万人以上もの性暴力被害者の治療を行ってきたデニ・ムクウェゲ医師は、2016年10月4日(日)、東京大学本郷キャンパスで行われた講演会で、「これは『性暴力』ではなく、『性的テロリズム』です」と語った。
ムクウェゲ氏は、1955年生まれのコンゴ人産婦人科医師。コンゴ東部ブカブにパンジー病院を設立し、4万人以上の性暴力被害者を治療しながら、国連本部をはじめ、世界各地で紛争と性暴力、グローバル経済の関係について訴えてきた。その活動が評価され、国連人権賞、ヒラリー・クリントン賞、サハロフ賞などを受賞。2016年のノーベル平和賞の有力候補者として名前も上がっていた。
コンゴ東部では、コンピューターや携帯電話などに使われる鉱物資源タンタルが産出される。武装勢力がその資金源として、鉱山の住民を支配する手段として、「武器としての性暴力」が行われているのだという。
ムクウェゲ医師は、「レイプは性的な欲求のためではない。これは性的なテロである」と話す。被害者は、生後6ヶ月の乳児から80歳の女性まで、ときには一度に100人単位で襲われる。住民の目の前で暴行され、性器を破壊され、住民に恐怖を与えて支配するために、組織的に、計画的に行われている。被害にあった住民の多くは村を去り、残った者も奴隷のように扱われる。
▲講演するデニ・ムクウェゲ医師――10月4日、東京大学本郷キャンパス
そのような恐怖に支配された奴隷労働によって、安く得られた鉱物資源は、コンピューターや携帯電話の原材料として用いられる。製品のコストを引き下げ、競争力を高めるために、グローバル企業にとって好都合なのだ。
ムクウェゲ医師は、武装勢力と多国籍企業が取引を行わないように国際社会が監視することの必要性を訴える。2010年には経済協力開発機構(OECD)とアメリカ合衆国政府が、紛争鉱物の取引を規制するガイドラインを発表した。
世界で産出されるタンタルの3分の1は日本に輸入され、私たちのコンピューターや携帯電話にも使われている。私たちの日常生活と、コンゴにおける性暴力とは、一見関係があるとは思えないが、実は切っても切れない関わりがあるのだ。