【IWJブログ・特別寄稿】立憲民主主義促進法で壊れた日本をつくり直そう(ReDEMOS理事・弁護士 水上貴央) 2016.7.8

記事公開日:2016.7.8 テキスト
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 下記の原稿は『はじめて投票するあなたへ、どうしても伝えておきたいことがあります』(監修:津田大介 編集:ブルーシープ)に私が寄稿したものです。

 昨日7月7日に開催されたトークイベント「七夕クロストークカフェ~岩上安身×孫崎享×水上貴央×三宅洋平」の内容と関係が深いことから、特別にIWJのサイト上で公開いたします。ぜひともお読みいただき、また拡散していただければと思います。

 この国の立憲民主主義をしっかりとつくり直しましょう。(弁護士 水上貴央)

1 安保法案と壊されかけた立憲民主主義

 2015年の9月16日、私は、いわゆる安保法と呼ばれる法案の審議に際して横浜で行われた地方公聴会において公述人という立場でお話ししました。

 そこでは、この法案は明らかに憲法第9条が禁止する武力の行使を認める規定になってしまっていること、法案の内容が政府の国民に対する説明と全く異なっていることなどを示し、このような状況で無理矢理この法案の採決を行うことは、もはや民主主義ではなく、多数が賛成しさえすれば何でも決めてよいという、単なる多数決主義であるというお話をしました。与党議員を含む多くの議員の方が熱心に耳を傾けてくださいました。

 しかし、その翌日、この法案を審議する参議院の委員会では、議事の中断している間に、突然委員でもない与党議員が委員長を取り囲んで、あたかも「人間かまくら」のようなものが作られました。野党の委員からは何をやっているのかも全く理解できないような状況で、与党委員が6回ほど立ったり座ったりし、それをもって「法案を可決するものと決した」などという議事録を後からねつ造することで、この法案を採決したことにしてしまいました。

 まさに「民主主義」の精神のかけらもなく、「単なる多数決」としても認められないような方法で、国の重要なあり方を変えかねないこの法案は、国民に押しつけられました。

 今回行われたような暴挙が許されてしまうと、究極的には、まともな議論を行わなくても、いきなり「かまくら採決」を強行し、あとは議事録をねつ造すれば多数派があらゆる法律を作ることができ、民主主義は破壊されてしまいます。

 また、この法律では、日本への攻撃もなく、攻撃の意思もない他国に対して、日本が他国を守るために攻撃を加えるという集団的自衛権が認められています。政府は新三要件という厳格な基準に従うものに限定すると説明していますが、政府が要件の一つに上げている「必要最小限」という基準が条文には書かれていないなど、この説明は法案の内容を意図的にねじ曲げたものとなっています。加えて、日本が他国の戦争を支援し、攻撃直前の爆撃機に弾薬を補給するといった行為を世界中で行うこと等も可能となります。これは、明らかに、憲法第9条の確定した解釈に反するものですが、政府はこれまで憲法の番人として機能してきた内閣法制局を人事権をたてに骨抜きにし、ろくな憲法審査も行わないままに、合憲であると強弁し続けました。このように、政府は、憲法の枠内で立法や行政活動を行うという立憲主義をも完全に踏みにじってしまいました。

2 壊れた日本はつくり直せる

 つまり、残念ながら、現在の日本は、民主主義も立憲主義も破壊されかけた「かまくら時代」なのです。しかし、だからこそ、この国の将来を担う私たちが、この国の立憲民主主義を、もう一度つくり直すべきときです。

 私は、SEALDsの奥田愛基さんや上智大学の中野晃一教授らと一緒にREDEMOSという市民のためのシンクタンクを立ち上げました。

 そこでは、壊されかけた立憲民主主義をもう一度立て直すために「立憲民主主義促進法」という法律を制定しようと議論しています。これは、憲法に反する法律が作られてしまわないように裁判所が立法の段階でその内容をチェックする仕組みの構築や、国会が民主主義のプロセスに沿って議論を進めるための最低限のルールの明示、報道の自由に対する圧力の禁止など、現在の政府が次々と壊そうとしていることを、一つひとつ制度として作り直すための法律です。現在、具体的な法文案を様々な専門家の方と議論しています。

 残念ながら、これまでの日本の制度は、良識無き権力者の横暴に十分に対抗できません。それならば、私たち自身が、実際に法律や制度の案を検討し、志ある議員とも協力しあって、二度と立憲民主主義を踏みにじられない仕組みを再構築すればいいのです。私たちがお互いに知恵を出し、前向きに議論し合えば、それは十分に可能です。

3 憲法は私たちが政府に押しつけるもの

 日本国憲法は「押しつけ憲法」だと言う人がいます。たしかに、日本国憲法は戦後、二度と戦争などしたくない、平和の下できちんと発展していきたい、一人ひとりが尊重されて豊かに暮らしたいと願った多くの人々が、アメリカという外圧を上手に活用しながら、当時の国の為政者たちに「押しつけた」ものです。そして、実は、イギリスでもフランスでも、多くの国の憲法は、自分たちの権利を尊重してほしいと願う市民たちが、当時の国王やその他の為政者に対して押しつけてできたものです。

 ですから、当時の為政者の立場に立って、戦前のような日本を理想とする人にとっては、まさに、日本国憲法は「押しつけ憲法」なのです。

 今、日本は、この憲法を、政治権力の側が国民に押しつける憲法に変えようとする動きがでています。中でも、いざとなったら全ての権力を政府が握ることができるという「国家緊急権」というものが入れられてしまうと、憲法は、私たちのためのものから、国家のためのものへと、全く変わってしまいます。これは絶対にやめさせなければなりません。

4 自由で互いに尊重しあえる未来へ

 憲法が、国民を縛るためのものへと変えられそうになっている今こそ、私たちは、もう一度、立憲民主主義について真剣に考えなければなりません。一時的な感情にとらわれず、長い目で、この国のあり方をデザインしていく時期が来ているのです。

 戦後100年を迎える2045年は、いま18歳の皆さんが47歳です。ちょうど皆さんの子供世代が同年代になる頃、日本は平和で豊かな国でいられるでしょうか。18歳の皆さんが今まさに声をあげ動き出すことが、今よりも格差を小さくし、表現や報道の自由を守り、子供を安心して育てられる社会をつくり直せるかどうかの鍵となります。

 この国の未来に私たちが責任をとるためには、私たちがお互いに、自由で、相互に尊重しあい、ともに一歩ずつ明るい未来を作っていくことが必要です。そのために、立憲民主主義促進法の制定で、壊れかけた日本をつくり直す第一歩を踏み出しましょう。


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