若くて、女性で、エリート。それだけで注目は集まる。今回の参院選の福岡選挙区で公明党の公認を受け、自民の推薦も受けて立った高瀬ひろみ氏は、新人ながら、多くのメディアから注目されている候補だ。気が早いメディアの中にはすでに「当選は間違いなし」などと報じているところもある。
高瀬ひろみ候補は元外交官。シアトル他、東ティモールなど海外の日本大使館での勤務経験も持つ。“国際感覚豊か”で“語学も堪能”な公明党のマドンナだ。
2016年7月3日(日)13時、福岡市・天神の警固公園(中央区)において高瀬ひろみ候補街頭演説会「ワカモノ街頭イベント」が行われた。IWJは、その「ピカピカの新人候補」を取材するために、会場に駆けつけた。
高瀬ひろみ応援ソング「笑顔つながれ♪」にあわせ、高瀬候補と応援弁士たちが街宣カー上に現れた・・・。
- 弁士 遠山清彦氏(衆議院議員、公明党)/高瀬弘美氏(参院選福岡選挙区候補・新人、公明党)/石田祝稔氏(公明党政調会長、衆議院議員)ほか
- タイトル 参院選 福岡選挙区 公明党「高瀬ひろみ ワカモノ街頭イベント」(天神警固公園)
- 日時 2016年7月3日(日)13:00〜
- 場所 警固公園(福岡市中央区)
- 告知 高瀬弘美候補Facebook
不安な世界情勢の今こそ、国際感覚あふれる語学力に優れた人材を!
演説の口火を切ったのは、応援弁士の公明党・遠山清彦衆議院議員だった。バングラッディッシュでのテロ事件にふれ、犠牲者への追悼の弁を述べ、「このような不安な世界情勢だからこそ、国際感覚にあふれ、語学力に優れた人材を国政に送らなければいけない」とアピールした。
高瀬候補は福岡では24年ぶりの女性の国会議員候補だという。安倍総理の女性参画社会にも言及しながら「日本ではもっと女性が活躍すべきです」と熱弁をふるう。
福岡が日本でもっとも成長率を誇っている都市であること、外国からの観光客が増え、外国クルーズ船の就航が最も多いことなどを挙げたあとは、野党共闘への批判。
「民進党・岡田はうそを言うな」(共産党と一緒にはなるが提携しないと言ったことに対し)、「自衛隊は憲法違反といいながら、いざとなったら自衛隊に国を守ってもらうという共産党はおかしい」と述べたあと、「民進党と共産党の”おかしい”コンビに勝たせるわけにはいかない!」。
▲応援演説を行う公明党の遠山清彦衆議院議員
遠山氏の演説が終わると、18歳選挙権を意識してだろう、今度は18歳の専門学校生が登場。「政治にはまったく関心がなかった」「高瀬さんに出会い、その笑顔と思いに感動して大好きになった」とアピール、彼女のリードで公明党おなじみの“ウェーブ”を聴衆が行った。
「いろんなひとに会ったけれど、私たち(若者)のことをいちばん考えてくれるのは高瀬さん」と彼女は言う。しかし彼女はどのくらいのいろんな人に会い、なぜ高瀬さんしかいないと結論するに至ったのか、そのあたりの言及はない。
ウェーブが終わると、高瀬候補にバトンタッチ。話がいちばんわかりやすいとのことなので、こちらも期待を込めて演説にのぞむ。
「公明党の訴えもあって奨学金制度も良くなってきた、自公政権になって正社員が増えた」――現状把握に「無理」がある高瀬候補の演説
「若い人を応援したい!」「若い人のための政策がぜんぜん足りません!」そう語る高瀬候補。元外務省キャリアという華やかな経歴の持ち主だが、特に裕福な家庭であったわけではなく、「両親を助けたいという思いもあって、奨学金を3つもらって、大学を卒業した」という。
▲演説をする高瀬ひろみ候補
昨今、批判の多い日本の奨学金制度については、「それでも公明党が訴えてきたのでよくなってきたが、まだまだ足りない」とのこと(公明党の働きかけで改善!? 筆者はこのような話は初めて聞いたが…)。そして、行うべき政策として「給付型奨学金の創設」「海外留学のための奨学金の創設」を挙げた。
また派遣社員等の問題については、それが深刻な政治の問題であること、国の責任であることに触れつつ、それでも「自公政権になり正社員雇用が増えた」という。
いや、ちょっと待ってくれ、と演説を聴いている最中に「待った」をかけたくなった。自公政権により、明らかに正社員は減り、非正規社員は増えている。これは誰もが知っている話で、常識中の常識であろう。
こんな基本的なデータを扱う話で、まるっきりのウソを言うのか?
「フレッシュな新人」にあわい期待を抱いたのに、無惨に裏切られた気がする。「呼吸するようにウソをつく」安倍政権や稲田政調会長でも、ここまでのウソはつかないぞ、と声に出さずに突っ込みを入れる。
若者を取り巻くもっとも大事なテーマに対し、問題解決以前に、現状把握そのものに大きな「無理」がある演説であったが、その一方で、「若い人が生き生きと働けるように!」「自公安定政権であるからこそできる!」「野党は耳障りのいいことばかりを言うが、肝心のお金のことを言わない」と野党共闘批判には力が入る。
最後に「若い人こそ選挙に行きましょう」と呼びかけ、英国の国民投票の例を挙げた。
「英国の国民投票も、若い人が選挙にいかず、離脱が決まった今になって“しまった投票に行けば良かった”と後悔しているそうです。そうならないためにも、ぜひともみなさん投票に行きましょう!」
しかし英国のこのたびの国民投票率は7割を超えており、それほど低くはない(若年層は若干落ちて5~6割といわれるが)。“後悔”しているのは、「よく考えずに離脱に投票してしまった人たち」であって、「残留に投票しておけばよかった」と後悔しているのであり、投票そのものをしなかったことではないことは、知られている。
起こりうる事態についてよく考えないまま投票し、公開する可能性ならば、日本の参院選の場合、ありうるシナリオとして考えられるのは、政府・与党からも、マスメディアからもろくに中身についての情報を知らされないまま、「改憲」すべきなのだ!というアジテーションだけ浴びるように受けてきた人々が、後先のことを考えずに改憲勢力に投票し、本当に、憲法改正の発議が行われ、あれよあれよという間に、緊急事態条項が通ってしまうシナリオである。そうなってから「何も知らなかったぞ!」と言っても遅い。後悔先に立たずである。
高瀬候補、どうも現実を把握する能力にイマイチ疑問を感じるのだが・・・。
「共産党に負けてはいけない、負けるわけにはいかない!!!」
「ワカモノ街頭演説」のしめくくりは、石田祝稔政調会長の応援演説。
雇用については、「正社員と派遣社員の賃金格差については、ヨーロッパ並みの、正社員の8割まで上げる」また奨学金については、自身も高校・大学と奨学金制度を利用していたことを話し、「給付型奨学金の創設をしなくてはならない。安倍総理にも話し合いに行き、現在、政府の方針にそれを入れさせることができた。ただ全員にというわけにはいかない。お金の問題もあるので、どういう制度にしていくかはこれから」とのこと。
先の高瀬議員の「公明党が訴えてきたので良くなった」とはこのことのようらしい。「実績」ではなく、「これから」の話ではないか。「これから」話を実績のように話すというのも、本当は「反則」である。新人だから、と大目に見るべきか。新人のくせにベテランのようにウソをつく、たいしたタマだ、と見るべきなのか。
しめくくりはやはり野党批判。「共産党に負けてはいけない、負けるわけにはいかない!!」と熱く締めくくり、そのあとは、歌手の川村れいな氏による高瀬ひろみ応援ソング「笑顔つながれ」で幕を閉じた。
やはり、演説はナマで聞いてみる者である。遠くから、新聞や週刊誌などの活字を通じて「肩書き」だけ見ていたら、スゴいキャリアだなあ、と感心しておしまいにしていたかもしれない。選挙で大事な一票を投じる時には、ゆめゆめ「肩書き」なんぞに、騙されてはいけません。