改憲がかかった今回の選挙。野党共闘が成立した32の一人区に注目が集まりがちだが、複数人区でも改憲勢力と非改憲勢力の間で熾烈な選挙戦が繰り広げられている。
千葉選挙区の改選数は3。そこに自民党と民進党から2人ずつ計4人、共産党から1人が立候補し、激しい選挙戦を繰り広げている。
民進党から立候補しているのは、現職の小西洋之氏と水野賢一氏。どちらも昨年の安保国会で戦争法案の問題点について鋭く追及した議員である。一方自民党から立候補しているのは、現職の猪口邦子氏と新人の元栄太一郎氏。猪口氏には政治資金の不正疑惑が持ち上がっており、刑事告発までされているが、政治家としての説明責任はいまだに十分に行われてはいない。
2016年6月30日、千葉県のJR新松戸駅とJR柏駅にて、水野賢一氏の街頭演説が行われた。応援には地元選出の民進党衆議院議員である田嶋要氏、太田和美氏、石塚貞通氏、さらに民進党代表の岡田克也氏が駆けつけた。
- 日時 2016年6月30日(木) 8:00~/9:30〜
- 場所 JR新松戸駅(千葉県松戸市)/JR柏駅(千葉県柏市)
GPIFによるハイリスクな年金運用を批判!「これまでは安全に運用するのが常識だった」
水野氏は演説の冒頭で、アベノミクスのもとで年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の株式運用比率が引き上げられ、イギリスのEU離脱に関する国民投票に伴う株価大暴落により巨額の損失が生じたことを批判した。
「英国の国民投票の結果として、株価が急落した。その結果、年金の積立金という、一人一人の国民の財産が、大きく目減りをしてしまった」
「なぜ株価が急落すると国民の年金積立金が目減りするのか?それは、安倍総理がアベノミクスの名の下に、今までの政権では使ってこなかったような禁じ手を使ってきたから。このことが大きく関係しています」
禁じ手とは、GPIFの株式運用比率の引き上げのことである。つまり、我々の年金資金の運用先を、国債のような安定的な運用先だけではなく、ハイリスク・ハイリターンの株式市場での運用を増やしたのである。年金資金の50%をも株式市場に突っ込んでいる国は、世界のどこにもない。
「年金というのは言うまでもなく、老後のための安心安全のための財源ですから、危ない使い方をしてはいけないということで、安全に運用するというのが常識だったのです」
水野氏はさらに「国民の年金を目減りさせておいて、官僚や大臣が職を辞したところで、お金は戻ってこない。誰も責任を取れないような政策はやるべきではない」と批判した。
「アベノミクスという政策の大きい柱は、成長成長一辺倒、もしくは株価を高くすること一辺倒」
「しかし、成長した、というのならまだしも、マイナスもしくは横ばいのゼロ成長という形になっている。これでは、行き詰まりは明らかです」
そして、成長一辺倒のアベノミクスから、成長と分配を両立する政策への転換を訴えた。
「私たちは、成長をしっかりとおこなっていくためにも、分配にしっかりと目配りをした、格差の是正、同一労働同一賃金。こうしたところにしっかりと目配りをすることこそ、本当の意味での成長につながっていくと考えています」
「その時の国会の数の多数で押し切るようなことがあってはいけない」~昨年夏の国会の安保法制審議を痛烈批判!
水野氏は続いて、昨年の安保法制審議について、「自衛隊の国際貢献の話と、海外で武力を行使するというのは全く別の話であると述べた後、以下のように続けた。
「過去の歴史を振り返ってみても、一発の銃声が、その時には全く予想もしていなかったような泥沼の戦争につながっていくということが過去の歴史の中に多くございます。枚挙に暇がないと言った方が良いのかもしれません」
水野氏の話を聞きながら、すぐに思い浮かぶのは、オーストリア・ハンガリー二重帝国の皇太子フランツ・フェルディナントがセルビア人の青年にピストルで暗殺された事件である。このサラエボ事件がきっかけとなり、オーストリア帝国とセルビアの間で戦端が切られ、それが、「軍事同盟」という「集団的自衛権」のつながりによって各国が参戦し、第一次大戦が勃発してしまった、という原因である。
「だからこそ、こうしたことは極めて慎重であるべきであって、決してイケイケドンドンで進んでいく、そんなことがあってはいけない。ましてや、その時の国会の数の多数で押し切るようなことがあってはいけない」
水野氏は、参院環境委員会の理事を務めている。演説の中では環境問題・原子力発電についても触れ、自然エネルギーの普及促進を訴えた。
最後に、今回の参院選から適用される18歳選挙権について、選挙権の拡大は歴史的な転換であると述べた後、以下のように訴えた。
「政治の流れにおいても、歴史的な転換を起こしていきたい。一強多弱と呼ばれような、今の政治の状況に風穴を開けていきたい、大きな風穴を開けていきたい」
さらに水野氏は野党の任務について、「政権に対して厳しい監視の目を光らせること」であると述べ、それと同時に、「具体的な提案、建設的な対案をしっかり出していき、より緊張感のある、いい意味での緊張感を持った政治をつくっていきたい」と述べた。
岡田代表「安倍総理は政策論争で勝つ自信がない」
水野氏に続いて、民進党の岡田代表が演説した。
岡田氏は、民進党結党の経緯について、「巨大与党である自民党と公明党に対抗するため」と説明した後、安倍総理の演説について「『民進党は批判ばっかりだ』と言いながら自分が批判ばっかりじゃないですか」と述べ、以下のように続けた。
「政策で堂々と、議論していただくなら結構です。政党に対して批判ばっかりしている。日本国総理大臣として情けない」
さらに、投票日直前の2週間にテレビにおける党首討論が開かれないことは今までになかったと強く批判した。
たしかにこの点は、重大な問題である。我々有権者は、もっともっとこの点に対して怒らなくてはならない。民主主義は国民が判断をする政治だ。その判断の根拠となるのは、正しい情報が十分に与えられることだ。情報を出さない、野党と議論をしない、争点をぼかす。安倍総理の今やっていることは、きわめて非民主的なふるまいである。許されることではない。この点においては岡田代表の指摘は正しい。
「党首同士で議論して、失敗したら困る。政策論争で勝つ自信がない。だからテレビで(討論を)やらない。おかしいと思いませんか?」
「堂々と選挙戦をやっていく中で争点が煮詰まってくる。そのことについて党首同士がメディアを通して議論していく。そして、みなさんに判断していただくのが選挙じゃないですか」
「見えなくして、聞こえなくして、とにかく自分の言いたいこと、安倍さんは言ってますけど。私はこれは、民主主義の基本に反すると、そう思うわけです」
▲民進党・岡田克也代表
民主主義、法治主義、自由、人権、我々の生存権が危ない!「ここで道を間違えたら、もう後戻りできないかもしれない。これは普通の国政選挙ではありません」という岡田代表の危機感は「他人事」ではない
岡田氏は演説に先立ち、安倍総理に対して党首討論を申し入れ、さらに公開質問状を発出した。しかし自民党は回答を拒否。これに対して岡田氏は「そこまでして逃げたいのか」と強く批判した。
「今、時代の大きな分岐点、分かれ道なんです。ここで道を間違えた時に、もう後戻りできないかもしれない。これは普通の国政選挙ではありません。本当に選択の大事な選挙なんです」
二度とあと戻りできないかもしれない、という危機感は、これは本当である。岡田代表は、3分の2を許せば自民党が本気で改憲に踏み出してくると睨んでいる。
「国民の良識と、アベ政治の対決なのですから、皆さんの良識を投票とういう形で示していただきたいのです」
岡田氏はこのように述べ、日本の立憲主義・民主主義・平和主義に対する危機感をあらわにした。
次に岡田氏は安倍政権の経済政策について、「株価が高騰していた時は株価のことばかり言っていた」のに、「最近株価が下がってきたら、株価のことはそっちのけで『雇用だ雇用だ』と雇用のことばっかり言っている」、これは「ご都合主義ではないか」と批判。「都合の良い数字をあげて議論しても、決して生産的ではない」「大事なことは、国民の8割が景気回復を実感していないことだ」と述べた。
岡田氏は、非正規雇用の割合が4割を超えたことを挙げ、小泉内閣でおこなわれた派遣労働の原則自由化、さらに昨年の「正社員ゼロ法案」とも批判される派遣法改悪について、「こんなことしてたら、不安定な働き方が増えるに決まっているじゃないですか。方向が全く逆なんです」と批判した。
さらに、子どもの6人に一人が貧困、母子家庭父子家庭の2世帯に1人が貧困という日本の現状について、「先進国でこんな国はない」と批判。
「(子どもの)6人に一人が貧困、まともに温かい夕食を取れない子どもたちがたくさんいる。これが残念ながら今の日本の現実です。何とかしませんか、皆さん」
そして、民主党政権時代におこなった高校授業料無償化により、経済的理由で高校を中退する生徒が半分になったという実績を強調。それをさらに拡大して給付型奨学金の創設を目指すという考えを示した。
「分配と成長が、きちんと両立して、分配することが成長にもつながっていく。多くの能力のある子どもたち、やる気のある子どもたちがしっかりと学ぶことができたら、それは日本のためにももちろんなるわけです。そういう大きな意味での経済政策を、ぜひ私たちにやらせていただきたい」
岡田氏は、日本国憲法の平和主義についても話を進めた。はじめに国会での党首討論について、元々は月に1回開かれる約束だったにもかかわらず、実際には150日の会期中にわずか1回開かれただけだったことを指摘。その党首討論での質疑を引用し、次のように述べた。
「『総理、あなたの言う日本国憲法の平和主義って何ですか』と聞いたら、答えが返ってきました。驚きました。『侵略戦争をしないことだ』と。侵略戦争をしないなんて、当たり前じゃないですか。侵略戦争をしたら、国際法違反ですよ。許されないことです」
「日本国憲法の平和主義というのは、その程度の意味しかないのですか?違いますよね。専守防衛じゃないですか。海外で武力行使をしないということじゃないですか」
「私たちの先人たちの、70年前のあの悲惨な戦争、その反省に立って、私たちは専守防衛、海外で武力行使をしないと決めたんじゃないですか皆さん。それを変えていいんですか?3分の2取ればやってきますよ。だから3分の2取らせてはいけないんです。どうか、ここは時代の大きな分かれ道」
岡田氏はこのように述べ、危機感をあらわにしながら投票を呼びかけた。
「皆さんの周りでこの参議院選挙、『関心ない』とか『たいしたことない』とか『どうせ変わらない』とか、色んなことを言っている人がいたら、『それは違う』と、はっきり言ってください。『この国の将来がかかっているんだ。ぜひ投票に行こうじゃないか。3分の2を与党に許しちゃいけないんだ』と」
岡田代表が、ここまで鬼気迫る表現で、「この国の危機」について、真剣に訴えるのを、今まで見たことがない。どこかにいつも余裕があったと思う。これを「岡田さんも必死だな」などと、「他人事」のようにながめてはいけない。
今、本当に、危機を迎えているのは、「民進党」の党勢なのではない。民主主義、法治主義、自由、人権、我々の生存権、そのものである。
対外戦争を起こすためには、国内を国民総動員体制、すなわち戦時ファシズム体制に作りかえなくてはならない。安倍政権は本気でそれをやろうとしている。並々ならぬその野心を、ついに野党党首として、本気で受け止めたのであろう。
岡田代表の危機感を、「他人事」として、冷やかし半分にながめていては本当にいけない。