自民、民進ともに2人の候補者を擁立している激戦の千葉選挙区。改選議席数を上回るのでは?と風向きも良い共産党候補者を含めると、5人で3議席を争うデッドヒートとなっている。
「弁護士ドットコム」の社長であり自身も弁護士の元榮太一郎氏は、自民候補者の一人。40歳とまだ若い。期待のホープと言ったところだろう。6月26日、千葉県船橋駅東口で行われた元榮候補の応援に、党の茂木敏充選対本部長も駆けつけた。「期待の新人」と紹介し、「元榮候補の応援に行くと安倍総理も約束してくれた」と、党をあげて応援する熱の入れようだ。
- 弁士 元榮太一郎氏(参院選千葉選挙区候補・新人、自由民主党)
- タイトル 参院選 千葉選挙区 自民党 元榮太一郎候補 街頭演説
- 日時 2016年6月26日(日)17:00〜
- 場所 JR船橋駅南口(千葉県船橋市)
「有効求人倍率1倍、企業収益は過去最高70.8兆円、中小企業の収益も過去最高」
与党で統一されている「アベノミクス効果」の数字を、新人・元榮候補も例に漏れず、積極的に宣伝した。しかし、こうした数字は必ずしも今の日本の雇用状況の現実に示しているわけではない。
円高・株高の恩恵を受けやすい輸出企業を中心に、収益は確かに過去最高に達した。それによって従業員の給料が上がり、個人消費が増えればデフレから脱却できる。そう見込んでいた安倍政権だったが、現実は違った。
企業は給料を上げず、内部留保を溜め込む一方だ。実質賃金も5年連続で下り阪、安倍政権になってから下がりっぱなしだ。
なぜ賃金は上がらないのか。一つには、アベノミクスによる円安がもたらした一時的な「果実」は、このまま続くものではない、だからすぐには分配につなげられないという企業経営者の認識がある。
さらに、「中小企業の収益も過去最高」という元榮氏の主張だが、これはアベノミクスによる成果とは関係ない。中小企業庁が公表した「2016年版中小企業白書」の中で、中小企業の経常利益は過去最高水準に達しているものの、売上高の伸び悩みや人手不足、設備の老朽化といった課題に直面している実情が報告されている。つまり、売上高の伸び悩みを変動費や人件費の減少でカバーするという、中小企業経営者の涙ぐましい経営努力によって生み出された「過去最高益」なのであって、アベノミクスのおかげとは到底いえないのである。
もちろん人件費はどこも必死に削っているので、雇用や賃金のめざましい向上にはつながらない。中小企業の収益が過去最高といいながら、その数字は多くの経営者の実感とは乖離しているであろう。
元榮候補は弁護士であると同時に、自身も会社の経営者とである。その点を強調しながら、中小企業や小規模事業者に向けて次のように訴えた。
「日本経済の主役は中小企業と小規模事業者です。私も経営者として、自宅でひとりきり、会社を立ち上げて企業を大きく成長させてきた。社員がやめたり、売上がうまくいかないという中小企業、小規模経営者が悩みながら床についているその気持ちを国会に届けたい。
アベノミクスはまだまだ道半ばです。皆さんに実感が行き渡るように、私にやらせていただきたい」
「アベノミクスは道半ば」という自民党の候補者の常套句についてはここでは詳しく触れない。他の記事をぜひ、御覧いただきたい。
元榮候補は千葉県内の農業や水産業に力を入れ、千葉の経済を元気にしたいと訴えたが、アベノミクスを前進させることでどう中小企業の経営が潤うのか、その道筋を具体的に示すことはなかった。
弁護士の元榮候補に直撃インタビュー!憲法改正の狙いは「9条改正」か「緊急事態条項新設か?
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元榮候補の後にマイクを握った、茂木選対本部長は野党共闘を徹底的に批判した。
「民進党が共産党に擦り寄って、どんどん『左』になっている。考え方は、憲法、経済を持っても違う。この夏だけの選挙目当てだけで協力をする。
(野党の)『安保法制廃止』の先には日米安保条約廃止があり、東日本大震災や熊本地震で活躍した自衛隊を廃止するといっている。
北朝鮮が弾道ミサイルを打つ、中国が尖閣諸島に軍艦を持ってくる。日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増す中、自衛隊なしに、日米安保なしに、どうやって国民の安全を守るのか。こういった人たちに任せるわけにはいかない」
しかし、共産党の志位和夫委員長はかねがね、自衛隊については「急迫不正のときに自衛隊を活用するのは当然だ」と述べており、昨年9月にまとめた党綱領にも「日米安保条約の破棄」は盛り込まれていない。自民党の弁士らは、こうした「事実」には決して触れない。
演説終了後、IWJは元榮候補に直撃インタビュー。憲法改正で狙うのは「9条改正」か「緊急事態条項の新設」か、本人に意見を求めたが、元榮氏は明言を避け、次のように答えた。
「3分の2議席取れるかも分かりません。それは国民の審判だと思います。憲法改正に関しては、国民的議論が必要。大事なのは法律と違って、国民投票で過半数の同意がないといけない。国会議員は提案権しかない。提案して皆さんが変えたいものから変えていく、そのために国民議論が必要。まずは国民の声が聞きたい、そう思います」
元榮太一郎氏は、弁護士であり、弁護士ドットコムという言論メディア企業の社長でもある。憲法改正の持つ意味も、その手続きの重要性もわかっているはずである。もちろん、自身が出馬すると決めた自民党の改憲草案の中身への批判も把握しているはずだ。そうした人物が、こうした曖昧で中身の薄い回答をすることに、正直、落胆させられた。
若く、清新なイメージがあり、旧来の自民党の政治家とは違って、何かやってくれそうな期待感が寄せられている、といわれているだけに非常に残念なことに、改憲についての回答は、他の自民党の候補らと大差がない。
この参院選において、自民党は上から下まで徹底的に頰かむりを続けている。
国民に改憲についての情報を与えない。国民が知らない、気がつかない、理解をしないうちに、3分の2の議席をそーっと取ってしまい、そーっと発議して、そーっと国民投票をして、成立させてしまおうという魂胆がミエミエである。しかも、何を変えるのかさえ、この期におよんで口をつぐんでいるとうのは、あまりに不誠実ではないだろうか。