「いわゆるムラ社会の陰湿ないじめとしか思えない」
神奈川県議会での共産党県議団によるミスや不手際が改善されないとし、同党の代表質問権を剥奪しようとする動きが、2016年4月の議会運営委員会で提案された。この動きに対し共産党は「非がある点については謝罪し、適切に対応した」と反論、「代表質問の機会を奪うのは議会制民主主義の精神を踏みにじるもの」と強く抗議した。
しかし、自民党や民進党などの他会派は強硬な姿勢を崩さず、5月16日には本会議で「共産党に猛省を促す決議案」を可決。共産党を追い詰める一連の騒動は多くの市民の怒りを買い、5月12日、Twitterでは「#神奈川県議会」がツィート数3万件を超え、トレンド1位に入るほど注目を集めた。IWJは神奈川県庁に駆けつけた市民や共産党県議会議員、同党の質問制限の協議入りに賛同した多数会派の議員にも話を聞き、これまでの経緯をまとめた。
共産党支持者ではない市民も抗議に参加「議会制民主主義に反している」
「私は共産党支持者ではないので、共産党を擁護しに来たわけじゃありません。県民が投票して選ばれた議員たちの質問を制限するということは、多くの県民の意見を聞かないという態度。議会制民主主義に反していると思い、直接、自分の目で問題を確かめにきました」
IWJのインタビューに応じた40代の女性は、神奈川県南区在住。代表質問制限をめぐる協議が予定されていた5月11日の議運委を傍聴。翌日12日も再び傍聴に足を運んだ。
同じく横浜市在住の40代の女性は、「これを認めて前例を作ってしまったら、『神奈川県議会モデル』などとして、少数会派の意見を封鎖する動きが広がっては困るので抗議に来た」と訴え、共産党に対する他会派の態度は「ムラ社会の陰湿ないじめとしか思えない」と厳しく批判した。
神奈川県議会で見られる少数会派へのいじめは、今回が初めてではない。2015年5月の世田谷区議会でも、最大会派である自民と公明が、少数会派の発言権を制限しようと動いた。同区議会の上川あや議員がTwitterで情報を拡散すると、約50人の市民が世田谷区議会に駆けつけて抗議を行った。ほかにも、さいたま市議会や渋谷区議会で発言権の縮小が図られていたことをIWJは報じた。
自ら「質問の権利」を辞退するのと、他人が「質問の権利」を剥奪するのとでは意味が違う
昨年12月、神奈川県議会の文教常任委員会で、共産党委員の一人が自身の発言の真意をめぐり態度を二転三転させたことで、議論が未明まで続いたことがあった。共産党は議会運営に混乱を招いたとし、責任を取って、今年2月の定例会の代表質問を自ら辞退した。
しかし、今回の「代表質問制限」は自民や民進など、他会派からの提案によるもの。共産党が自ら質問権を辞退するのと、多数会派が寄ってたかって少数会派の発言権を奪おうとするのとでは、全く次元が違ってくる。共産党の質問権は県民から付与されたものであり、他会派の多数決でその権利を奪っていいわけがない。これは議会制民主主義の基本である。自民や民進などの県議会議員は何を勘違いしているのか。
さらに、16日に可決された「日本共産党神奈川県議会議員団の議会運営に対し猛省を求める決議」の中には、「再度このような事態を招いたときは、交渉の権利を有する団体の立場を辞する覚悟を持って議会運営に臨むとともに」という、交渉会派の権利剥奪まで匂わせる一文が盛り込まれている。
▲16日の本会議で配布された決議(案)
共産党は4月15日、代表質問を制限する協議入りに抗議する声明を発表し、5月16日には「猛省を求める決議」に抗議するコメントをそれぞれ発表。代表質問の制限や「猛省を求める」決議は、議会制民主主義に照らして断じて許されない行為だと抗議している。
昨年2015年4月、共産党県議団は神奈川県議選で6議席獲得で躍進し、32年ぶりに交渉会派に返り咲いたばかり。現職の県議会議員らは、いわば、新一年生である。「交渉会派として未成熟」と指摘されていることについて、同党は自身のこれまでの不手際を認めているが、質問権を奪う暴挙には「到底納得できない」としている。12日、IWJは神奈川県庁で共産党の君嶋ちか子、大山奈々子両県議を訪ね、胸の内を聞いた。
「国政で進んでいる野党共闘を妨害することになってはいけない」
▲共産党県議団の君嶋ちか子議員(左)と大山奈々子議員(右)
「すみやかな訂正をし、大きな混乱はきたさずに採決は行われた。間違い自体は申し訳ないが、大きな混乱はきたしていない。今回の代表質問制限はおかしい。私たちは投票で選ばれて、投票してくれた人たちの思いを受けて、この議会に来ている。もし、県議としての義務と権利を有する資格を問われるならば、それは選挙であろうと思っている」
川崎市中原区の君嶋ちか子議員は、3月に起きた同党のミスは他会派が問題視するほどの混乱ではなかったと強調。代表質問の制限は「議会制民主主義に反するものだ」とし、県民から負託された議員の質問権を他会派が奪うことはあり得ないと話した。
他方、大山奈々子県議はインタビューの中で、県議会の外から寄せられた応援の声に「感動した」と話す。