「子どもの居場所を明かさず、親と面談も通信もさせない。手紙などで通信させる場合は、必ず施設側が検閲する。面会・通信を制限し、収容場所を非開示にするのは、施設内での虐待やいじめ、子どもへの向精神薬などの投与などの問題を、闇に葬るためではないか」──晃華学園事件の訴訟で原告の代理人を務める南出喜久治弁護士は、疑念を口にした。
2015年12月3日、都内で晃華学園事件の第6回口頭弁論後の報告会が行なわれた。この事件は、原告の水岡不二雄氏(一橋大学特任教授)が、息子の伶龍(れいりゅう)くんへの晃華学園小学校の担任による体罰に抗議したところ、学校側は児童相談所に「父親が子どもを虐待している」と通報し、伶龍くんが児童相談所に「一時保護」されたというものだ。
2年が過ぎた今なお、親子は面会もできず、伶龍くんがどこにいるのかも「非公開」とされている。
第6回口頭弁論の概略を説明する中で南出弁護士は、晃華学園小学校の臨時保護者会で、校長が「不適切な指導があった。それに対してお詫びする」と発言し、担任教諭も暴行の事実を一部認めていることを紹介。「にもかかわらず、今回、被告は準備書面で『全部否認』をしてきた。これは真実に反する認否である。これだけでも被告の対応は不誠実だ」と批判した。
水岡氏は伶龍くんの所在が今も明かされないことについて、「本来、(児童相談所や児童養護施設の)施設長は措置権の名のもとに、親権者の持つ医療や教育をはじめとするあらゆる権利を制約してはならない。つまり、(親から)親権が奪われたわけではない」と前置きしたうえで、「ところが、児童虐待防止法の12条における面会通信制限や、場所の非開示により、親を子どもにアクセスできなくした上で、児童養護施設長が事実上の親権者になって、好き勝手なことをしている」と訴えた。
厚労省は、次の通常国会で児童福祉法の一部改正案を提出する予定だ。その中には「要保護児童に係る措置」について、児童相談所長の親権喪失請求権を18歳以上の未成年者(18歳と19歳)まで拡大する、との内容が含まれている。水岡氏はこれを問題視し、次のように話した。
「(改正案は)対象を現行の『18歳未満』から『20歳未満』へと2歳引き上げることがポイントだ。これにより、(18歳選挙権が成立したため)選挙権を持ち、政治活動の自由が憲法で保障されている18歳と19歳の若者を(虐待通報があれば)児童相談所が『一時保護』できることになる」
今年、SEALDs(シールズ)やT-nsSOWL(ティーンズソウル)など、若者を中心としたグループが国会前で安保関連法案の反対運動を展開し、大きな注目を集めた。水岡氏は、「児童福祉法の対象年齢引き上げの話が突如出てきたのは、SEALDsなどの若者たちの動きに、日本の支配層が危機感を覚えたからだ。これは有事法の一環をなしている。抑圧的な児童福祉法に反対しなくてはならない」と口調を強めた。
- 日時 2015年12月3日(木) 11:30分頃~
- 場所 LEN貸し会議室「虎ノ門天徳ビル」(東京都港区)
一度は暴行を認めながら、裁判では「全部否認」する学校側
南出弁護士は、「今回、被告から準備書面が出てきたが、その内容は『全部否認』だった」と憤った。
「これは確実に真実に反する。平成25年3月27日の臨時保護者会で、校長は『不適切な指導があった。それに対してお詫びする』と発言。そして、担任教諭が暴行の事実を一部、認めている。であれば、『全部否認』はできないはずだ。これだけでも、被告の対応は不誠実である」。
また、被告側が、「水岡氏の監護権は、伶龍くんの『一時保護』以後に制約されている。あるいは、児童相談所に事実上の監護権がある」と主張してきたため、南出弁護士は、どこにその法的根拠があるのかと異議を唱えたという。
「児童福祉法47条の措置権は、監護権ではない。ましてや、親権を優越する権限ではない。晃華学園の代理人は、どういう認識かわからないが、『事実上の監護権がある』という言い方をした。ここは大きな争点となる」。
さらに南出弁護士は、開示された臨時保護者会の報告書について、「そもそも、体罰問題で臨時保護者会まで開いている状況で、第三者機関に諮らず、事情聴取書などの文書も作らずに、『関係者に話を聞いた』という報告書だけで保護者会に臨むことは、まったく調査していないのと同じ。こういう状況を晃華学園が認めていることを、尋問に反映していく」と語った。その上で、ずさんな報告書を作成した学校側の体質や、児童福祉法への理解がないことを指摘したいとした。
通信文書の検閲は、いつから行われていたのか
晃華学園からの虐待通報に応じて、伶龍くんを「一時保護」したのは埼玉県の所沢児童相談所である。水岡氏は、この措置の取り消しなどを求めて、国と埼玉県に対して行政訴訟も起こしている。この日、南出弁護士は行政訴訟に関する報告も行った。
「12月16日に弁論がある。これも、向こう側からの反論待ち。当面対応する必要があるのは(面会交流制限の)執行停止だ。当初から制限されていた、という前提で相手は主張してきたが、『それまでは指導。最近になってから面会交流制限の処分をした』と(被告側が)言ってきたので、予備的な追加変更をした。新たにしたという処分も違法だから取り消せ、という主張をしている」。
これに関しては2013年6月28日、当時の水岡氏の代理人弁護士と、水岡氏とが所沢児童相談所と面談をしている。水岡氏が「(息子に書いた手紙などは)検閲になるんですか」と尋ねると、児相側は「そうです」と応じたという。
南出弁護士は、「最高裁判例では『収容者に対しては検閲に当たらない』と言っているが、この件では(一時保護された子どもは)収容者ではないから、確実に検閲である。『指導』の状態で検閲することはありえないから、その時点で『処分』されていることになる。今になって、『指導から処分に変更された』という埼玉県側の主張はおかしい」と述べ、主な争点はここにあるとした。
伶龍くんは、どこにいるのか──。埼玉県下には22ヵ所の児童養護施設があるが、全部を相手にするのは大変なので特定してほしい、と水岡氏側は求めている。収容されている施設を特定して、裁判を受ける権利がある、との主張だ。
「伶龍くんの居場所の開示を求めているが、できないと言う。それこそが裁判を受ける権利の侵害だ。どうしても拒否し続けるのであれば、こちらとしては埼玉県下の22ヵ所すべての児童養護施設を被告として、訴訟をしていく」。
児童福祉法の改正で市民運動をする10代が収容される可能性も!?
さらに水岡氏は、厚労省が2016年の通常国会に提出予定の児童福祉法改正案に触れた。「ポイントは、今まで児童福祉法の対象が18歳未満だったのを20歳未満と、年齢を2歳引き上げること。これは重要な問題であり、注意しなければいけない。なぜなら、いわゆる一時保護は、裁判所の令状もなく、証拠もない状態で、治安維持法と同じように子どもをしょっ引くことができるからだ。証拠は捏造でいい」。
今年の公職選挙法の改正で、選挙権が18歳から行使できるようになった。水岡氏は、「選挙権を持ち、政治活動の自由が憲法で保障されている18歳と19歳の若者を(虐待通報があれば)児童相談所が『一時保護』できることになる。最近も、安保法制反対ということで、SEALDsという学生団体が国会前などで活発な運動を展開した。こういう人々を(19歳以下ならば)理由も証拠もなく、『一時保護』と称して拘束することが、合法的にできることになる」と危惧し、このように力を込めた。
「この話題が突如出てきたのは、SEALDsなどが国会前で激しく安保法制反対運動に取り組んだことに、日本の支配層が危機感を覚えたからだ。これが有事法の一環をなしていることがはっきりしてきた。したがって、多くの人々が問題意識を持って、抑圧的な性格を持つ児童福祉法の反対に立ち上がらなければならない」
児童虐待防止法12条を利用し、児童養護施設長が事実上の親権者に