戦場で、人を殺し、殺される国へ ―― 「戦争法案」のどこが問題か。憲法学者・愛敬浩二名古屋大学教授が徹底解説! 2015.6.24

記事公開日:2015.7.1取材地: テキスト動画
このエントリーをはてなブックマークに追加

(IWJボランティアスタッフ:榊原千鶴)

 「大切なのは、この70年間、海外の戦場で、ひとりも殺さず、ひとりも殺されなかった戦後日本が、戦場で人を殺し殺される国へと転換する、という観点だ」――。

 安全保障関連法案を、「戦争法案」「平和法案」「安保法案」、いずれで呼ぶか。「安保法案」の呼称を用いる愛敬氏は、その理由から、法案の本質、問題点を論じる。

 2015年6月24日(水)、名古屋YWCAビッグスペースで名古屋大学大学院法学研究科教授であり、国民安保法制懇のメンバーでもある愛敬浩二氏が講演した。

 法律を見ているだけでは法案の全体像は理解できない。必読資料は「日米新ガイドライン」(「日米防衛協力のための指針」)。アメリカの利益のために日本を使い切ってやろうという姿勢、この新ガイドラインをまるまる活かそうとするのが安保法制である。愛敬氏はそう指摘する。

 以下、発言要旨を掲載する。

■ハイライト

  • 講師 愛敬浩二氏(名古屋大学大学院法学研究科教授)
  • 日時 2015年6月24日(水) 18:30~
  • 場所 名古屋YWCA(名古屋市中区)
  • 主催 戦争をさせない1000人委員会あいち

「潮目」がかわってきた安保法制議論〜大切なのは「通過させない運動」

愛敬浩二名古屋大学教授(以下、愛敬。敬称略)「6月4日の衆議院憲法審査会で、参考人として招致された憲法学者3名全員が、安全保障関連法案は『違憲』であるとの認識を示した。これを機に、本法案に関する世論調査(「共同通信」2015年6月20日、21日)を見ても、法案に反対は58%で、5月時点の反対27%から11%上昇し、自民党の中にも本法案の合憲性に疑問を持つ議員も現れるなど、潮目の変化を感じる。

 この雰囲気を今後も維持していけば、民主党が審議拒否をする可能性もある。国会の会期を延ばした結果、野党が審議拒否、採決に参加しないという対抗方法を取るなら、かりに国会を通過したとしても、自衛隊が実際に派遣される状況になったとき、野党は派遣に反対するしかない。

 維新の会を何とかして抱き込んで、採決には参加してほしいという安倍首相の動きは幼稚だ。維新の会はまだ、反対する態度を変えていない。維新の会や民主党が、本質的に平和な党かどうかは関係ない。それぞれの状況に応じてパフォーマンスを行う。だから大切なのは、通過させない運動を展開することであり、かりに通過してしまうとしても、混乱のなかで通過した、という状況を作り出すことだ」

「戦争法案」か「平和法案」か「安保法案」か?

愛敬「安倍首相側は、徴兵制も必要ない、国民全体が戦争に関わるような状況にはならないという方向で説明してくるだろう。そこで国家総動員法のイメージだけで反対していると、足下を掬われる可能性がある。重要なのは、日本は戦後、海外で、自国の利益のために人を殺していない、という観点だ。その意味でも、自分としては、『戦争法案』ではなく『安保法案』という名称を使う。

 安保法案の全体像を理解するには、新ガイドライン(「日米防衛協力のための指針」)との関係を見ていくことが必要だ。さらにできれば、新ガイドラインと様々な共通点をもつ『第3次アーミテージレポート』も見ていくといい。

 アーミテージやジョセフ・ナイといったジャパンハンドラーたちの総意、アメリカの利益のために日本を使い切ってやるという姿勢がそこに現れている。安保法制は、新ガイドラインをそのまま活かすためのものである。

 かりに解釈改憲が通れば、明文改憲は不可避になる。『自衛隊法改正法案』に関して言えば、いわゆる軍法裁判のない現在なら、自衛隊員が国外で上官の命令に違反した場合でも、通常の裁判所での刑事裁判となる。けれど海外に出ることになったとき、従来のこのような平和的な制裁手続きで、今後も自衛隊の秩序が保たれるとは思えない。

 石破茂・幹事長(当時)は、9条改憲により、自衛隊を国防軍とするのに合わせて、非公開の軍事審判所が必要だと発言した。『自民党改憲草案』第2章第9条の2 5(*)をお試し改憲したい。軍事審判所の設置は喉から手が出るほどほしい、本気のお試しを、とくに外交関係者、防衛関係者は望んでいるはずだ」

(*)「自民党改憲草案」「第二章 安全保障」(国防軍)第9条の2 5 国防軍に属する軍人その他の公務員がその職務の実態に伴う罪又は国防軍の機密に関する罪を犯した場合の裁判を行うため、法律の定めるところにより、国防軍に審判所を置く。この場合においては、被告人が裁判所へ上訴する権利は、保障されなければならない。

抽象論に終始する安倍首相の「言質を取られない工夫」

愛敬「安倍首相は、抽象論に終始している。アメリカとの関係で新ガイドラインを策定し、アメリカの議会で安保法案を通すと言った。安倍首相は、まさか6月の時点で、安保法制の違憲・合憲が議論されるとは思わなかったのだろう。

 安倍首相と中谷防衛大臣の発言が相違しているのは、閣内不一致ではない。意図的なものだ。安倍首相は抽象論に終始し、具体的な説明はしない。中谷防衛大臣は、説明を小出しにし、後々追及されても問題にならないように、海外に派遣された際の自衛隊の危険は以前より高くなると言っている。安倍首相は論点を錯綜させたくない。時間だけはかけたとして、言質を取られないよう工夫している」

「戦争」ではなく「戦闘」――安倍首相のレトリック

愛敬「安倍首相は、安保法案閣議決定後の記者会見(2015年5月14日)で、自衛隊が、かつての湾岸戦争やイラク戦争での『戦闘』に参加するようなことは決してない、と言っている。注意すべきは、『戦争』ではなく、『戦闘』と言っていることだ。

 これは実質的な参戦を可能とするためのレトリックで、湾岸戦争にもイラク戦争にも行くということだ。戦闘自体を目的として、自衛隊を派遣したわけではないが、結果として、戦闘に巻き込まれた、と言うのだろう」

  • 参考
  • 愛敬浩二「中日新聞を読んで 安倍首相のレトリック」(『中日新聞』2015年5月24日朝刊)

米軍基地の恒久化と米軍の下請け化

愛敬「米軍は、日本と日本の極東の安全のために駐留しているというのが建前である。2010年7月20日『朝日新聞』によるインタビュー(沖縄海兵隊は「防衛の決意」)で、マイヤーズ・元米統合参謀本部議長は、日本になぜ米軍が常駐しているのか、その必要性を明確に説明することはできなかった。日本を防衛するために米軍が必要ならば、仮想敵国に面したところに原発を並べているあの場所にいるならわかるが、なぜ沖縄なのか。

 日本の安全保障環境が良くなると、なぜ米軍の駐留は必要なのか、ということになる。尖閣問題が解消されると、アメリカは困る。尖閣のような小さな島で軍事衝突が起きたら迷惑だ。国際管理の下に置けば良いではないか。尖閣問題を理由にして、集団的自衛権行使へと向かう。

 現状では、米軍の駐留は常に正当性が疑われる。辺野古はすぐに海に出て行ける。基地の負担軽減などというのは嘘で、海上に出て行きやすいというだけだ。そして、集団的自衛権行使となれば、地理的限定がなくなる。

 もうひとつは、自衛隊の下請け化だ。軍事費が減っているアメリカにとって、下請けとしての日本という位置づけ。集団的自衛権行使を解禁してもらえば、給油などに使える。米軍基地の恒久化と米軍の下請け化、このふたつが在日米軍の理由だ」

まるでやくざの島の取り合い ―― 南シナ海をめぐるアメリカの思惑

愛敬「安倍首相の考えは単純で、アメリカと対等な関係になる、血を流す同盟と言っている。日本国憲法は拒否していて、なかでも9条は嫌いだ。

 安保法案でホルムズ海峡を例に引くが、危険なのはむしろ南シナ海だ。南アジアの人口は約5億6千万人、しかも若い人が多く、将来性がある。この南シナ海をめぐって、アメリカと中国は対立している。言うならやくざの島の取り合いだ。

 『アジア安保会議』でも、タイやミャンマーは中国よりだが、ベトナムやフィリピンは、中国に対して明確に敵対的関係をとっている。アメリカの思惑からすると、平和なASEANは困る。紛争があるからこそ、みかじめ料が必要になってくる。中国とアメリカ、帝国は小国の利害対立を利用する。

 アメリカは、ペルシャ湾まで行っている余裕はない。オーストラリア、日本という構図は、南シナ海が対象だ。アメリカも中国も大きな戦争はしなくても、小さな衝突はありうる。そのときアメリカは、日本、オーストラリア、韓国を引きずり込む。なぜなら国際世論に持ち込みたいから。そのとき、日本は拒否できるのか。いまの安倍政権は後方支援をやる。中国と対立しているアメリカの後方支援をすれば、中国は日本を攻撃することができる。

 南アジアで軍事衝突が起きたとき、有事法制が動く。本来はこの話をすべきなのに、安倍首相は南シナ海にはふれず、ホルムズ海峡の話をする。なぜなら、こうした事態を国民が知れば、引くからだ」

  • 参考
  • 『中日新聞』2015年5月31日朝刊「アジア安保会議 南シナ海 深まる亀裂」
  • 『中日新聞』2015年6月1日朝刊「アジア安保会議閉幕 ASEAN 足並み乱れ 南シナ海問題 中国依存で距離感 行動規範策定進まず」

集団的自衛権行使を前提とする新ガイドライン

愛敬「新ガイドライン(「日米防衛協力のための指針」2015.4.27)は、『Ⅳ.日本の平和及び安全の切れ目のない確保』とあるとおり、切れ目のないグローバル展開、すなわち集団的自衛権行使を前提としている。

 柳沢協二さんが、作戦計画というものは、平時からいろいろなケースを想定して作っておくものだ、と言っていた。だとすると、日米はあらかじめ、共同で計画を作ってしまうかもしれない。安全保障会議の場で計画が話し合われても、秘密保護法があるので国民は知らないまま。作戦が決まっていて、動いていたら、それを途中で止めてくれ、というわけにはいかなくなる。メディアでは議論されていなくても、平時から利用可能な同盟調整のメカニズムは重要だ」

いつでもどこでもどんな理由でも ―― 安保法制の全体像

(…会員ページにつづく)

アーカイブの全編は、下記会員ページまたは単品購入よりご覧になれます。

一般・サポート 新規会員登録単品購入 330円 (会員以外)

関連記事

「戦場で、人を殺し、殺される国へ ―― 「戦争法案」のどこが問題か。憲法学者・愛敬浩二名古屋大学教授が徹底解説!」への2件のフィードバック

  1. リー より:

    論点まとまっていて、読みやすかったし、理解しやすかったです。
    安部首相の抽象論と、中谷大臣の小出し情報は
    かなりあらわになっていますね。

  2. 自衛のためだけ!!1 より:

    日本は戦後の教訓から、自国を守る為の自衛以外に戦争してはならない!
    安保は戦前のように他国の武力抗争や日本の領土以外での戦闘行為を許可する法律だから、いけないのだ!

    アメリカのいいなりの安保は危険だ!
    自衛隊の本来の姿にして、自衛の為だけに法を戻そう!
    自衛の為だけだけの自衛隊を、アメリカの為の軍隊はいらない!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です