2014年10月に影書房より刊行された『選挙を盛り上げろ!』に、2014年1月に行われた東京都知事選に関する岩上安身へのインタビューが掲載されました。そのインタビューを、IWJ会員限定で転載します。脱原発だけでなく、TPP、国家戦略特区、日米関係がひとつながりにつながっていることを示すインタビューです。ぜひ、会員にご登録いただき、全編をお読みください。
(IWJ編集部)
2014年10月に影書房より刊行された『選挙を盛り上げろ!』に、2014年1月に行われた東京都知事選に関する岩上安身へのインタビューが掲載されました。そのインタビューを、IWJ会員限定で転載します。脱原発だけでなく、TPP、国家戦略特区、日米関係がひとつながりにつながっていることを示すインタビューです。ぜひ、会員にご登録いただき、全編をお読みください。
――投票率が低い選挙が続いています。「3.11」の地震と津波、原発事故を受けて、自分で考え、行動しなくては、という人たちが増えたと同時に、いざ選挙となると、一票を投じる難しさを感じた人が多かったのではないかと思います。
多くの人が、判断しきれず、選挙戦も盛り上がらないまま、空虚な結果を導き続けているように感じます。
2月(2014年)の都知事選ではそうしたジレンマが前面に押し出された選挙だったと思います。
選挙戦は空虚なほうが都合がいい人たちもいるのだと思います。
実際の政治の理念、政治の戦略や政略は一部の人間がわかっていればいい。それを多くの人が知ってしまい、議論が大きく盛り上がるようなことはなるべく生じてほしくない。そう考える人たちもいるんですね。一つ一つの事象で右往左往する大衆に、そのときどきに対症療法的に手当し、どうどうとなだめて、大衆が息切れするのを待てば、根本は変えないですみます。
それは統治の技術です。その統治の技術にまんまとはまってしまっているという状況でしょう。
まず、都知事選のときには、「脱原発」候補の「一本化」という話が出ました。
私は、その件でいち早く宇都宮けんじ候補と細川護熙候補の両陣営に直接確認をとったところ、両者とも「一本化の意思はない」ということでした。
「一本化」を求めているグループのリーダーである河合弘之弁護士に連絡をとると、彼らも告示前に細川候補本人と直接、面会して腹の中を確かめられたわけではないことを認めた。その現状を報じると、私は逆にバッシングを受けることになりました。「一本化」の動きに水を差している、と受けとられたんですね。しかし、両方の当事者に一本化への意志がないにもかかわらず、お見合いは成立するわけがない。当事者の意志が最優先です。どちらも譲る気がないなら、一本化は現実的ではない。ところが告示後も河合さんらは「そうするしかないんだ」と「一本化」を主張し続けた。それはどう考えても現実味がないと思いましたね。
告示後も「一本化」が唱えられ続けましたが、それは事実上、宇都宮さんにおりろ、という要求でした。それは告示後にはできない。法律家ですからわかっているのに、河合弁護士は、「おりるということを表明する言論の自由はある」などと言い出す。これは、宇都宮さんの立候補する権利を侵害し、有権者の選択肢を狭めようとする行為だったと思います。
――都知事選の前半は、「脱原発」候補の「一本化」の是非に話題が集中してしまいました。
原発問題だけを争点にするという、「シングルイシュー」の考えを都知事選に適用することも、私は疑問に感じました。
たとえば、官邸前での金曜デモのような場において、「この場ではアピールは原発のことだけにして」という「その場限り」のお約束として「シングルイシュー」の縛りをかけるのは有効だと思いますし、正当化されうると思います。しかし、都民の暮らしのすべてにかかわり、多様な政治課題がある都知事選挙においては、「シングルイシュー」を誰かが一方的に決めつけるわけにはいかないでしょう。原発の問題が、何よりも重要だと考える人がいても、もちろん構わない。しかし、失業をして仕事を探している人、介護をしている人、子育てをしている人、人それぞれに事情があり、問題の優先順位は違います。
また、そもそも東京都知事選は国政選挙とは異なります。実際には、原発を推進維持か廃絶か、というテーマは国政課題であり、東京は原発立地ではありませんし、都知事には直接の権限はありません。原発立地であれば、新潟県の泉田知事のように再稼働に歯止めをかけるべく知事の権限で粘り抜くこともできる。しかし、都知事にはそうした権限はありません。
それなのに、東京都で「原発問題だけ」を訴え、ほかの政策課題は2の次で考えなくてもいいと訴えるのは、何を言っても自由ではありますけど、やはり誤誘導ではないでしょうか。
――メディアは、どういった情報提供をすべきだったと思われますか。
私とIWJが都知事選のときにやったことは、原発はもちろんですが、それ以外にも、考えなくてはならない政治課題や社会問題がいくつもあると示すことでした。示した上で有権者の皆さんに自分で考えてもらうことでした。中でも重要なのは、「国家戦略特区」の問題であろうと思いました。これは都知事の権限にからみ、都民に直接影響が出てくる、重要なテーマです。
ひたすら規制緩和を進める新自由主義を良しとするかどうかは、かつての資本主義か社会主義かという対立と同じくらい重要な対立軸のはずです。原発に賛成か反対か、という対立軸に匹敵する対立軸だと思います。しかしこの都知事選では、その対立軸は、曖昧にぼやかされました。そういう空気作りがせっせと行われましたね。新自由主義の是非という対立軸は、非常に見えにくくされてしまいました。
細川候補は、告示前日1月22日の出馬会見で「岩盤規制といわれる、各種既得権に阻まれてきた医療、介護、子育て、教育などの規制改革を強力に進めていきたい」とはっきり発言しました。同じ日、安倍総理もスイスで開かれた「ダボス会議」での演説で、細川氏と同じく「岩盤規制」を打ち破ると世界に向けて宣言しています。両者とも、まったく同じ言葉で規制緩和を訴えたのです。
「国家戦略特区法案」は、秘密保護法が成立した昨(2013)年12月7日未明に成立しました。「特区」は、よく見ればTPPの先取りだとわかります。医療、教育といった公共サービスを市場に開放し、労働者の権利を狭め、大企業、とくにアメリカの多国籍企業の経済活動を優先させるために、邪魔になる規制を取り払おうとするものです。
つまり、細川候補は「脱原発」で票を集めつつ、一方では新自由主義的政策をすすめるつもりなのだと、私はその1月22日の出馬会見に出席し、自分の耳で話を聞いて理解しました。
そもそも国家戦略特区のどこに問題があるのか、都知事選とどのように関連するのか、識者に寄稿してもらう一方で、IWJでも都や候補者に直接取材をし、記事を配信しました。
今回の特区構想の前身である民主党・菅政権時の「総合特区」制度のこと、そしてこの時に東京都が指定を受けた「アジアヘッドクォーター特区」(2011年12月)のことにまでさかのぼり、特区に対する東京都の意向や、都知事選主要候補者4氏の政策・発言から国家戦略特区に対する考えを検証しました。
IWJが、都知事選における国家戦略特区の問題の重要性を記事にして発信したことは、議論の種を提供し、結果的に候補者や選対陣営、支持者の考えにも一定の影響を与えたかもしれません。
細川候補は、特区について、2月2日のフジテレビ「新報道2001」での公開討論では、「もう少し、中身をつめて考えたほうがいいんじゃないか」と語り、2月6日には「国家戦略特区については、雇用を守る方向での活用を考えています。昨年成立した、解雇規制の緩和、いわゆる『解放特区』については、慎重に検討するべきです」と政策に追記しました。細川氏の特区に対する考えは、出馬会見時の意気込みから「慎重に」という態度へ明らかに変化しました。
しかし、こうした論点の提供は、細川・小泉コンビを応援する脱原発支持者の一部には不愉快だったようです。ご批判もいただきました。中には、「IWJの会員だったが、細川さんを応援しないんだったらもうIWJを応援しない」とあからさまに言ってくる人もいました。
たしかに、我々には、空気を読んで大きな声を上げず、無難にやり過ごすという選択もあったかもしれません。損得だけを考えれば、経営上、そちらがプラスだったかもしれません。でも、それはおかしなことでしょう。そんなソロバンをはじいたら、メディアとして失格です。規制緩和する方がよいのか否か、公共サービスを次々と民営化していくことを是とするのか否か、特区を作って、混合診療を解禁にし、そこを突破口にして日本の国民皆保険制度が崩壊するのを受け入れるかどうか、やはり徹底的に議論すべきなんです。
細川陣営がテレビ討論をキャンセルし続けたために、大本命の舛添候補も「細川候補が出ないなら」とキャンセルし、主要候補がそろって政策や公約について討論するテレビ番組は次々とお流れになりました。これはいただけなかったと思います。
国家戦略特区の問題だけではない。高額奨学金や教育ローンの問題、雇用の問題、住居難民の問題、お台場カジノ建設計画の問題、築地市場移転の問題、我々が取り上げた問題はみんな、都知事選だからこそ、都民が考えるべき都政の課題です。
結局、2月の東京都知事選は、「原発だけ」を問題と考えてしまうと、都民の暮らしに関わる他の重要な政策課題が忘れさられる、そういう危険性がありました。
――たしかに、暮らしのあり方を問う選挙で、ひとつの問題だけを争点にするのはおかしなことでした。
(…会員ページにつづく)