【第200・201号】岩上安身のIWJ特報!米国は「戦略的にコアのない、バラバラに分裂した帝国である」 カレル・ヴァン・ウォルフレン氏インタビュー 2015.3.15

記事公開日:2015.3.15 テキスト独自
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(岩上安身)

 「フル・スペクトラム・ドミナンス」(Full spectrum dominance)――。

 「完全支配」を意味するこの単語は、対テロ戦争、イラク戦争を遂行したジョージ・W・ブッシュ政権を支えた米国のネオコンシンクタンク「アメリカの新世紀プロジェクト(PNAC)」により実現が目指された概念である(The Pentagon’s Strategy for World Domination: Full Spectrum Dominance, from Asia to Africa 、Global Reseach【URL】http://bit.ly/1sXmvCe)。軍事力の強化により、物理的空間のみならず、宇宙空間や情報空間をも含め、地球のあらゆる領域を米軍の力によって完全に支配することをもくろむ狂気じみた戦略構想である。これは、いかがわしい陰謀論などの話ではない。

 この「フル・スペクトラム・ドミナンス」に向かっての貪欲なまでの追求は、ブッシュ政権だけでなく、「チェンジ」を訴えたはずの現在のオバマ政権においても、現在進行形の国策として遂行されているのではないか。

私がこれまでにインタビューをした、アメリカン大学教授のピーター・カズニック氏、ドイツのヴィースヴァーデン在住のジャーナリスト、F.ウィリアム・イングドール氏など、海外の知識人はこぞって、現在のオバマ政権にひそむ「フル・スペクトラム・ドミナンス」追求の姿勢を指摘した。

 そしてもう一人、海外在住の知識人で、「フル・スペクトラム・ドミナンス」について言及した人物がいる。『日本に巣喰う4つの”怪物”』などの著者で、日本の政治情勢にも詳しいオランダ人ジャーナリスト、カレル・ヴァン・ウォルフレン氏である。

 ウォルフレン氏は、ユーロマイダンの騒乱から始まる一連のウクライナ危機、イスラム国の勢力拡大により混乱を極める中東情勢、さらにはTPPやTTIPといった経済ブロックの確立などを、米国による「フル・スペクトラム・ドミナンス」の一環であると説明。そして、そうした米国の政策にただひたすらつき従うだけの日本政府の対応を「米国の召使い」に過ぎないと断言する。

 その上でウォルフレン氏は「フル・スペクトラム・ドミナンス」、即ち米国による全世界の「完全支配」を、実現不可能な政策と断じ、米国は世界に比類なき力をもつ強大な帝国ではあるが、肝心の国家戦略にコアと呼べるものがない、戦略性がバラバラに分裂した帝国なのだ、と喝破した。

 これは傾聴すべき卓見であると思う。米国の行動に戦略的合理性を見出そうとすると、困惑せざるを得ない。一体、米国は世界を混乱させるだけでなく、自国を自壊させるようなマネをして、どうしようというのか、理解に苦しむのである。

 米国には、そもそも統一された、賢明で、整合性のある国家戦略や建設的な目的などないのだ、と気づけば、今起きている事態がよりクリアに見えてくる。もちろんそれは、決して愉快な事態ではないのだけれど。

 米国発の新自由主義と、軍産複合体が一体となって全世界を「征服」しつつあるかにみえる現在、私たちが真に「インディペンデント」であるためには、何が必要なのか。現在の世界情勢を的確に診断し、処方箋を提示する、必読のインタビューである。

記事目次

  • 金融の動きは「政治的ストーリー」に左右される
  • 実現不可能な空想的戦略「フル・スペクトラム・ドミナンス」
  • 日本はアメリカの「召使い」
  • 朝日バッシングはなぜ起きたのか
  • 「日本はもはや民主主義ではない」
  • 安倍首相が持っているのは戦略ではなく、空想
  • 日本は「ナチスのやり方を使う」のか
  • ウクライナで起こっていること
  • NATOの東方拡大の試み
  • マレーシア航空機撃墜事故が明らかにしたヨーロッパメディアの腐敗
  • ISISをめぐる状況
  • アメリカ内部の衝突
  • TPPとTTIPは阻止できるのか

金融の動きは「政治的ストーリー」に左右される

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▲カレル・ヴァン・ウォルフレン氏

岩上安身(以下、岩上)「選挙が日曜日(2014年12月14日)に行われ、その翌日、東証の株価が下落しました(※1)。日本の株価下落は、アメリカの株価下落に引きずられたものです。そのアメリカの下落価格は、石油価格が暴落しているためです。さらに、ロシアのルーブルが叩き売られる状態になっています。

 今、世界では何が起こっているのでしょうか。もしかしたら金融恐慌が起きるのではないかとも言われています」

カレル・ヴァン・ウォルフレン氏(以下、ウォルフレン・敬称略)「明らかに、多くの人々、ほとんどの人々が何が起こっているかを理解していませんし、気づいてもいません。これは、ロシア経済に大きなダメージを与えようとするアメリカのキャンペーンで、大きな政治的ストーリーの一部です。

 石油の価格はそのひとつですし、また、金融業界で起こっている諸々のことも同じです。複雑なので、今起こっていることに、ほとんどの人はついていけません。

 ですが、それに気がつくことは非常に重要です。日本の将来、ヨーロッパや世界の将来について関心がある人は、注意をはらわなければなりません」

岩上「北海ブレンド原油先物相場のグラフをみてみましょう。2009年は価格が安かったのですが、これはリーマン・ショックの影響です。

 景気が回復してから以降は、1バレルあたり100ドル〜120ドルで落ち着いていました。

 ところが、今年11月終わりに、70ドルまで下落しました(※2)。60ドルを切ると、サウジアラビアでさえ採算が悪くなると言われています。これが、今起こっていることです。

 その結果、ルーブルが暴落しました。対ドル相場は、フリーフォールのように落ちています。ウォルフレンさんは政治的な出来事だとおっしゃいました。これは通常の経済活動で起こっていることだとは思えません。

 さきほど打ち合わせのときに、ウォルフレンさんは、爆笑しながら、これは政治的な結果だとおっしゃっていました。これが、政治的な結果だとおっしゃっている意味をおしえていただけますか?」

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ウォルフレン「これが市場要因の結果ではないことに気がつくことは、とても重要です。それはナンセンスです。

 これらの動き全ては、意図的に引き起こされました。すべて、ロシアやロシア経済を弱体化させようとするアメリカのキャンペーンに関わっています。ロシアでプーチンの破滅の状況を作り出すためです。いくつかの理由から、アメリカはプーチンを排除したいのです。

 ウクライナの危機もアメリカによって引き起こされました。ヨーロッパの多くの人々、日本の人々はこれを理解していません。十分な背景知識もありません。ですが、これは一部なのです。

 覚えておかなければならない重要なことは、ロシア国内で、プーチンの友達やプーチン自身が、ネオリベラリズムの経済原則に対して多くのコミットメントをし過ぎてきたことです。

 理解されていないことは、ネオリベラリズムは、日本の安倍政権も実践していますが、アメリカのヘゲモニーの状況を作り出すということです。重要ですが、それはアメリカの経済的帝国主義です。

 私はEUの観点からこれを研究しましたが、2年前に出した結論は、今明らかになっています。中国人は何が起きうるのかを理解していたので賢く振るまい、中国の通貨を兌換できないようにしました。

 ロシアでは、プーチン、そしてエリツィンも、市場要因と呼ばれるものに屈してきました。大西洋の資本主義はロシアにひどい影響を与えました。プーチンが理解しなければいけない重要なことは、生き延びたいなら、このことから自由にならなければいけないということだと思います」

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(※1)総選挙の翌日の2014年12月15日、日経平均株価終値は17,371円58銭(前日比272円18銭の値下がり)。前週末の欧米株式市場が大幅安となったことを反映した結果と言われている。

(※2)国際指標となる欧州北海産のブレント原油は、12 月 1 日に1 バレルあたり 67.53 ドルとなった。6 月 19 日の高値(115.71 ドル)から、、4 割以上も下落。 (参考:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「最近の原油価格の下落について」)

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