【141001 再配信】岩上安身によるジャーナリスト・黒薮哲哉氏インタビュー(報告ツイートまとめ) 2012.5.30

記事公開日:2014.10.3 テキスト
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 新聞テレビでは決して報じられない事実。ほとんど黒薮氏しか取り上げていない問題、「押し紙問題」に取り組まれているジャーナリスト、黒薮哲哉氏へ、2012年5月30日にインタビュー。「押し紙問題」は、販売店だけでなく、紙面の内容にも関わってくる重要な問題。では、「押し紙問題」とは何か。タブーとされている領域について、黒薮氏に解説していただきました。

▲岩上安身によるインタビューに答える黒薮哲哉氏

 真村裁判とは。2001年、福岡県久留米市近郊で事件が。読売新聞ヒロカワで、真村さんという方が販売店を開業。営業が軌道に乗った頃、読売新聞から、一部配達エリア割り当て分を返してほしい、と。しかし、真村氏は先行投資をしていたため、断った。

 しかし、圧力がかかる。裁判となり、06年9月、真村氏が福岡地裁久留米支部で勝訴。その後の控訴も勝訴。さらに、読売は最高裁に。07年12月、完全勝訴。解決したかと思いきや、読売が手を回し、真村氏の販売店は潰れてしまうこととなった。

 押し紙とは? 文字通り押し売りした新聞。仮に2000人の読者を持つ販売店があったとする。雨の際などの予備紙として、2000部少々あれば事足りる。それなのに、例えば3000部一方的に押し付け、お金をその分余計に請求すること。これが押し紙。

 販売店は売れない新聞を抱える。強引な取引の押し付け。しかし読売新聞は「押し付けなどしたことなく、販売店が自分で買い取っている」と。自己責任だ、と。なぜ無駄な新聞を買い取ると主張出来るか。「折込チラシの収入を上げるため勝手に買い取っている」と。

 読売新聞は公称1000万部。その同数の折込チラシがありる。チラシの数も水増しされている可能性が。本来、購読者の数に合わせた新聞の部数、チラシの数、があるべき姿。押し紙によって、販売店から余計に巻き上げ、広告主からも水増しした広告料を取っている。

 押し紙は、明治以来続いている。深刻になってきたのは1970年代頃から。日本新聞販売協会が出している本によると、昭和4年に押し紙問題が記録されている。100部の新聞を従業員10人に割り当て、ノルマとし、売れ残りは個々買い取らせていたという記録。

 戦争中の合売店とは変わり、戦後、専売店制度というものが出来た。拡販競争が始まった。70年代、日本新聞販売協会がアンケートをとり、押し紙調査を行った結果、搬入される新聞のうち、全国平均8.3%が押し紙だった。

 新聞は、契約販売であり、本来は余るものではない。資源の無駄でもあり、専売店にも売り上げを強い、押し付け、広告主からは広告費を割増で頂く。なぜ、広告企業は水増しされながらもコストの高い広告費に?黒薮「新聞社との軋轢を恐れているのではないか」。

 「マスコミは世論を作れる。ニューヨークタイムスと比べても、読売、朝日などは格段に部数が多く、敵対してでもこれを正常化しようという流れはない」と黒薮氏。

 ある地方紙は、実売部数が2005年6月で1702部。チラシも同量で十分のはず。しかし、ミスタードーナツ2200枚。パチンコ屋やヨーカドー各2400枚のチラシ。5〜700枚も水増し。広告代理店も新聞にすり寄り、水増しに加担しているケースも。

 読売など大手だけでなく、地方紙でも押し紙は起きている。地方紙のシェアは県民間では強い。あまり水増ししなくても広告競争では勝てる。しかし、中央紙は部数で勝負しているから、押し紙が凄い数になっているケースも。

 なぜ黒薮氏はフリーになったか。1997年から独立。それまでは販売店の業界紙である「東京情報」という週刊情報紙に勤めていた。販売店を巡るうちに、押し紙問題を知った。押し紙が押入れいっぱいに積んであるのを目の当たりにしたこともある。

 産経5000部のうち2000〜3000が押し紙という販売店も。置き場所がない、と新聞本社に言ったら、「押し紙小屋を建てろ」と。裁判になったが、産経は「建てさせてくれ、と言われた」と主張。押し紙の多さで潰れ、押し紙代金を払えない、という裁判。

 押し付けか買取か。余っていたのは確かだが、押し付けを断ったという証拠がない、とし、販売店は敗訴。産経は「(押し紙代の未払い分を)払え」と裁判を起こし、結果、5000万の支払い命令が販売店に。強者と弱者の取引。

 新聞社は周到。新聞販売店に、販売部数を報告させる。押し紙は独禁法違反。契約では搬入された新聞は全て配らなければならず、残部は新聞社に関係はない。押し紙はなく、全て配っていたものとして、暗黙の了解で報告。その報告が裁判では販売店に不利に働く。

 真村さんを潰そうとした読売も、押し紙の報告がなかったとし、裁判でその点を攻めた。読売は、真村さんの店から、地元の有力者の弟に、真村さんの扱っていた部数を渡したかった。真村さんの店に改廃通達の前、店に押しかけ、暴力事件まで起きている。

 福岡地裁では、実際に購読者と契約している部数より水増しした部数を読売側に報告していた虚偽報告は事実だが、新聞販売店が虚偽報告せざるを得なかった背景を認め、真村氏勝訴。しかし、以後、読売からは配達する新聞が真村さんに回されず、閉店へ追い込まれる

 水増しされた折り込みチラシには、地方自治体の広報紙も含まれており、押し紙とは、広報紙も水増しの上、捨てているという事実も孕んでいる。税金の無駄遣い。

 押し紙の程度は社によって違う。フォーカスも報じている毎日新聞の内部資料。発証数を調べると読者の数がわかる。約251万部だった年、395万部が出ていた。144万部が水増し。月間、21億6000万円のお金が生み出され、年間、295億2000万。

 36%が押し紙の毎日。これだけの押し紙代を販売店が支払うのは困難であるため、補助金が出る。読売は押し紙ではないと言い張っており、余っている残紙の数というが、ある販売店では2400部中920部が残紙。約4割。他店の例でも3〜4割が残紙。

 大阪での押し紙裁判では産経の4割が残紙。半分以上、7割などの例も。日経については専売店も少ない。日経もある、という人もいるが、押し紙についてのデータはない。京都新聞では、押し紙裁判が最近あった。こうした事実は、ほとんど報じられない。

 京都新聞は3割程が押し紙。09年12月、5700部中1512部が押し紙、と黒薮氏。広告収入が落ち込んで今問題となっている。ナベツネ氏が公言したように、読売広告収入が10年間で1600億円程度から半減した。だからこそ押し紙は暴露されたら困る。

 黒薮氏は3つの裁判を抱えている。一つは真村裁判と関わっている。真村さんと同じ地域の販売店が、真村勝訴を受け、押し紙を無くそうと弁護士に相談。その頃、ギクシャクした関係改善のため、読売が真村さんを訪問。関係改善の兆しを黒薮氏がwebに書いた。

 そこで黒薮氏が引用した読売の文章を、著作権をたてに削除するよう訴えてきて裁判となった。仮処分が来たが、裁判所へ。そこで引用文を外せ、とし敗訴。しかし、本裁判に持ち込み、完全勝訴。読売の文は弁護士が書いたものであり、著作権の前提が崩れた。

 二つ目の裁判は、先述の裁判の2週間後。やはりwebに書いた記事が原因。久留米文化センター前販売店に対し、読売は契約解除の通告を読み上げ、販売店からチラシを持ち出した。それを「窃盗」と書いた。名誉毀損で訴えられ、2230万の損害賠償請求された。

 本来記事とは十分取材し書くものだが、事態が事態であり、速報として緊急で書いたという。同時に、反論があれば、読売の言い分も載せる、とした。この裁判は、地裁、高裁で黒薮氏が勝訴。これは08〜09の間の出来事。

 しかし、最高裁で覆された。「窃盗」という表現が評論か、事実の摘示かで問題となった。高裁まではレトリック、評論とみなされて勝訴。しかし、最高裁はこれを認めず。敗訴は確定で、損害賠償請求額は500万まで減っているが、大きな痛手。

 契約解除を言いわたされた販売店主は昨年56歳で死去。帳簿を出さなかったため、読売側が、どこの家が購読契約をしていたかを調査。そのためにかかった費用を店主側に請求する裁判を起こした。店主は死去したため、奥さんが引き継いでいる。

 三つ目は、週刊新潮に書いた記事。滋賀県で新聞の購読誌の調査が行われ、押し紙を推定するデータが出た。それをもとに、黒薮氏は読売の押し紙が3〜4割あるのでは、と、評論として推測を書いた。そのため、読売から、週刊新潮と黒薮氏が、訴えられた。

 地裁と高裁で負け、現在、最高裁に回されている。黒薮氏はこの三つの裁判は「言論弾圧」であるとし、福岡地裁で裁判をおこした。一審判決が7.19に出る。しかし、おかしな裁判で、原告の陳述書は受け付けないとなっている…弁護団が覆したが

 2011年3月から裁判所の変化を感じる。言論に対する締め付けが厳しくなってきている。秘密保全法も浮上。読売にはTMI総合法律事務所がついており、元最高裁の判事が3人再就職している。裁判当事者としては不公平だという印象を受ける、と黒薮氏。

 元読売の清武氏の告発と、その清武氏に対する読売の損害賠償請求訴訟について。球団を盛り立て、チケットを景品に、新聞を拡販する手法が古くなり、今では機能していない。そこから内輪揉めが始まったのではないかと黒薮氏は推測。

 警察にしても、公正取引委員会にしても、押し紙の問題で新聞に対し取り締まりをすべきである。しかし、行われていない。権力は新聞に甘い。新聞も、権力批判が甘くなる。押し紙問題は、そういう意味で、販売店にだけでなく、紙面にも影響する。

 再販価格とは。どこの販売店でも同じ新聞の値段は同じ。販売店相互の競争がなくなる。これは新聞社には都合が良く、販売店が成長して強くなることもない。力関係の維持は押し紙の維持。この再販システム維持を求め、新聞業界は国会議員を巻き込んで騒いだ。

 政治家と新聞社は結びついている。新聞販売店の業界団体から、政治献金も行われている。政界、官界、言論界が結びついている。新聞はクロスメディア制でテレビも握り、ごく一握りの資本が報道・言論界を握っている。

 他紙の押し紙についても批判してきた黒薮氏。しかし、読売だけが訴えてきて、販売店への圧力も突出。他紙は押し紙をある程度認めている。特に産経は変わりつつある。朝日も実売部数で勝負すると秋山前社長は言っていた。読売は、押し紙は一部もないと言い張る。

 黒薮氏が取り組み続ける理由。それぞれ自分のジャーナリズム感がある。自分の思う正しさを、誰かの圧力に屈して曲げたら、後の仕事に響く。自分を貫くことがこの仕事。自分自身が潰れないためにも、手を引かない。

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「【141001 再配信】岩上安身によるジャーナリスト・黒薮哲哉氏インタビュー(報告ツイートまとめ)」への1件のフィードバック

  1. 55kurosukeさん(ツイッターのご意見) より:

    岩上安身によるジャーナリスト・黒薮哲哉氏インタビュー(報告ツイートまとめ) http://iwj.co.jp/wj/open/archives/172447 … @iwakamiyasumi
    新聞が絶対に取り上げない「押し紙問題」。これは詐欺でもあり犯罪と言ってもいいだろう。勇気ある黒薮氏に心からエールを送ります。
    https://twitter.com/55kurosuke/status/517638065188110337

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