自衛隊が多国籍企業の私兵に!? 「辺野古と集団的自衛権のトリックを見抜け」 〜京都沖縄県人会事務局長・大湾宗則氏インタビュー(柏原資亮 記者) 2014.9.18

記事公開日:2014.9.22取材地: テキスト動画独自
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(IWJテキストスタッフ・関根)

 「Xバンドレーダーのために、ここが攻撃されたらどうするのか、と防衛省担当者に質問したら、『レーダーは他にもたくさんあるから大丈夫』と答えた。つまり、あってもなくても、どちらでもいいのだ」。京都沖縄県人会事務局長・大湾宗則氏は、Xバンドレーダーは役に立たないと主張した。

 2014年9月18日、京都市内にて、IWJ記者が大湾宗則氏に話を聞いた。大湾氏は「米軍Xバンドレーダー基地反対・京都連絡会」の共同代表を務め、京丹後市経ヶ岬での米軍基地建設を止めるために、さまざまな活動を行っている。

 父親が沖縄出身で、関西で育った大湾氏は、戦後沖縄の基地闘争、辺野古基地問題、日米地位協定、そして11月に控えた沖縄県知事選の見通しなど、多岐にわたる話を展開した。

 「辺野古新基地と集団的自衛権を関連づける議論はトリックだ」と指摘した大湾氏は、軍事予算が自衛隊を海兵隊に転換させるための装備に使われていることを批判。海兵隊仕様となった自衛隊が、総合オスプレイ基地となる辺野古に駐留する狙いについて、アジアに進出している日系企業(多国籍企業)の劣悪な労働条件に不満を募らせた現地国民の反対闘争に対し、「(当該国政府からの要請があれば)集団的自衛権を使って、辺野古から自衛隊を派遣するではないのか」と推察した。

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故郷の喜怒哀楽を共有する沖縄県人会

 インタビューは大湾氏の経歴を聞くことから始まった。大湾氏は1941年、大阪生まれ。西成の差別が激しい地区に育つ。昨年まで10年間、京都沖縄県人会の会長を務め、現在は事務局長。沖縄の基地問題を関西から支援していたが、昨年2月、京丹後市経ヶ岬に米軍のXバンドレーダー基地の建設が決まり、その反対運動の先頭に立つことになった。「米軍基地は、沖縄にも京都にもいらない」と、反対運動を精力的に続けている。

 「第2次世界大戦の際、沖縄からもたくさんの人が徴兵され、戦地に送られた。しかし、終戦後、彼らは舞鶴など本土に戻されて、アメリカに占領された沖縄には帰れなかった。そのため、各地で沖縄県人会を作り、沖縄への渡航制限の撤廃運動を始めた。県人会は沖縄出身者の身元保証をしたり、お金を融資したりする互助会のような存在だった」。大湾氏は沖縄県人会について、このように説明した。

 京都の沖縄県人会は1987年に結成されたが、沖縄は1972年に本土復帰を果たし、社会も変わって、県人会は文化サークルのようになっていたと、大湾氏は振り返る。「転機は1995年。沖縄での米兵による少女輪姦事件から基地反対運動がわき起こった。2005年、自分が京都沖縄県人会の会長になって、『親睦と交流、相互扶助。そして、故郷の喜怒哀楽をともにする』という方針を立てた」。

 京都沖縄県人会は、2007年、沖縄戦での日本軍による集団自決事件が高校の歴史教科書から削除された教科書問題で撤回闘争を初めて行い、2008年には、沖縄で再び起こった少女暴行事件に抗議する集会とデモを開催するなど、現在に至るまで、沖縄との問題意識を共有した活動を続けている。

総合的オスプレイ基地になる辺野古

 辺野古基地移設問題について、大湾氏は「なぜ、日本政府はこれほど辺野古にこだわるのか。オスプレイ基地として活用したいからではないか」と話す。辺野古周辺にはキャンプ・シュワブ、キャンプ・ハンセン、辺野古弾薬庫、八重岳米軍通信所が点在。海を埋め立ててV字形滑走路を作り、佐世保にいる強襲揚陸艦を大村湾に停泊させる。「このように、辺野古ならばトータルなオスプレイ基地が完成する」と大湾氏は語った。

 大湾氏は「経ヶ岬Xバンドレーダーは、アメリカ陸軍工兵隊が建設する。業者選定や資材搬入は、米軍の座間基地がとり仕切っている。しかし、辺野古の場合は日本政府(防衛省)が建設する。いずれ米軍は一旦撤退するだろうが、自衛隊との共同使用にして有事駐留でいつでも来られるようにする」と語り、「これが今後の基地のあり方になるだろう」と見立てる。

 その上で、「辺野古にこだわっているのは、将来、日本の軍隊が辺野古基地を中心にして、アジアに向けて活動するため。つまり、米軍の影に隠れて、日本の軍事基地を作っているのだ」と指摘した。

 大湾氏は「辺野古のきれいな海を見たら、平和とはこういうものかと、誰でもわかる。希少種もたくさんいる。そこを埋めるなど、人間のすることではない」と憤る。「アメリカではコウモリの生態に影響するとか、15〜16本の抗議電話などで(オスプレイ配備が)止まるのに、辺野古では140万人が反対の声を上げても無視する」。

 さらに、「アメリカはさかんに『アジアが軍事的重要地域』と吹聴し、オーストラリア、韓国、フィリピン、日本、タイ、インドネシアなどと共同軍事訓練をしている。それは(共同にすることで)訓練費用を軽減させ、各国の軍備をアメリカ仕様にさせて儲けているのだ。2013年、アジアでは3218億ドルの軍事費を使っており、2010年に較べて23%アップしている。つまり、アメリカが、アジア人同士で戦争をするように操っているのだ」と実態を分析した。

「戦争」のためではない兵器を買う狙い

 「安倍首相は中国や北朝鮮の脅威を語り、新基地建設は日本防衛の抑止力だと言う。一国では守れないので、集団的自衛権が必要だと主張する。しかし、本当にそうか」と大湾氏は疑問を投げかける。

 日本政府は、中期防衛計画で軍事予算を25兆円計上した。今年はオスプレイを17機、グローバルホーク(無人偵察機)、F35ステルス戦闘機、水陸両用戦闘駆動車を購入。去年はヘリ空母の護衛艦『いずも』が完成している。

 大湾氏は「これは、国家間の戦争のための兵器ではない」と言う。「たとえば、オスプレイは滑走路のないジャングル、砂漠、山岳、市街戦などで威力を発揮する。ただし、すぐに撃墜されてしまうので、制海権と制空権が確保されていないと使えない。つまり、ミサイルや核を持っている中国や北朝鮮に使うということは、ありえないのだ」。

資本主義を守るための軍事力

 さらに、「辺野古新基地と集団的自衛権を関連づける議論はトリックだ。日本の軍事予算は、自衛隊を海兵隊に転換させるための装備に使われている」と述べて、海兵隊仕様となった自衛隊が、総合オスプレイ基地となる辺野古に駐留して何をするのかを、次のように話した。

 「アジアには世界から多国籍企業が進出しているが、全体の60%が日本企業資本だ。ところが、日系企業の労務管理のあり方やアジア蔑視の姿勢、劣悪な労働条件に現地労働者は不満を募らせ、インドネシアでは200万人のゼネストがあった。ストライキのスローガンは『われわれは日本企業の奴隷になりたくない』というものだ。また、インドのスズキの工場では暴動が起きている」。

 このような労働争議は反政府闘争に結びつきやすい。つまり、アジアでの多国籍企業の紛争解決に、(当該国政府からの要請があれば)集団的自衛権を使って、辺野古から自衛隊を派遣するではないのか、と大湾氏は推察する。

 日本政府は中国や北朝鮮を仮想敵国にして、集団的自衛権行使や軍事予算費の必要性を説くが、大湾氏は「今は、戦争の形が変わった」と強調。「局地での紛争がほとんどで、国家間の戦争はない。反対勢力を叩くための内紛だから、オスプレイや水陸両用戦闘駆動車が役に立つ」と述べて、「集団的自衛権の行使とは、資本主義の仕組みを覆すことは許さないという、世界の支配者たちの同盟だ」と看破した。

 柏原記者が「今の話を聞くと、集団的自衛権を行使する可能性がぐんと上がる」と応じると、大湾氏は「日本政府は、慰安婦問題、竹島、尖閣諸島、靖国参拝、教科書問題などを持ち出して、なぜ、中国、韓国、北朝鮮を繰り返し挑発するのか。集団的自衛権のために、日本国民の敵対意識をマスコミを使って盛り上げるためだ」と力説した。

 そして、「政治は、そういう手の打ち方をする。もし、沖縄で仲井眞知事が再選して、辺野古の基地建設にも目処が立ったら、政府は手のひらを返したように、中国、韓国と和解する方針に切り替えるだろう」と予測を語った。

武器を売るため、緊張感を煽る

 次に、京丹後市のXバンドレーダーに話題を移した。レーダー基地ができることで攻撃対象になるのでは、という地元住民の不安に対して、防衛省の役人は「ここがやられても、(レーダーは)他にもたくさんあるから大丈夫だ」と答えたという。

 「つまり、あってもなくてもいい、ということではないか」と大湾氏は苦笑し、レーダーは役に立たないことを、今年3月のマレーシア航空機の行方不明事件や、4月に韓国で無人機が3機も墜落したという例を挙げて話した。

 「PAC3、イージス艦の迎撃ミサイルが撃ち落とせないから、Xバンドレーダーが必要だと言うが、それも怪しい。東アジアの緊張はみんな見せかけで、緊張感を煽って武器を売る。日本も兵器産業をやりたくてたまらない。だから、武器輸出解禁をやった」と指摘した。

 しかし、京丹後の人たちは「お上が決めたことだ。どうしようもない。反対しても覆せない」と諦めの境地だという。大湾氏は「住民1000人から反対の署名を516筆集めた。過半数は反対なのに、5月27日に工事着工、10月にはレーダー搬入予定だ。反対運動は今ひとつ盛り上がらない」と残念がる。

米軍に「使いにくい」と思わせることが一番

 次に柏原記者は、日米地位協定について見解を聞いた。「日本はアメリカに基地を提供する。どこに基地を置いてもいい」という全土基地方式が一番の問題だ、と大湾氏は言う。「基地の運用については、アメリカの絶対権限を認めている。日米地位協定は憲法より上位で、国内法は適用除外。アメリカの要求をすべて承認する。治外法権だ」と説明した。

 続けて、「京丹後市には、9月20日から米軍人や軍属が160人来る。地位協定では、彼らには入国手続きは不要で、住民登録もしない。定員が増えても減っても誰も把握できないし、日本人との事件事故を起こしても、基地に戻ってしまえば罪を問えない」と述べた。

 そして、「アメリカにとっては、周辺住民の同意がないことが大きなプレッシャーだ。ただし、集会とデモの効果ではなく、米軍にとって、使いにくい場所だと思わせること。沖縄は、どんなに小さなことでも文句を言い続けてきた」と述べて、朝鮮戦争で米軍基地拡張が始まり、農地接収をめぐる大闘争が起きたことなど、過去の経緯を語った。

日本の行く末を変える沖縄知事選 ~仲井眞知事に反対しなかった翁長氏

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